17.5 蜂須賀は…

17.5

蜂須賀


刀剣男士だった頃の俺は、初期刀であり第一部隊の隊長だった。練度も勿論トップレベル。
これだけをみれば、きっと主から信頼されてて重要な役割を任されている素晴らしい刀なんだろう、と思う者もいるかもしれない。

俺自身第一部隊の隊長に任命された日は、それはそれは喜んだ。主からの信頼を受けたからこその結果、名誉あることなんだと。言い様の無い興奮と胸をじわじわ熱くさせるなにかは今でも鮮明に思い出せるほどだ。


だが違うのだ。この喜びは無意味なものなのだと時間が経つにつれ、嫌でも気づかされた。


主は俺を避けていた。
極力関わらないために、主力である第一部隊、しかも隊長に任命したんだ。
当時の第一部隊は常に出陣か遠征のどちらかに行っていた。勿論怪我をすれば手入れはしてもらえていたが、休憩も極力本丸ではせず出陣先の地でとるようにと。
時間が惜しいなんていわれていたが、今思えば避けるための方便だったんだろう。

それに第一部隊の他の者達も、俺と同じく主が避けたかった刀剣男士達だった。
宗三左文字、厚藤四郎、岩融、御手杵に、鶴丸国永。
第三者目線に立てばそんなのすぐにわかった。
いわば除け者部隊。

そう、そこに混ぜられて、かつ隊長を任されている俺も必然的に“除け者”だ。

理由はなんだったか。そんなものは知らない。
除け者部隊の一員とされていることに暫く気づかなかったんだ。そんなの、俺自身が教えてもらいたいくらいだ。
ただ一つ。極力会わないにしろ、やはり事務的な事では避けられない場合もある。
その時、あからさまに目をそらされるし、表情もひきつっている。怯えられていたのだ。

分かるか?それを理解した瞬間の絶望といったら。心が真っ黒な泥で塗りつぶされていく感覚。
もがけばもがくほど、泥沼に沈む、もうダメなんだというあの感覚。

顕現したてのときは二人で切磋琢磨して、喧嘩もしたし、お互い泣きあったりもした。勿論共に喜びを分かち合い、寂しいからと二人で川の字になって寝ることだって多々あった。確かに絆はそこにあった。
あの時はちゃんとその澄んだ瞳で無邪気に笑いかけてくれていた。

それなのに、いつからこんな風になってしまったのか。
分からない。何も分からない。
やり直せるなら、今度は間違わない。あなたの嫌なこともしない、理解もする。あなたの前に脅威がふりかかっても全身全霊でそれを倒すと約束しよう。

だから、頼むから…今世ではずっと、ずっと笑っていてくれ。
出来ることならその笑いかける相手が俺であって欲しい。

俺を嫌いに、ならないでくれ。





転生して主を見つけた瞬間、チャンスが巡ってきたと思った。
最初は焦りから上手くいかないことばかりだった。けれど、本心をきちんと伝えれば彼女は答えてくれた。あの時と同じように、無邪気に笑いかけてくれた。

幸せだった。

しかし、前世の記憶が無いことがどうしてもわだかまりとして残る。
記憶がよみがえったところで、昔を思い出してまた避けられるかもしれない。
あの怯えた表情で偽りの言葉を吐かれるかもしれない。
そうだとしても…俺は何故そうなったかを、そうしたかを主本人の口から聞きたいのだ。たとへそれが俺の心に傷をつけるような回答でも、納得したいのだ。
何も知らぬまま終わることは望まない、たえられない。


夏祭りに誘い、何かの拍子で記憶がよみがえらないかと期待していたが、そういった兆しは見られなかった。長丁場だということは重々承知していた。焦りと、不安もあるが、素直に彼女から向けられる好意が嬉しくて柄にもなく指切りげんまんなんて子供じみたことまでしてしまった。
目的を忘れてはいけないのに。
俺の目をまっすぐ見て、返事を返してくれるんだ。
本当に嬉しくてしかたがなかったんだ。

だからだろうか。
普段なら気づくであろう事に反応が遅れた。

彼女の上に人が降ってきた。咄嗟に手を引いて助けることが出来なかった。

「名前!!」

直ぐに助け出そうとしたが、人が降ってきた方から「ワォ、ついでに群れてるやつまで釣れた」なんて飄々として現れた奴がいた。
名前の通っている学校の要注意人物の雲雀恭弥だった。

「雑魚にはお似合いの噛み殺され方だね。そこの君も」

奴が最後まで言葉を発する前に、刀身を首もとへ突きつけていた。

「斬る」
「いいね、その目」

直ぐ様トンファーで弾き返され、再び打ち合う。
怒りで我を忘れるなんてらしくもないことをしているのは分かっているが、止めることが出来なかった。


戦いが続いていた。
そんな時、ズガンッという銃声と共に足元に弾丸が打ち込まれた。明らかに相手が打ったものではなく、第三者のもの。しかもこの感じ覚えがある。
発射元に目線を向けるとあの時のアルコバレーノのがいた。名前は確かリボーン。

「そこまでにしとけよ」
「やぁ、赤ん坊。野暮な真似してくれるじゃないか」
「なんの用だ貴様」
「二人とも落ち着け、こんなとこで戦ったって無駄に傷が増えるだけだぞ。それに、お前には別の用がある奴がいるみたいだしな」
「は?」

俺に用のあるやつ?

考える暇もなく「がははは」という独特の笑い声が聞こえてくる。

「岩融?!」
「遊びもほどほどにしろよ、蜂須賀虎徹」

異様な四つ巴。雲雀恭弥でさえ誰がどう動くのかうかがっていた程だ。
一番始めに口を開いたのは岩融だった。

「主はそこの小童の部下が、救急車を呼んで病院へつれていった。そんなチャンバラごっこなんかいつまでもしてるな、主が優先だろう?」

“それに、お前達の今後の処遇も考えなければいけんしな”


その最後の言葉に、場に緊張感が走る。
後ろの二人もより警戒心を高めていた。

ニヤリと笑いその口元から見える鋭利な歯牙で、今にもここにいる全員を喰らい尽くすんではという気になる。
まぁ奴が使うのは薙刀なのだが。

分かったと刀を納め、岩融の横をすり抜ける。
後ろで雲雀恭弥が俺に殴りかかろうと迫ってきたが、岩融がそれをなんなく受け止める音がする。

今さら冷静になったところで、自分はなんて愚かなことをしたのだと後悔が消えることはない。
これであの子に会うのは最後というわけではないが、当分は接触することは出来なくなるだろう。



20240426
 

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