平野と小夜と餅どら焼き



無性に餡子が食べたい。

もう冬も終わろうとしている頃、我が本丸では絶賛決算のための準備で怒涛の事務処理に終われていた。いや、本番はこの準備が終わってからにはなるけれども、それでも忙しいことに変わりはない。

そう、だからこそ脳がどんどん正常な動きをしてきてくれなくなっているため糖分がほしいのだ。
因みに生半可な甘さのものじゃない。
それこそ餡子のようにねちっこくて、ずっと口に残り続けるような甘さ、強烈な甘さをほっしているのだ。

そうなってしまったからには、餡子内し小豆はあっただろうか。それに、餡子だけで食べるよりは、調理して食べたい。直球に言うがどら焼きが食べたい。

あぁ、そういえばあの大量のお餅もあと少しでなくなる。あれを使ってどら焼きにしよう。もちもちでより美味しくなる。
大きさを考えてつくればお留守番組のおやつにもなるだろうし。

あれこれ考えているうちに、机を離れ気づけば厨に。あらゆる戸棚を漁って材料を確認している自分がいる。
小麦粉はあるし、卵も勿論ある。さて、肝心の餡子は…。

「……ないっ!」

心も口も完全に餡子なのに、肝心の餡子がない!!小豆もない!買いにいく?
いや、私情で餡子だけを買いにいくのは流石にまずい。

頭を完全に餡子に支配されてしまったいるため、全然改善案を考えることもできず、一人厨でうんうん唸っていると、不意に服の裾を引かれた。
少しおどろきながら振り向くとそこには小夜と平野が。

「お風呂掃除終わったよ」
「主さま、何か困りごとですか?」
「お疲れ様です。うう、二人とも餡子が、どうしましょう…」
「「餡子?」」

二人に事情を話したのだが、自分で言葉にしたとたん凄くどうでもいいことで悩んでいることに気づいてしまった。我ながら恥ずかしすぎる。
餡子ごときでこんなにも困ってい姿、怒られるか呆れられるに決まっているのに。
一通り説明したあと、すみませんと頭を下げ仕事に戻ろうとその場を離れようとした。
その時だ。

「あの!主さま、餡子…というかお饅頭ならありますつぶ餡の」
「え」
「ただ、鶯丸さまの茶請けなんです」
「それは…ダメなのでは?」
「僕が交渉してきます。その、どら焼き食べたくて」

気まずそうに目をそらす平野に、小夜がうんうんと首をたてに振る。
どら焼が食べたいっていうのは、私に対して気を遣っているのだろうか。だとしたらとてつもなく申し訳ないし、穴に入りたいくらいだ。
けど、これが本当に平野の本心だとしたら、とんでもなく胸がときめいてしまう。

「あの、気を遣っているのなら、そんなこと全然いいんですよ。私のわがままなんですから。それに、餡子がなければどら焼き…作れないですし」
「ううん、作れると思う」
「え?」

小夜の発言に一瞬にして頭にはてなが浮かぶ。

「ええと…」
「まえ、おはぎ作ってくれたときかぼちゃとか、さつまいもとか、いろんな餡子作ってくれたから」
「あっ!なるほど、その手がありました」

あのいろんな餡子美味しかったからまた食べたいと呟く小夜に、今度は平野がうんうんと頷く。

代替え案まで提案してくれるということは、本当に自分の我が儘を通してしまっていいのだろうか…。

しばらく悩んだ結果、私の手にはしゃもじと鍋。回りには餅や小麦粉などなど。
厨には甘い匂いが漂っている。


…………


「「「いただきます」」」

縁側に、平野、私と小夜で横並びになってそれぞれのお茶請けを手に取る。

二人はどら焼だけど、私の手には茶色くてピカピカと黒光りするお饅頭。
一口かじると脳にびびっとなにかが走る。多分だけれど完全に幸せホルモンが出ている。これだ、これが食べたかった。自然と口元が緩んでしまう。
二人を見ると、二人も美味しそうにどら焼を食べていた。
珍しく平野も沢山頬張っているようで、ほっぺがパンパンだ。

「ありがとう、どら焼き。おいしい」
「いいえ、こちらこそありがとうございます。平野もありがとう」
「そんな、頭を上げてください」
「いいえ、本当にありがとう。鶯丸も快く承諾してくれて、彼にもありがとうといったら気にするな何て言っていましたけど、こんな私の我が儘きいてくれて本当に感謝してるんです」
「最近の主さまはずっと書類仕事ばかりで大変でしょうから、食べるときだけでも心を休めて欲しいんですよ 」

泣いていいだろうか。なんてできた刀達なんだろう。

こんなにまで想ってくれてるのだ。それに、目的の餡子も食べれたし、今日はもっともっと仕事頑張れそうだ。


20240331


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