薬研ととん平焼き




今日のお昼はお好み焼き。

野菜やお肉も準備し終えて、さあ作りますかと気合いをいれる意味をこめて割烹着を腕捲りした。

「こっむぎこ、こっむぎこ〜」と呑気に口ずさみながら水道下の収納をあける。ここに粉類やボールなどをしまってある。
目的のものを見つけ、引っ張り出した瞬間違和感に気づく。
粉が漏れている。

嫌な予感がし、ゆっくり小麦粉の袋を回して観察する。
裏の下部、小さく破られた穴があった。その瞬間血の気が引いた。

「いやああ!!」

思わず小麦粉を手放し、床が一面粉まみれになる。あっ、と我に返る。しかし、今はそんなことを気にしてはいられない緊急事態なのだ。

「どうした大将!!」

私の悲鳴を聞き付けてか、今日のお留守番組の薬研を筆頭に皆が厨へ駆けつける。

「緊急事態です…今日の内番は事態が終息するまで中止です!」

ざわざわと困惑の声がする中、長谷部が「何があったのですか?!」と声をかけてくる。
息をのみ皆の顔を見据える。緊張した表情ばかりが並ぶが、今一番深刻な表情をしているのは私だろう。
正直この仕事を始めて、ここに住み始めたときからまさかこんなこと起こるわけないだろうとたかを括っていた。しかし、やはり家は家。それに日本家屋だ。起きて当然の事だったのだろう。
 
深く息を吸い、皆がきちんと聞き取れるよう言葉を吐き出す。

「鼠が出ました」
「な、なんだって!?」
「小麦粉が既にやられていました。もしかしたら他の粉類や米などもやられているかもしれません!今日は鼠駆除の仕掛けをして、食料の確認をします!」

どん!と効果音がつきそうな勢いで宣言したが、事態を深刻に捉えてくれているのはどうやら歌仙だけのようで、あれ?と拍子抜けしてしまう。

確かにこの中で料理が大好きな刀剣は歌仙くらいだ。その為なのだろうか、あまりこの必死さは伝わってないようだ。燭台切が聞いたら卒倒しそうな話なんだけどなぁ。

ごほんと大袈裟に咳き込み
「これから直ぐにこんのすけに頼んで鼠取りを送ってくれと頼むので、その間にどこにどう設置するかを皆に伝えます。どれだけの数がいるかはわかりませんが、早急に手を打たないと今後の本丸の食料事情に大きく影響がでますので本気でやるように」
「主命とあらば!」
「おう!」「はーい」
などなど、皆返事がよろしい。


すぐにこんのすけへ事情を伝え、物資が届くのは早くても二時間後くらいになると言うこと。大量に頼んだからそれくらいはかかるのだろう。

「さて、これか“ぐうううう”」

これから何をするか指示を出そうとしたところで、誰かの豪快で主張の激しいお腹の音が聞こえてきた。
音の元を目で追う。私以外の皆もその音の元へ目を向けた。
一斉に視線を注がれたのは薬研だった。

涼しい顔で腕を組んでいたが、流石に視線が集中していることに気づくと、はっはっは!と大口を開けて笑い「わるい、腹が減った。昼を食べてから本格的に鼠駆除作戦しねぇか?」と爽やかに提案してくるのだった。

その態度になんだか気を抜かれてしまい思わず笑ってしまう。

「そうですね、まずは腹ごしらえをしてから全力で挑むことにしましょうか」

いざ料理をつくろうといったところで気づく。
そういえば今日のお昼、お好み焼きにしようと思っていたんだった。

しかし肝心の小麦粉…。
目線を恐る恐る後ろへ向けると、儚く散ってしまった白い粉の山。
元々鼠にかじられていたから使えないは使えなかったけど、それでもなんだかやるせない。
まぁまぁ、掃除はなんとでもなるのだ。それより準備しておいたこの野菜やお肉達、代替え案が必要なのだ。

「今日のお昼、お好み焼きの予定だったんです。小麦粉以外は全部準備しておいたのですが…皆、何か代替え案ありませんか?」

即座に答えたのは言い出しっぺの薬研。なんだか声を殺すように笑っている。
長谷部が後ろで「おい、真面目にやれ!」とその態度に苦言を呈している。

「たいしょ、こういう時はあれがあるだろ?」
「あれ?」
「ほら、俺が顕現したての頃。今日みたくお好み焼き食べるぞーってなったとき、俺が間違えて」
「ああ!」

そこまで言われて思い出した。
私が審神者を始めて間もない頃、それこそ先程薬研がいっていたとおり顕現して間もない頃。
何時ものようにご飯をつくるのを手伝ってもらっていた際、薬研がお好み焼きで使うための卵を先に溶いて焼いてしまったのだ。

「とん平焼きですね!」

まさにその日も、置いてきぼりを食らった野菜や肉達を炒め、卵でつつんだ。それだけで別の料理へ早変わり。

「とんぺいやきとはなんですか?」我が本丸へ来たばかりの今剣は、首をかしげて隣にいるにっかりに尋ねていた。
「二人ほど申し訳ありませんが手伝ってもらって良いですか?」ときけば長谷部が待ってましたとばかりに一番に返事をし、歌仙も緩やかな返事で後に続く。鳴狐と薬研には鼠駆除の時に使う軍手や他の道具の準備をしといてもらう。

ブルーな気持ちは、皆と動いていればいつのまにか色を変えてしまい、足取りも軽くなった。



…………


その後、とん平焼きで力をつけた私たちはきびきびと罠を仕掛け、煙をたき、追い詰め、想像していた日数よりも早く駆除することに成功したのだった。


20240502



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