エイリア7
グラウンドへ向かうと影山の後ろに新帝国学園のチームが佇んでいる。
そこには何故か源田と佐久間も。それに風貌も何か違う。
鬼道と影山が言い争っている。源田と佐久間は影山のせいだという話しになってきたが、本人達が口をはさみ、自分達の意思で影山のいうことに従っているようだった。
ミイラ取りがミイラになったやつじゃないか。
その事に鬼道は怯む。しかし、そこでへこたれる程弱くもなく、お前らを倒すと堂々と宣言。
そんな時、瞳子監督が影山にエイリア学園との関係性を問いただす。二人の間に妙な空気が一瞬流れたが「さぁ、どうかな。ただエイリア皇帝陛下のお力を借りているのは事実だ」と返される。
エイリア皇帝陛下ってなに?
エイリア学園にはチーム以外でトップの者がいるという発言だ。やっぱりそいつが影山と交渉をしたんだろうか。
「苗字名前」
いよいよ影山から名指しされた。されると思ってたけど。
返事は返さずに目線だけ向けると「貴様もこの力を見ればこっちにつきたくなる。そこでしっかりこの戦いをみていろ」なんて宣言される。
小さなイライラが埠頭についてからあったのだが、もう爆発させていいだろうか。ちょっと一言言ってやろうと前にでようとしたが、隣にいた木野ちゃんに腕をそっと掴まれ、目の前を誰かの手で制される。鬼道だった。
仕方ないから、影山に対して中指立ててやったがすかさず鬼道の手がそれを隠した。
めちゃめちゃ冷静だな鬼道。
「さぁ、パーティーの始まりだ!楽しもうぜ、鬼道チャン!」
「許さんぞ、影山!不動!」
…………
試合が始まった。公式戦ではないからなのか、いや、この世界だからだと思うが相手はラフプレーのオンパレードだった。よくもまぁそこまでできるな。
しかし、そんなの序の口だった。
不動が佐久間に指示を出す。なんかペンギン出てきた。
威力がとてつもなくて、雷門は先制点を取られてしまう。が、何故か必殺技を打った佐久間が絶叫して苦しんでいる。なんだあれ。
「何をしている佐久間!それは禁断の技だろ!?」
鬼道の怒号がグラウンドにとび、佐久間と言い争いになっている。
この世界の必殺技というのは体への負担を全く与えないものだと思っていた。
しかし、どうやら例外もあるようで、それが“これ”というわけだ。
しかしこの技だけでなく、染岡の放ったシュートをとめた源田の技も同じく禁断の技の一つらしく、今度は源田の絶叫が響いた。
必殺技の分析とかそんなものよりもまず、何をしているんだ?という感想が出てくる。
野球で例えると、明らかに肩に負担がかかっている変化球なのに投げ続ける投手と一緒だ。
つまりやり続ければ故障。最悪二度とそれが出来なくなる。
これは早急にやめさせなければいけないが、彼らはそんな気微塵もないようで。それならやることは彼らをベンチへ戻すか、あるいは戦意を喪失させること。
しかし、既に一点入れられている状態だ、目的は新帝国学園に勝つことだが、一点を入れるためには源田と対峙しなきゃいけない。しかし、それをさけて、源田、佐久間の安全を取るためにボールを回して時間を潰したとして我々の負け。
どうする?
そんなこと考えていれば、また佐久間にボールが渡り、先程の皇帝ペンギン1号を打った。
しかし、それを鬼道が体をぶつけて威力を殺す。
「ばっ!」
それのお陰なんて言いたくないが、円堂はそれを防ぎ、追加点になることはなかった。
体を使うのはダメだ。というか、あんなの受けてる円堂だって危険なんだからこう、他に防げる手段。これって必殺技とか使ってボールカット的なこと出来なかったけ?
すかさずマネージャー達のほうをみて「必殺技でパスカットとか出来ないの?!シュートカット的なこう…なんていうの?!」
「えっと、シュートブロックです!」
「そうよ!シュートブロックで威力を軽減したらわざわざ体でガードなんてしなくていいのよ!」
どうやらシュートブロックというらしい。
三人も直ぐに気づいて、ベンチから必死に伝える。円堂や鬼道などの司令塔の出来るもの達に無事に伝わり、実践されるものの、相手のラフプレーが酷くて、皇帝ペンギン1号を直接受けることはなくても、徐々に怪我をさせられていく。
「胸くそ悪いっ」
ベンチに座っているのはとうの昔にたえられなくなり、その場に立ち、腕を組み、必死にイライラをこらえる。
そんな時、ディフェンダー陣が不意を突かれ、佐久間にボールが渡ったままシュート体勢にうつろうとしてた。
まずい、これではシュートブロックも間に合わない。
先程皇帝ペンギン1号には回数制限があると鬼道が大声でいっていたが、これがその最大回数の三回目。
まずい!
そんなとき視界の隅にちらりと移る桃色。
なんだ?!と思ったときにはいつの間にか染岡がディフェンスゾーンまで走ってきており、その足で打ち返そうとする。
「染岡!!」
そんなことしたら染岡の足は怪我だけですまない。何でそんなことをしてるんだ!
染岡により、そのシュートは不発に終わるが、等の本人はその場にうずくまり、佐久間は悲鳴とも取れないその叫びをあげ動かなくなってしまった。
「瞳子監督!染岡を直ぐに下げてください!」
「そうです!そもそも試合を中止してください!このままじゃ皆もそうだけど、佐久間くん達も!」
「ダメよ」
「…は?」
「え」
私だけでなく、マネージャー達の困惑の声も漏れる。何をいってるんだこの監督は。
「監督命令です」
「選手の今後がこの判断にかかってるんです!」
「私の目的は地上最強のチームを作りエイリア学園を倒すこと。この試合にも負けるわけにはいきません」
「っ、その前にその最強のチームの一人が今後試合を出来なくなるっていってるんです!」
「そうなれば新しい人員を補充するだけです」
「あんたっ!!」
なんなんだこの監督は!
もどかしい。なんにもできない。
グラウンドのほうでは染岡が息も絶え絶えで、片足を引きずりながら自分のポジションへ戻っていった。
佐久間は動けないためベンチへ引きずられ別の選手が交代で出てきた。
皆絶対に勝って。
お願いだからこれ以上怪我もしないで。
ただ祈ることしか出来なかった。
…………
結果的には雷門は勝てたが、その蓋を開けてみれば最悪な形でだ。
とにかく順を追って説明しよう。試合後はとにかく沢山あった。
影山が潜水艦を爆破させた。しかし、そこには鬼道がいなくて、円堂が爆破間近の潜水艦に戻った。と、同時に吹雪がいきなりパニック障害いうのが正しいのだろうか、震えだし、意識もはっきりしなくて、現場は収拾がつかなくなっていた。
円堂と鬼道は爆発直前に脱出してきて、奇跡的に爆発に巻き込まれた人は私達のなかにはいなかった。
ただ、影山は潜水艦に残っていたようで消息不明。その時には一発いれるなんてこと頭から消えていた。
佐久間も源田も重症で試合後ドクターヘリで運ばれていった。
染岡もやはり足を悪くしており、病院での精密検査等はまだだったが、誰がどうみても重症でサッカーを続けることが出来るのか怪しい状態だった。
そんな中、瞳子監督が「あなたにはチームのために外れてもらいます」と宣告する。
当たり前といえば当たり前だが、あまりにも辛すぎる。
…………
染岡が救急車に乗り病院へ行った後、私は監督へ詰め寄った。
「なんであんな采配した!あんた監督だろ!」
「……」
周りの皆が止めに入るが、これは誰かがいわなきゃいけないことだ。
あのときのあの理由。あの理由がまだ納得できるものなら許せた。けどあんなの、皆を消耗品としか思ってないような口調。
「苗字さん、あなたももうこの旅に同行する理由はありません。お家へ帰ってもらって結構です」
「は?」
「鬼瓦さんがまだいらっしゃるから、そこへ」「話をそらすな!」
「苗字、落ち着け」
「うるさい、鬼道も土門も離せコラ!」
何か考えがあってのことかもしれないが、それはきちんと理由込みでいうものだ。それだとチームとしてのまとまりも糞もなくなる。なにより私のように監督に不信感を持つ者が現れるのだ。
「苗字」
「なに!」
円堂に声をかけられ、そのままのテンションで振り向くと奴は凄い冷静な表情だった。思わず呆気に取られる。
「苗字はさ、これからの旅も同行してくれるってことか?」
「…する。お前要らないっていわれても無理矢理ついてく」
「そっか!」
「今の雷門があまりにも心配すぎて、このまま見て見ぬふりして帰れないから、私もいく。絶対」
「ああ、大歓迎だ!」
次第にいつもの笑顔になり、円堂が代わりに「苗字も仲間です!いいですよね、監督」
と声をかける。
円堂に続いて他のメンバーも「監督」「監督」と見る。
皆と監督とのにらめっこ状態だったが、次第に根負けしたのか「好きにしなさい」と何処かへいってしまった。
円堂達がやったなと馬鹿みたいに騒ぐ中、土門がニヤリと此方を見てくる。な、なんだよ。
その後瞳子監督が響さんと先程の新帝国との試合について話しているのを私達はしらない。
キャラバンに戻っている最中今後のことを考えていたら土門に話しかけられる。
「なぁなぁ、あの時の賭け覚えてるか?」
「賭けぇ?」
なんだ?と記憶を探っていると一つ思い当たることが。
「まさか、あんたが転校してきたばっかりの頃のこといってる?」
「それ〜!」
今日一の良い笑顔で凄くイラつく。
「これは完全に俺の勝ちだよな〜。何か欲しいとかではないって言ったけど、やっぱりさ、なんか欲しくなるよな。なぁ、何でもいうこと一つ聞くってのは?」
「ないに決まってんでしょ?!男に二言はない、違う?」
「ちぇ」
この男ほんと油断ならない。
しかし、ちょっと神経がとがっていたのも少し和らいだ気がするので、そこだけは感謝してやろう。
キャラバンに乗ってからすぐ、雷門理事長から大阪にエイリア学園のアジトがあるかもしれないと連絡がきた。
次は大阪へ行くらしい。
20240121
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