雷蔵に想い人ができた。すこし悔しい気持ちはあるものの、喜ばしいことだし雷蔵が幸せになれるよう全力で応援したい気持ちでいる。

ただし、相手の女がまともなやつに限ることだが。

この注釈をいれるということはそうなのだ。まともじゃないのだ。
こんなことを言われたら大体の人間はどんな奴なんだろうかと興味を示すことだろう。是非私としても聞いてもらいたい。
その女、はっきりといってしまうがゴリラなのだ。見た感じは人間の風貌をしているが、あれは人間の皮を被ったゴリラで間違いない。ちなみに同級の八左ヱ門、勘右衛門、兵助は口を揃えて「ゴリラだ」といっていたから、あれはゴリラであることは確実。
しかし、雷蔵だけは何故か「筋肉の付き方とか、腰のシュッとしたかんじとか綺麗だよね。あっ、別にそのイヤらしい目で見てるとかじゃなくて!その、ちゃんと毎日鍛練してて偉いなって意味でね!」と可愛らしく頬を染めて焦りながら話していた。きっと幻覚を見せられているに違いない。あのゴリラは本当は何処かの城から遣わされた忍なのかもしれない。いや、忍犬ならぬ忍ゴリラか?
詳しく説明をすると、そのゴリラは明らかにどの忍たまよりもデカい。身長的にも勿論だが、筋肉の付き方もガチガチのムキムキだし肩幅とか太ももとか私の腰より太い。女性特有の胸の膨らみも明らかに胸筋である。あれで性別が男だったら確実にいろんな城からオファーが来るだろう。引く手あまたで就職に苦労なんかしない。そんな強靭な体を持っている。

そもそも何故そんなゴリラに雷蔵が惚れてしまったか。それには深い理由がある。話が長くなるが付き合ってくれ。

それはある日のおつかい帰り。
雷蔵と八左ヱ門と学園長に頼まれたお菓子と事務用品を買いに出かけ、のどかな小道を歩いていたときだった。学園まであとすこしと言うところで熊がでたのだ。出産が近い母熊だったため、気性が荒く私たちを見ただけで襲いかかってきた。熊避けの鈴も、臭いもそんな状態では意味がないためひとまず散開して逃げることになった。落ち合う場所は学園の門の前。ひやひやしながら熊から逃げるも、落ち合う場所に雷蔵が来ないのだ。まさか熊に襲われたのでは?!と心配になり二人で来た道を戻ると、そこには完全にのびきって目を回している熊と、その目の前に立つがたいのいい男?綺麗な小袖をきて。誰かが女装でもしてるのか?と最初はおもった。

全くもって訳のわからない状態だがそいつの影に雷蔵がいるとわかった瞬間全てがどうでもよくなった。八左ヱ門と一緒にかけよりともかくお礼をいっておこうと相手を見ると先程の男が女装している疑惑は確信に変わった。だがあまりのそのガタイの良さと女装の似合わなさから、不審者では?と警戒していると、明るい声の主がその不審者の元へ降り立った。
よく見るとそれはくのたまの上級生でその不審者へ話しかけていることから推測するに、くのたま……ということになるのだろうか……。いや、どういうことだ。こいつは男だろうに。
「いやーよかったね熊に殺されるとこだったんだから、ちゃんとごりえちゃんに感謝しなさいよね。じゃあ先に戻ってるからね」
「……」
そいつらは軽くお辞儀して忍術学園へ戻っていった。
「なあ三郎」
「なんだ八左ヱ門」
「あれってくのたまなのか?」
「話から察するにそうだろう」
「俺さ、とても申し訳がないんだけど…ゴリラにしか見えなかった」
「安心しろ私もだ。むしろ人間として認知できていなかった」
「そっか、俺だけじゃなくてよかったぜ」
「雷蔵も大丈夫だった……」
「どうした?」
あまりの衝撃に雷蔵を忘れてしまうという、落第確実のとんでもない失態をしてしまった。
直ぐに振りかえると雷蔵の様子がおかしすぎて思考が停止した。となりにいる八左ヱ門もそうなのだろう。言葉を発していない。
雷蔵がくのたま二人の向かった方向をみてボーッとしているのだ。顔を真っ赤にして胸の辺りで手を組んで、まるで恋慕う男を待つ乙女のように。
雷蔵かわい…ではなくて、まて、どっちにだ?
八左ヱ門の方へ目だけ向けると同じことを考えていたのか、アホみたいな顔をして此方を見ていた。

わかる、わかるぞお前の言いたいこと。
後から出てきた方に惚れているのだろう。それはそれで多少ムカムカもするが、まぁ、私が見極めていいやつであれば認めよう。しかしだ。万が一にもないかもしれないが、もし、あの不審者くのたまに惚れたとなったら話は別だ。全力で雷蔵を説得する。それか、国中這い回ってでも腕のいい医者をみつけて診てもらう。
どこをどうしたらあんなのに惚れるのだろうか。明らかに幻術にかけられたか、雷蔵の人体に何らかの異常があるに違いない。
「ら、雷蔵…そろそろ帰るぞ」
八左ヱ門が現実に引き戻そうと声をかける。はっとしたかのようにこちらに気づき、「あうん、そうだね」と笑う。

それからというもの雷蔵はボーと何処かを見ていることが多くなった。兵助や勘右衛門にもどうしたのと聞かれる始末。二人に事の顛末を話すと本人に確認するのが一番だと言われた。そんなことして最悪の言葉を聞いてしまったら私は死んでしまうか、大気に溶けて消えてしまう自信がある。
あの二人は悪魔だ。嫌だといっているのに四人で聞きに行こうと無理やり引っ張られた。あのときの八左ヱ門もなんだかんだ言って楽しそうな顔をしていたから同罪だ。(今度あいつの顔をしてくのたま教室へ忍び込んでやる)

「あ、えと……うん、そのあの時熊に教われそうにはなったんだけど、颯爽と現れて助けてくれたんだ。それからあの子を思うと胸が苦しくなったり、幸せになったりで。多分恋しちゃったんだと思うよ」

死んだ。
けれども雷蔵のそのたどたどしくしゃべる姿と、やっぱりあの不審者に惚れているということへの怒りで瞬時に輪廻転生した。安心しろ雷蔵。かならずその目を覚ましてやるからな。


・・・・・・・・

何日かたったある日食堂でメニューを選んでると、例のくのたまが同級と一緒にやってきた。彼女たちも昼食をとりに来たようだ。
その瞬間だ、雷蔵が、雷蔵がっ!

「あ、あの時の子だよね!」

いきなり話しかけたかと思うと、ゴリラの武骨で逞しい手をとり

「と、友達からでいいんで僕と仲良くしてくれませんか!?」

二度目の死を迎えた。その場にいた乱太郎たちに支えてもらい、なんとか意識を保ちつつその場を見ることしかできなかった。あの迷い癖のある雷蔵は何処へ行ってしまったんだ。

食堂がざわざわしはじめ、相手のゴリラはわたわたしている。このくそ女、頷いてみろその丸太みたいな首掻き斬ってやる。

「ほらごりえ!」
「あの…えと、私なんかでよければ…お友達に」
「え、ほん本当?!」

恥ずかしげに首をたてに降るゴリラに殺意と、嬉しそうな雷蔵に心が浄化されて、結局驚くほどに無心になった。なんだこれ、すごい。凄く無。

温かな拍手に包まれて、一人とゴリラは顔を赤くしてお互いに頭を下げあっていた。
はー、雷蔵は天使だなぁ…。


20181211
加筆修正済

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