兵助を探してあちこち駆け回っていたら、何やら川の流れる音と共に、女の子達の声が聞こえてきた。こんなとこでなんだなんだと、草影から覗いてみると前掛け姿になって川遊びをするくのたま達がいた。うわー、なんというラッキー。これはこれは大変に目の保養だ。
兵助を探すのはまぁ、少しくらい遅くても問題ないだろう。それよりも、この癒しの光景を目に焼き付けておこう。助平だとか変態だとか思う人もいるかもしれないけど、これは健全な男児の反応であり、寧ろここを素通りしていく方がおかしいといえる。
キラキラと太陽の光で反射する水飛沫。それを可愛い笑顔でうけるくのたま達。細くしなやかな腕や水に浸って足の形をそのまま写し出している下衣は着衣している状態とはいえ官能的だ。はー、前掛けだけだから胸は少し動く度に、ちらちら見えてて、何て言えばいいのだろうか。大胆に見えているよりチラッと見えて想像を掻き立てられる状態の方が興奮する。
もう兵助なんてどうでもいいや。小言は沢山言われるだろうけど(それもう小言とは言わないかな)こんな素晴らしい瞬間に立ち会えた事に比べれば全然いいかな!

にこにことその光景を眺め続けていると彼女達はある一点を見てなにか叫び始めた。

「もー、ごりえちゃあん!!こっちきて一緒に遊ぼうよ!」

え?まって。ごりえちゃんって確かくのたまにいるゴリラだよね?
雷蔵が何故か彼女に惚れてしまって、三郎が嫉妬に狂う女みたいになった元凶のゴリラだよね?
なーんだあいつもいるならさっさとここから退散しようかな。折角いい眺めだったのに、ゴリラが来たらぜーんぶ帳消しになっちゃうしね。まだ眺めたりないというのも事実だけど、それよりもゴリラにこられる方が厄介だ。
そろりそろりと気配を殺してその場から去ろうとしたら、気になる言葉が耳に入ってきた。

「ごりえちゃん不破くんのこと好きなのに、それを煩悩だからって滝修行はちょっとやりすぎだよね」
「ねー。私達はくのたまだから、煩悩って訳ではないと思うんだけど…。ああ、滝修行しながらスクワット始めちゃったよ」
「そんなに好きなら付き合っちゃえばいいのにね」
「不破くんもびしばしってリードしてくれればいいけど、似た者同士だからもじもじしちゃうし」
「見ててもどかしいよね」

え?え?何々その面白い話。動きを巻き戻すように、後ろ歩きでもどり、先程の定位置へと身を寄せる。
なんだって?あのゴリラも雷蔵のことが好きだって?ひ、ひええええええええ何それ何それ!そんな面白い展開ある?!しかもその気持ちを認めなくて滝修行しながらスクワットって、何してるの?!

先程の下心とは裏腹に好奇心でゴリラがいるという滝の方へ目を向けると、滝が岩に塞き止められてた。あ、ゴリラだった。まって、スクワットしてるということすらまず常軌を違してるけど、流れ落ちている水が、スクワットの勢いで押し戻されてる。俺、もしかしたら夢でも見てるのかな……。
あり得ない光景に口が半開きになっていたから、急いで下顎を上へ押し上げ彼女達の会話を待った。


…………


もう何回目になるか分からないスクワットは、暫くしてようやっと終わり、ゴリラとゴリラを呼びにいった二人が此方側にいる二人の元へ戻ってきた。

「少しは落ち着いた?」
「…うん」
「さっきもいったけど、好きって気持ちは悪いことじゃないんだよ?シナ先生もいってたじゃん。恋をすれば女はより綺麗になるって」
「でも、その、本当に私なんかでいいのかな。やっぱり何か賭け事とかして私と仲良くしてるんじゃ」
「それはないって!私達ちゃんと本人に確認してきたもの」
「あれだけ脅したんだから間違いないわ」

雷蔵……かわいそう。三郎が前に実習で遠出してたときだな。
てゆうか改めてゴリラを近くでみて気づいたのだが、体と顔は厳ついのに、声がめちゃめちゃ可愛い。目をつむってたら完全に美少女だこれ。

「だからさ、修行だけじゃなくてお買い物したり、美味しいもの食べたり、女磨きも大切なんだから!」
「お、女磨き…」
「そっ。たしかに色の授業はごりえちゃんいい成績だけど」

嘘でしょ???!?!え?ゴリラが色????ゴリラにってこと???え?

「自分のことになるとてんでダメなんだから。今回のことをきっかけに、そういうこともちゃんと治していかなきゃ!」
「じゃなきゃ雷蔵くんみたいないい人、すぐに掠め取られちゃうんだから!」
「そ!それは、嫌だな…」
「じゃあ、即行動!!」
「う、うんっ」

まずいまずい、彼女達は水浴びをやめて町か、忍術学園へと戻るところだ。すぐさま気配を消して走り出す。はー、凄いこと聞いちゃったなぁ。こんな面白いこと早く誰かに話したくて仕方がない。
まずはやっぱり三郎だよね。あいつゴリラに関しての話すると、普段の飄々とした感じからは考えられないほど発狂するから面白いんだよね。えーと、三郎は今日何かしてたっけ。雷蔵と修行するとかしないとかいっていたような気がする。よし!そしたらとりあえず忍術学園に戻って訓練場にいるかどうか確認してこよ。
ぷぷぷ。雷蔵とゴリラが両思いだなんて知ったらどうなるんだろうなぁ。

ざっざっと木々の上を渡っていると何やら上空を黒い大きな影が飛んでいった。なんだ!?
辺りを警戒し瞬時に身を潜める。生い茂る葉っぱの隙間からそれを確認すると、ゴリラが空を飛んでいた。

何をいっているか分からないと思うけれど、事実をそのまま、直球に伝えたつもりだ。
もう一度いうけど、ゴリラが空を飛んでいた。その他のくのたま四人をのせて。

どうしよう。俺本当に病気かもしれない。

何も考えることができず、ぽけーとその様子を見守る。
気付いたときには俺は忍術学園の自室にいて空に羽ばたく鳥達を見ていた。ゴリラには翼なんてものあったのだろうか。それともゴリラにだけしか使えない特殊な忍術か何かなのだろうか。

「おい勘右衛門!!何で一人で帰ってきてるんだ!!ずっと隠れて待ってたのに……これじゃあ修行にならないだろ!」
「……」
「おい、聞いてるのか!?」
「ねえ兵助」
「あ?」
「ゴリラって空飛べるんだね」
「……」
「……」

後の兵助は俺のことをこう語っていた。

あの時の勘右衛門は世界の全てを知ってしまったような悟り具合だったと。


20190105
加筆修正済

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