18 沢田ムカツク

いいですか、落ち着いて聞いてください。
私は入院生活を送っています。

こんな状態になってしまったからにはやけくそですよ。セルフでパロディしちゃうから。
予想外の出来事を開幕突き付けられて、全てを理解の出来る人間などいないだろう。いたとしたらそれはもはや全知全能の人間ではない何かしかいない。

なので懇切丁寧に説明をさせていただこう。
入院生活というものはダラダラできていいものなんて思っていたが、病院という檻の中で制限をかけられた状態なため存外暇で仕方ないのだ。


事の発端は蜂須賀くんと夏祭りへ行った日。
指切りげんまんをした後、複数の成人男性が降ってくるという異常気象が起きた。もう少し現実的に言葉を紡ぐのであれば、成人男性達が何者かに吹き飛ばされ、たまたまその落下地点にいた私を巻き込み階段を転げ落ちることとなった。
私は現在成長しきっていない、いたいけな女子中学生である。そこへ体格が倍近く違う大人が降ってきて、更に階段を転げ落ちるなんて事故が起こればとんでもない怪我をするわけだ。

医師から下された診断は、肋骨一本骨折、二本にヒビが入っている。である。

流石に泣いた。
怪我をした瞬間私は気絶していたので、目が覚めてから親と一緒に聞いたわけだ。
私あまりにかわいそうでは?思わず自分で自分に同情してしまったぞ。

病室に戻って、親から気絶してから目を覚ますまでの事をきいた。

まず病院から電話がかかってきて、急いで搬送先の並盛病院まで行く。
そこにいたのは近くにいた蜂須賀くんではなく、何故か風紀委員の副部長草壁さんだった。
以前うちに突然訪問してきたことがあったので、お母さんは彼が誰でどういう人なのかは理解していた。

そこからは草壁さんの話になる。

なんでも風紀部は例年屋台のみかじめ料を徴収しているらしい。やってることほぼほぼヤのつくあれじゃんというのは死んでも口に出さなかった。
んで、あの雲雀大先生がそのみかじめ料を払わなかった奴らに制裁を加えていて、その加えられた人間がたまたま私に降り注いだ成人男性達だったわけだ。

しかし、話はそこで終わらない。
一緒にいた蜂須賀くんだが、私が巻き込まれたことに激昂し、なんとあの雲雀先輩と一戦おっぱじめたとか。いや、話を聞く限りでは一戦って感じではなかったのだが、話を円滑に進めるためにここは一戦としておく。

私を救出するということなど頭の片隅から消え去っている状態の者しかいない中で、一際冷静でいた草壁さんはすぐに私の存在に気づき、救急車を呼んだという。
巻き込まれただけの私の入院費など何故か全額負担してくれるらしい。
どこからそんな金でてるの風紀部…。ヤのつくあの稼業説が濃厚さをますばかりである。


そんなわけで今現在病室でパリパリの病院服に身を包み、消毒液の匂いに包まれながらテレビの中の、甲高い声と胡散臭い喋りかたで、たいしていいものでもない商品を説明している人達を画面越しにボーッとみる仕事をしているわけだ。


ああ、そう。蜂須賀くんは一度お見舞いにきたらしいが、たまたま私が寝ていたらしくちょっと高そうな果物の盛り合わせだけを置いて帰っていったらしい。

それから二、三日して宗三あんちくしょうと小夜ちゃん江雪くん。あとお兄さんと膝丸くん達もお見舞いにきた。珍しく皆揃って、だ。
宗三のせいで看護師さんに怒られるはめになったが、皆私の好きなお菓子とか、暇潰しの本とか色々持ってきてくれて、(宗三はあれだけど)素直に嬉しかった。



…………


入院しているうちに学校が始業式を迎えた。毎日暇で暇で仕方ない私は、曜日感覚なんてものとはとっくの昔にさよならしている。
最近何故か並中の生徒が頻繁に搬送、入院しているのを見て、あぁ学校もう始まってるんだと認識したくらいだ。

そこで困ったことが一つ。

今日同じ病室にやってきた、ボクシング部の笹川了平という先輩。
非常にうるさい。熱血クソやろうという代名詞の人物が同じ病室にきてしまった。終わった。

いいですか?病院って基本静かにしなきゃいけないんですよ。それで私も最近宗三あんちくしょうのせいなのに看護師さんに怒られた。
なのに笹川先輩うるせぇんですよ。いやもうオブラートなんて言葉知らないですし、八つ橋だって知らないです。シンプルにうるさい。

暇だ暇だとはいったものの、別に嫌いじゃなかった入院生活。ご飯は勝手に運ばれてくるし、検査とか以外は好きな時間に寝れるし、ダラダラできるし。
今までが恵まれていただけなのか?入院って普通はこんな感じなのか?
そうだったとしたら、good-bye私の恵まれていた入院生活。

さーて、カーテン閉めきって、イヤホンぶっさして、この喧しい病室とおさらばすることにしますか!と思ったら何やら聞き覚えのある声が。
この声まさか…嫌な予感がして閉めたカーテンからチラリと声の方を覗く。

「ええ!犯人見たんですか!?」

なんで沢田くんここにいるの?!しかもリボーンくんとやらもいる。
彼等も立派なトラブルメーカーだからな、これ以上我が身に火の粉が降りかかる前に見なかったことにして、二度寝に勤しむことにしよう。

「ちゃおっす!」
「ひっ」
「おいリボーン!勝手に他の人のベッドって、苗字さん!入院したとは聞いてたけど、ここの病院だったの!?」

私のお腹の上にはリボーンくんが仁王立ちしてて、沢田くんが必死に下ろそうとしてくれるも飛び蹴りをくらってノックアウトされている。

会いたくなかったのに、平和に入院生活送りたかったのに。私の“恵まれていた入院生活”が終わるよりももっと酷い入院生活になりそうだ。
まさかこの後、獄寺さんや山本くんがやってきて病室爆発デストロイ!なんてことになるんじゃないだろうな。

「苗字名前、お前の御付きの鯰尾藤四郎と骨喰藤四郎、マズいかも知れねーぞ」
「え、鯰尾くんと骨喰くん?!まさか!!」
「マズいって何が?」
「…並中で喧嘩の強い奴らが襲われて、皆入院させられちまってる」
「はぁ」

だから最近並中の生徒を良く見かけるのか〜と思っていたら、沢田くんに「二人も襲われるかもしれないんだよ!?」と切羽詰まった表情で言われる。いやそれは予想がつくんだけど、だってあの二人、雲雀先輩相手にするくらい強いしおすし。

「あの二人なら大丈夫じゃない?」
「…いくら強いからって心配じゃないの?友達でしょ?」
「うーん、友達…」

友達というか、悪友というか、のら友達というか。

「なんで?今回の入院だって、二人に伝えてないんでしょ?」
「え、うん」
「二人とも学校で君を凄く探してた、本当に必死な顔で。苗字さん、嫌だって言ってたのは知ってるよ。はたから見ても確かにちょっと遊び方が激しいなって思ったりもするけど、でも皆同じ事言うと思う。苗字さん、あの二人といるとき楽しそうだったよ!?」
「は」
「本当にいいの?!」

なんだろう、非常にムカつく。イライラする。
なんであの二人との関係を沢田くんに注意されなきゃいけないんだ。ただのクラスメイトじゃん、
面白くない。それに、なんで説教してる側の沢田くんがそんな困ったような顔をするんだ。

「帰って」
「苗字さん!」
「骨折したとこ痛いから帰って」
「っ、」
「…行くぞツナ」

傷が痛むことを伝えれば、誰だって直ぐに退散する。本当は痛みはもうほとんどない、激しい動きさえしなければ大丈夫のはずなんだが、なんだか、胸が痛い。なんでだろう。




20240720






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