エイリア9

何一つ理解しないまま大阪の女子サッカークラブと試合をし、無事に勝ったわけだが、予想以上に彼女達は強かった。
雷門にも女子選手はいるが大半は男子。対して大阪は全員が女子。それなのに性別のハンデなんか感じさせない試合内容だった。

まだ中学生だからそこまで差はないという人も世の中にはいるだろう。けど、雷門は全国優勝したチーム。大会不参加だった強豪と試合する機会が増えていて、短期間ではあるがその力は当時とは比べ物にならないほどだ。
それなのに、彼等に食いついていける彼女達はすごい。
少し羨ましいとさえ思ってしまうほどに。

そんな少しのジェラシーを感じならがら、彼女達の強さの秘訣を大はしゃぎで聞いている円堂達を見る。 私も教えて貰いたいくらいだ。

「ね、ねぇ」
「ん?」

控えめな掛け声と共に肩をつつかれる。
振り向くと吹雪が遠慮がちに此方を見ていた。

「おつかれ」
「ありがとう。えと、試合どんな感じだったかなと、思って」
「あぁ…うん、そうだな。凄く良かった」
「ほんと!?」

それはもちろん。見た感じだが、試合中のメンタルヤバ組はそこまで緊張している様子がなかった。若干相手に翻弄されて戸惑ってる部分はあったけど、エイリアと試合をしているときのような感じは見受けられなかった。

「ここ最近で一番“サッカーしてる”って感じだった」
「ふふ、ずっとサッカーはしてるよ」
「分かるでしょ?この旅で見てきた試合で一番楽しそうな感じがしたよ」
「僕も、その楽しそうというか、上手く出来てた?」

ここ最近の不調というか、精神的にプレーがうまく出来てないことを自分でも自覚してるんだろう。

「うまくって、どういう定義かは分からないけど、動き方は力が抜けてて良かったと思う。なんだかんだ得点もしてたし、ディフェンスの方でもサポートに上手く回れてたし。ポジションとかそんな詳しくはないんだけど、吹雪ってオールラウンダーなの?」
「うーん、まぁ、そんなとこかな…」

なんだその曖昧な感じは。
そこまでポジションに関して考えてこなかったとか?いや、流石にこの旅に同行しててポジション知らない、興味ないなんてことはないだろう。分かってなくてもそういう教育はされてそうなのに。
じゃあ、また別の理由?

「ふぶ「ダーリン!!」…は?」

声をかけようとしたその時、後ろからとてつもなく大きな声が聞こえた。しかもダーリン?
流石に皆その声の元に注目する。

「ダーリンにお願いされたら…しゃーないな。教えたるわ」
「ほ、本当か?!」
「けど、ウチこれから用事あんねん。残念やけどまた明日な?明日の朝ナニワランド集合な!絶対やで!待ってるからな、ダーリン!」

嵐が過ぎ去ったという言葉が適切だろう。多分チームのキャプテンである子が、一之瀬をダーリンと呼び、そしてまたナニワランドにきてと伝えて走り去ってしまった。

話を全部聞いてなかったからなにがなんだかわからない。
とりあえずキャラバンへ戻り各々休憩してから練習するかという流れになる。そんな中私は一之瀬の元へ行き「ダーリンや、何がどうなったの?」とふざけながら聞くと、物凄く疲弊した表情で「はは、とりあえずエイリア学園のアジトっぽいとこへつれてってくれるって……。はぁ…」
大分お疲れのようだ。


…………


練習していて思い出したが、栗松くんとも一度話しとこうと思ってたんだった。
先程彼の姿を見たとき、腰を痛めてそうな仕草をしていた。これは早急にコルセットでも巻いて練習メニュー変えた方がいいなとか考えていたら元々の目的に気づいた。

「なんでヤンスか?」
「腰、痛みある?それか違和感とか感じてる?」
「えっ?!!」

リアクションからして図星らしい。

「とりあえず応急処置するから、上捲るか、脱いで」
「いや、そ、そんな!」
「照れる暇があるなら早く脱いで」
「は、はいでヤンス」

何故かサッカー部の一年は少し強く言ったら直ぐに大人しくなる。うち(野球部)の一年なんて生意気で元気が取り柄の奴らしかいないから、人の話をきかない奴らばかり。それとくらべたら楽で助かる。

手当てをしながら、今の状態とこれから練習メニューを変えることを提案する。それと絡めて彼のメンタルに関しても。
練習を変えるなんて余計に焦るだろうが、こればっかりは守ってもらいたいところだ。

怪我をしていいパフォーマンスなんてものは絶対にできない。エイリア学園のことがあって、風丸程ではないけど焦る気持ちがあるのもわかるけど、元気な体あってのスポーツだ。

「練習するよりも心のコントロールの方が何倍も難しいよ。けど、ここで焦って無理したら余計に悪循環になる。他の人にも沢山吐き出してみて。勿論私でもいいから。それだけでも大分変わると思うからさ」
「オイラ…正直しんどいでヤンス。けど、キャプテン達がいるから頑張れるって気持ちもあるし、怪我で離れていった皆の分まで頑張りたいって気持ちもあるし」
「うんうん」
「だから、自分から諦めるってことだけはしたくないでヤンス」
「なら、怪我で自滅なんてことだけはしないように今できる事を堅実にやっていこ」

その後二人で円堂鬼道達の元へ向かい、監督とも相談して、腰に負担のかからない練習メニューへなんとか変えてもらった。ただ、今日限定で。
これが慢性的なものなのかもまだ分からないし、どの程度のものかも本人にしか分からないので、明日は様子を見てということ。
まぁ、監督の方は表情が何一つ変わらないのでどういう考えなのかは知らないけど。


…………


「はっきり言う。円堂がキャプテンであることは大正解だ。円堂だから皆ついていく。信頼しているし、絶対大丈夫だっていう安心感がある。そういう存在ってなかなかなれないし、いないんだよ。
けど、そういう存在がチームにプレッシャーを与えることもある。それだけは頭の隅っこにでも置いといてほしい」

目の前の円堂は真剣な表情で話を聞いてくれた。


今、私は円堂とサシで喋っている。
何でそういう状況になったか。
皆で町の銭湯へ行った。さぁ銭湯を離れるぞとバスに乗ったのだが、私と円堂が置いてかれてしまった。十中八九確認ミスだろう。

携帯で連絡を取り、バスが帰ってくるまでの間円堂にずっと聞きたかったことをぶつけたのだ。


“円堂は今のこのチーム、どう思う?”


円堂は誤魔化したり茶化したりしなかった。愛媛で私に旅へ同行するかの意思確認をした時のように、真剣な表情でその質問に向き合ってくれた。

結果から話すと、皆が多少なりとも不安に思ってたり、うまくいかないことで悩んでたりしている事を知っていた。けれど、自分達は今まで色んな壁を乗り越えてきたから絶対大丈夫と、そういっていた。
正直周りの苦悩はあまり意識できてないのでは?という不安があったから、意外と周りを見ていることに驚いた。ただ、個人的にはその後の答え、楽観視しすぎではと感じるが。

それに返した私の想いが、最初のあの言葉。
こんなこといったって、円堂がどうこう出来る問題ではない。むしろ本人に言うことではないだろと感じる人もいるだろう。
これに関しては当該者達が自分でどうにかしなきゃいけない問題だ。手助けくらいは出来るけど、最終的には彼らの気持ちの問題。

自分が覚悟を決めてだした言葉なのに、少しの後悔と罪悪感が湧き出てくる。
だが、私の考えに反して円堂は「ははは!」と声を出して笑った。
なんだ?!いや、なんで?と驚きながら彼を見る。

「苗字ってかーちゃんみたいだよな!」
「は?」
「俺と風丸って幼馴染みでさ、昔から一緒にサッカーして遊んでたんだ。んでかーちゃんに、風丸くんサッカー以外のことも本当はしたいんじゃないの?って言われたこと思い出した」
「…」
「本当はさ、もっとこうした方がいいんじゃないか、ああした方がいいんじゃないかって色々考えたりもするんだ。でもサッカーでのことなら、俺自身のプレーで気持ちを伝えられるんじゃないかと思ってるんだ」

一理あると思ってしまった。

「苗字みたいに直接意見を言ってくれるの助かる。そうなんじゃないか?って思ってた事が確信できるからな。それに…やっぱり俺サッカー馬鹿だから、色々見逃してることとかあって、誰かが言ってくれたら本当にありがたいんだ」

私、円堂の事を全然知らないんだな…。
今までは、サッカー馬鹿で何事にも一直線に進んでいく努力の天才。ただ、あまり思慮深くはなく、その一直線さ故に周りをあまり見ていないと思っていた。
実際は全然違ったし、想像以上にしっかりしていた。普通に“円堂守”という人間に尊敬の念すら抱きつつある。

「お、キャラバン戻ってきたぜ!」
「うん」

何事もなかったかのようにニコニコ車を見つめている。

「円堂」
「ん?」
「絶対皆でエイリアに勝とうね」
「おう!」

夕陽のせいかもしれないけど、その時の円堂の笑顔が眩しすぎて、目を細めてもちゃんと見ることができなかった。


…………


次の日、ダーリンこと一之瀬の犠牲で、大阪ギャルズ(そういうチーム名らしい)の面々からエイリアのアジトらしき場所へ案内してもらった。

なんとその場所はナニワランドにあるビックリハウスの裏。スタッフしか入ってはいけない場所だ。
よくそんな所へ入ったなと、彼女達の破天荒なところを誉めるべきなのかどうなのか。その件に関しては今回の事には関係ないので考えないでおこう。

中は物置小屋のようになっていて、こんな小さな部屋がアジト?と皆で辺りを見回していたら浦部が何かの機械をいじる。すると部屋がガタガタ音がなり「こっちやで!」と先程の入り口の階段へ手招きする。

なんとそこは先程の外の光景ではなく、別の部屋が続いていた。

「オ、オレたち、たしかに遊園地の外に出たはず」

なんだかよく分からない機械が陳列していて、雑多に段ボールや木箱などが置かれている。いや、散乱しているといった方が正しいかもしれない。

「これ、黒いサッカーボール!」

円堂の驚く声が聞こえる。
そこにはエイリア学園が使っていた、古ぼけた黒いサッカーボールが転がっていた。それにリカ達がいうには、ここを見つけたときはホコリだらけで、自分達が勝手に使う際掃除をしたとか。

それってつまり、今はもうここを誰も使っていないということ。
同じことを考える人はやはりいて、鬼道が独り言のように「何故まだこんな町中にアジトを残している…。他にもなにかに使っているのか?」と呟いていた

色々疑問はつきないが、下の修練場へ降りてみようということになる。
エレベーターで下に降りてる際、頭の中で考え事がグルグルと回っていた。

ここの世界は、前世の世界よりも技術力といえば良いのだろうか、科学の力が明らかに進んでいる。影山に連れていかれたときも、そこの施設は映画で見るようなTHE近未来って感じだったし、そもそも世宇子との試合のスタジアム浮いてたよね?
だからこそこの施設もエイリアンが作った!といわれれば納得は出来たりするけど、人間がつくりました!と言われても同様に納得できる。
つまりだ、“エイリア人間説”どんどん深みを増していく。


下へ降りて広々としたグラウンドの数々を見ているうちに練習欲を掻き立てられるものが多発して、アジト捜索を後回しにして練習をすることになった。浦部を筆頭に大阪ギャルズの面々からここは自分達の遊び場なんだけど?!と一悶着あったのだが、ダーリン()のお陰で事なきを得たし、なんなら浦部が旅へ同行することを申し出てきたらしい。
そのとき私は鬼道を手招きし、皆から少し離れた位置で例の事をきいてみていた。


「ねぇ、私さ、エイリア達って人間じゃないかなって思ってるんだけど…どう思う?」
「は?!」
「しっ!静かに」

予想よりもいいリアクションしてくれるもんだから、周りを見て皆がこっちのほうに注目していないことを確認すも、浦部と一之瀬の夫婦漫才に釘付けになっている。
ホッと胸を撫で下ろして、鬼道を一瞥すると「根拠は」と一言返ってくる。

「まず疑問に思ったのは、なんでこんなに日本語ベラベラじゃべってんのかってこと。英語ならまだわかるよ、世界の共通語だし。あと体格もエイリアンっていうわりには、人間と同じ骨格してるのばっかり。
それと、なんで日本がターゲットなのか。普通侵略するならアメリカとか中国とかもっと発展してる国いかない?あと国土的にも大きいし。なんでこんなちっちゃい島国から侵略するのか意味が分からない。
それにサッカーを戦闘手段にする意味も分からない。普通に武力行使して一方的に殲滅すれば良いのに。
他にもなんで影山を協力させたか、世界にはもっと有名で影響力とか経済力のある人がいるはずだし、あと…言動、行動全てにおいて人間臭い、気がする」

お互いの間に少しの沈黙が流れたのち、ポツリポツリと鬼道が口を開く。

「俺も、疑わしいと感じることは時々あった。…だが、人間では説明のつかないことも勿論ある。どうやって奴らは移動しているのか、あの黒いサッカーボールのことも、あの人間離れした動きも…」
「あー…、そうだよね。実際に対峙してじゃないと分からない感覚だってあるよね」
初歩的なことだけど、私は見ただけでの考察しかしていなかった。
彼等は実際に戦っているのだ。見てるだけと、体験しているのとでは感じ方には大きな違いがある。

「だが、苗字の言うことも勿論疑問視すべき点だ」
「現段階ではまだ決め手になるようなモノはないってことだね」

鬼道が口を開くよりも先に「おーい、鬼道!苗字!練習始めよーぜ!!」と円堂の大きな声が聞こえてくる。
お互い目で頷きあい、何事もなかったかのように皆の元へ足を進めた。


20240801


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