17 夏休み:軽装蜂須賀


イタリアでの事件があってからというもの、なんと私は平和に夏休みを過ごしている。

私の遊ばないから!って言葉が効いたのか、鯰尾骨喰コンビは突撃してこないし、いきなり自宅に藤四郎一家が来ることもない。
沢田くん達にもエンカウントしないし…。

あ、ただ、イタリアからの帰国後山本くんがうちに直接謝罪に来た。今まで見てきた中で一番申し訳なさそうな顔してた。流石に責任は感じているらしい。
私はとても寛大な人間なので、山本くんがお詫びにうちの寿司食べてってくれよと言うもんだから、今回の件は許すことにした。別に回らない寿司屋の寿司をタダで沢山食べれることに釣られたわけではない。山本武が誠意をもって謝ってきたわけだから、私もそれに答えなければいけないからだ。決して寿司のためではない。


前のような平和が帰ってきたな〜、嬉しいな〜と私は浮かれていたし、機嫌も良かった。だから蜂須賀くんから連絡が来た時、簡単に返事をしてしまったのがいけなかった。

“今度の夏祭り、一緒にいかないか?”
“いいよ!”

浮かれたスタンプまで送ってしまった。

だって、この時はまだあんなことになるなんて一ミリも思わなかったんだもん。いや普通あんなこと起こらないし。
ともかく、この夏祭りの誘いは断るべきだったと、夏休み明けの私は大後悔することになる。


…………


祭り会場に現地集合になったので、Tシャツ短パンとラフな格好に着替え、小さなガマ口の財布だけ片手に、屋台満喫するぜとウキウキで会場へ向かった。

祭りということもあって、薄暗くなってきたにも関わらず道中は人が沢山。浴衣や甚平を来た人たちも沢山いる。

浴衣なんて小学校低学年くらいまでは来ていたが、あれは遊ぶことがメインの人間にとってはとんでもなく動きにくい服装だ。それにあんなのはカップルや陽の者達が青春を謳歌するための服装だ。
とにかく私にはなーんも縁のない服装だし!今後も自主的に和服なんて着ることはないだろう、なんて考えていたら蜂須賀くんを見つけた。
彼、髪が紫だし、ロングだし、それになんかキラキラしてるし目立つのだ。すぐわかってしまう。
彼が浴衣を身に纏っているのは、見なかったことにしても良いだろうか?

「名前!…何故そんな格好をしてるんだい」

彼も私を見つけたようだが、その瞬間凄い剣幕で近寄ってくる。

「だって遊ぶし」
「…俺だけ浮かれてるみたいで、馬鹿みたいじゃないか」

拗ねた子供のように、頬を膨らませそっぽを向きはじめる。お互いの祭りの価値観が大分違うようで、前途多難だ。
大変不服そうであるが、兎に角早くいこ!と強引に背中を押して屋台が集っている方へと足を進めた。

…………


射的や輪投げくじ引きや金魚すくいなど、遊べるもの全部やってみた。が、蜂須賀くんはこういうのは苦手なのか、ことごとくしっぱい続きだった。私もたいして上手いほうではないけど、彼よりはましな部類だ。
どれくらい酷いかというと、射的では狙った景品からコルクの弾が跳ね返ってきておでこに当たってたし、輪投げでは隣の人のわっかとぶつかって軌道がそれて全外れ(その隣の人は逆に全部入って景品貰ってた)
くじ引きは全部外れで、金魚すくいもポイを水にいれた瞬間破けていた。
どんな奇跡だよってくらいの不運ぶりに私は苦笑いするしかなくて、気分転換という訳で食べ物の屋台を回ることになった。
食べればきっと元気も出るだろう。

結果的にそんなことなかった。

やはり先程の不運の連続を引きずっているようで、泣きそうな表情でとぼとぼ隣を歩いている。
確かに、あそこまでついてないと私ですら少しへこむだろうけど、それでも引きずりすぎだろて。

こんな時流石になんて声をかけていいか分からない。今までの人生でそんな瞬間にぶつかったことがないからだ。ここで私のコミュニケーション能力が問われているわけだか、言葉にできない時点でそれは赤点まっしぐらであろう。


「すまない、こんなの楽しくないよな」
「うん?」

声を発したとおもえば、その場で立ち止まって動かなくなってしまった。
しかしここは屋台が並び、人が行き交う雑踏とした場。立ち止まってしまえば迷惑千万だし、人間性の終わっている者とぶつかってしまえば喧嘩が始まるなんてことも。

とにかく、どこか落ち着ける場所へ移動した方がよさそうだ。

色んな音と人が行き交うため「ちょっと移動しよ!」と大きい声をだし、彼の手をつかみ屋台と屋台の間を抜けて明るくて楽しい祭りの裏側へと向かった。
いうて、ただの屋台の裏。階段のついてる小さな土手なのだけども。


…………

さて、どうしたらいい?

階段に腰を下ろしていざ話しかけようとしたら、隣からスンッ…スンッ…と鼻を啜るおとが聞こえる。
横目で彼の顔を見ると、瞳をうるうるさせて節の長いその指で目元をぬぐっていた。

あらためて問うが、どうしたらいい?

だってさ〜!屋台の、というか、遊びが全然うまくいかなくてへこむにしても、ここまではいかないじゃん〜!!そんな気持ちになったことないから分かんないよ〜!地雷系かよ〜!!

しかしふと思った。
これはもしや、小さい子供がゲームでも、友達との遊びでも自分の思うようにいかなかったり、達成感が得られなくて泣いてしまうあれなのでは?

それだったら私も覚えがある。誰だって幼少期に通る道。即ち、この男はその時期が大分遅かったということなのでは??
その考えに至った瞬間、私の言葉は勝手に漏れていた。

「またお祭りとかあったら、一緒にきてリベンジしよ」

蜂須賀くんは呆気にとられた顔で此方をみた。なんでそんな表情しているかは突っ込まないが、意識が此方に向いたのは確かだ。

「そんなに悔しかったんならさ、これから何回でもお祭りあるし、そこでまたやろ。確かにお祭りでの遊びって毎日できるものじゃないから練習とかできないけど、何回もきてたら慣れてはくると思うし」
「…君は、俺とまた祭りへいってくれるのか?」

え?そこ?

「あたりまえじゃん、友達だし」
「とも、っうぅ〜」
「え?!なんで余計泣くの?!!」

みるみるうちに目から滝のように涙がこぼれていくし、顔は薄暗い中でも分かるくらい赤くなっていくし、とにかく忙しい。先程から行動も感情も忙しすぎてジェットコースターではないか。
彼と多少話すようになってから、あぁ、まだまともな人なんだなぁと思っていたのだが、全然そんなことない。こんなにコロコロ表情も感情も変わっていて病気の影響なのか?とか余計な心配までしてしまう。

しかし、なぜ友達宣言して泣くんだ。え、もしかして友達って思われるの嫌だった?私しか友達だと思ってなかった?そうだったら流石の私でも激へこみ案件ですけど?

「約束してくれ」
「え?あ、なにが?」
「また俺と一緒に祭りにきてくれると。嘘ではないと契りを、いや、うーん…指切りげんまんとか」
「そんなことしなくても、ちゃんと行くけど…」
「確かなものが欲しいんだ!」

ダメか?と目を腫らして見つめてくる。それに拒否する理由もないので、しぶしぶ自分の小指を出した。
そこへ私のポークビッツのような短い小指と比較にならない、長くてすらっとした小指が絡む。
下からすくうように、なぞるように絡むその光景が、何とも言えない色気があって背中がムズムズする。

「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます、指きった」」


何年ぶりだよ指切りげんまん。
小さなころは、このなんともない儀式が特別で神聖な物だと感じていた。
子供しかしないけど、逆に子供であると本当に大事なときにしかしない行為で、おおよその人間が人生で数えるくらいしかしないだろう。

その不思議な感覚が抜けなくて、未だ立っている自分の小指越しに彼をみれば、今日一番の穏やかで優しい、けど蕩けるような表情で此方を見つめていた。
今度は私が呆気にとられる番だった。
そんな表情を向ける意味とは。こんなちっぽけな約束ごときで、そんな壮大な表情をする意味とは。
無い脳みそで考えたところで、行き着く先は一つの答えではないか?その意味を必死に考えないようにするが、嫌でも自分の顔が火照ってくるのがわかる。

いや違う、これは夏だから。そう、夏だし、何より人がごった返す夏祭りのせいだから。だから、こんなにも体温が上がっているのだ。

「名前」

流石にこのタイミングで声をかけないで欲しい。
目をそらしたいが、これ以上体も脳も動かすことを拒否している。だってそれらを動かせば余計なことを考えて気づいて、どういう風に行動してしまうか検討もつかないからだ。

「名前、今世、いや、今度は俺を…」

蜂須賀くんがなにかをいおうとしたときだった。
人の叫び声が遠くで聞こえたとおもえば、それは頭上や後ろを飛び交い、私の体にも衝撃が走る。

視界は暗転。

分かるのは体の痛みと、色んな人たちの声。
目は開けているけど、首がまわらないせいで地面しか見えない。

そこで私の意識と、楽しい夏休みは幕を閉じた。


20240417


 

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