大和守と餅おかき


大和守安定は自分に割り振られた場所の掃除が終わって暇をもて余していた。
今日はお留守番組として本丸内の雑務に勤しんでいる。
最近この本丸に顕現し、ようやっとこの暮らしにも慣れてきたところだった。

早く終われば後は自分の好きにしていいとはいわれているが、いざ自由時間になると何も思い付かない。
他の皆はまだ自分の作業をしている。手伝いにいこうか?けど、折角の時間を仕事に費やすのももったいない。そうだ、主がいる。

以前から主とゆっくり話してみたいと考えていた。けど、顕現したてで覚えなければいけないことが沢山あって、何だかんだゆっくり二人で話をするなんてことは出来ていなかった。

今だったらいいかな?それとも主も自分の仕事をしていて忙しいだろうか?とにかくまずは何処にいるのか探さなきゃ。
ここの主は大体執務室か厨にいるので、まず今の自分の場所から近い厨へ向かった。


案の定、主はそこにいて、何か作業をしていた。それと同時にいい香りも漂ってくる。
今日のご飯はなんだろうかと、後ろから覗き込もうとしたとき、彼女は目線だけこちらに寄越すが、大和守の姿をみたとたんビクッと肩を揺らし、体の向きを瞬時に翻した。


…………


まさか大和守が後ろに立っているとは。
今はお留守番組がそれぞれの雑務にいそしんでいるはず。それなのに彼がここにいるということはもう既に自分の分が終わったか、何かを訪ねにここへよったか。はたまた、たまたまフラりとここへきたか。

いやいや、そんなことよりバレてしまっただろうか?

何を隠そう、ご飯の仕込みと称してつまみ食いをしに来た。小腹がすいてしまって、仕事が手につかないのだから仕方あるまい。
しかし、一人で隠れて食べてしまっているのが見つかってしまった。いや、まだバレていないか?でも匂いがしているし、確実に“何か”を作っているのはバレている。
ここに長年いるもの達なら、すぐにまだ食事の準備には早いことに気づき、私のやましい行動にもピンとくるだろう。

しかし大和守はまだ来たばかり、誤魔化しはまだ効くのでは…。
「ねー主。もしかして、その後ろのやつ食べてたの?」
そんなことはありませんでした。

「う〜…。バレてしまっては仕方ありません。大和守、貴方も共犯者にしてしまいます!」
「てことは、僕もそれ食べていいの?やった〜」
「(多分なんのこっちゃとなっているでしょうけど、食にうるさい人たちに見つかるより全然良かった)」
「で、何食べてたの?」
「えと、おかきです」

後ろに隠していた物を目の前に差し出す。
これは以前石切丸と蜻蛉切に細かく切ってもらったお餅をやいた物である。味付けはお好みでなんにでもできちゃうのだ。

「いただきまーす。え〜、こへおいひいね」

口一杯に頬張って、ぼりぼり音をたてる。ニコニコとまた口一杯に食べるその無垢な姿に思わず自分も笑顔になってしまう。

「ふふ、お気に召していただけたようで何よりです」
「これ何味?なんか、ただの塩って感じじゃない」
「よくぞ聞いてくれました。クレイジーソルトというものなんですよ!塩に色んな、えーと、薬草といえばいいんですかね、それをまぜたものです」
「ふーん。僕これ好きだな〜」
「あ、私の分も残してくださいね!」

気づけば残り少なくなっている。
それはそうだろう。大きな口で沢山頬張っていたのだから。

「んー、じゃあこれだけね」

そういわれ渡されたのは、三粒。

「な!」
「だって皆に内緒で食べてたってことだよね。んで僕に口止めさせようと一緒に食べさせたと。黙っててあげるから、またこれつくってね」
「うっ、大和守…あなたなんて策士なんですか」
「ふふん。扱いにくいけど、いい刀だよ?」
「参りました」

完敗です。


20240221





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