番外3、救世主で独裁者な雲雀


※本編開始前


教室掃除っておおよそ一人でできる量でないってことと、協調性を養うために大概の学校は班編制をして皆でやるものだと思うんですよ。

なのに今の状況はなんだ。女子は私一人。男は三人。ホウキを持っているのは私だけ。同じ班の男どもは掃除用具ではなく、色とりどりのチョークを手にもち、黒板にかいた大きな的に投げつけて遊んでいる。所謂ダーツみたいに。

班が、女1:男3なわけないだろう。他にも女子は二人いるのだが、一人は風邪で先日から休み。もう一人は掃除が始まる前に放送で職員室に呼び出しがかかりいなくなってしまった。
残ったのが私達四人で、男子としては好き放題出来る状態。こんな感じになりますよね。私?私の存在なんて陽にギリなれてない陰だからな。どうでもいい存在だ。

しかし、これでは掃除するなんてことは勿論出来ない。なんなら汚してるんだから。呼び出された子が戻ってきたところで、掃除するのは私とその子だけ。きっとこの男どもは適当な理由をつけてやっといて!と逃走することだろう。
それにその頼りにしている女の子だって、ちょいちょい仕事を頼んでくる(押し付けてくる)系の人間だ。結局嫌な思いをするのは私だけ。

あーあ、本当に嫌。最悪これで先生に見つかったりしたら理由を説明したところで八つ当たりの嫌みをネチネチぶつけられるのは私だ。
担任の根岸は神経質で、僻みっぽい男の先生だ。ムカつくことに既婚者だ。
こいつ気分が悪いとホームルームでいつもネチネチ遠回しに生徒に愚痴るので嫌い。早く別の学校に移動になればいいのに。


話がそれたが、私は何も言えずホウキをもって馬鹿みたいに突っ立ってることしか出来ない。
こいつらになにかいう勇気もないし、なにかいうにしても何を言えばいいのか分からない。
こっちは早く掃除して早く家に帰りたいのでやるなら別の教室でやればいいのに。

そんな時だった。
廊下から別の男子が三人に「おい、ゲーセン行こーぜ!昨日の続きやろーぜ」
「お、いくいく」
「今鞄取ってくるわ」
「玄関でまってんかんな!」
などと、この馬鹿な遊びをやめるようだが、同時に嫌な予感がする。
これ、汚すだけ汚して人に掃除を押し付けて帰るやつでは?そんな最悪なことある?

案の定「ごめん、苗字さん、用事あるから掃除やっといてくんね?」だって。
とんでもない目と頭だな!私ずっとここにいましたが?分かってましたよね?!自分達で汚した分もやれってか、いいご身分だな。

「は?何?喧嘩うってる?」
「え?」
「結構いうんだね」
「まって、声にでてました?」

三人は凄い怖い顔してこちらに近づいてくる。どうやら今心で叫んだことは声にでてしまったらしい。いかん、ストレスのせいだな。
いや、そんなことよりもどうしよう!掃除どころじゃない。私もこの教室のゴミにされる。やばい。職員室まで逃げなきゃ。
しかし相手は三人。近くのドアを塞がれてしまい、窓際へじりじりと後退することしかできない。

もうだめだ。ホウキをひたすら握りしめ、覚悟を決めた。ゴッ!と鈍い打撲音が鳴る。
けど、あれ?痛くない。と同時に「ぐご」「うわああ」「ひっ」と何やら三人の声がする。

目を開けると二人床に伏せていて、もう一人は宙に浮いていた。しかしそんなことよりももっと恐ろしい光景?いや、人物を目にしてしまったのだ。

「ねぇ、こんなに教室汚したのは君達か?って聞いてるんだけど」
「ひっ、い、許して」
「言葉をちゃんと理解しろ」
「う゛ぶ」

宙に浮いてるといっていた男子は雲雀先輩の手にあるトンファーで持ち上げられていたのだが、それを壁へ叩きつけるように動かし、彼は蛙が潰れるような声をだして、壁を伝って床へ伏せてしまった。

あ、助かった。って一瞬でも思った私は馬鹿だ。残るは私のみ。
そして雲雀先輩の鋭くて視線だけで人を殺せそうな瞳と目があった。
メトメガアウーなんてロマンスを感じるものなんかじゃぜっっったいにない。完全に肉食獣に目をつけられた小動物である。生死がかかってるやつ。

「ねぇ」
「ぴっ!」
「こいつらはここで何して、君は何してたの。簡潔に教えてくれない」
「あっ、あっえ」
「早く」

声をだすのも怖くてどもってたら容赦なくトンファー向けられたので、頑張って簡潔に話す。

「私達この教室の掃除当番だったんですけど男子三人がサボってチョークでダーツ始めてでも女子が諸事情で私しかいなくて怖くて注意できなくて三人が帰るとか言い出して文句いっちゃったら詰め寄られました!!!」
「ふーん」
「掃除早急にするんで許してください!!!」

もはや土下座。

ホウキを放り投げ、持てる全ての瞬発力で土下座した。せめて命だけでも助かりたい。その一心で早く目の前からこの恐怖の存在が消えてくれないかと祈った。
実際には一分もたってないのだろうが、次に雲雀先輩が言葉を発するまで十分くらいたったかのような錯覚に陥った。

「この三人は風紀委員で処罰するからつれていく。君はここの教室を元通りに綺麗にして」
「…は、はい!」

なんとか助かりそうだ。良かったと思うが、まだ目の前から去った訳ではないので緊張しながら顔をあげた瞬間顎下に、静かにひんやりとした何かが当てられた。あれ?
そして雲雀先輩は此方に顔を近づける。
改めていうが全然ロマンス的な感じではない。生死のかかってるやつだ。

「あと、備品は大切にするように。…いいね?」
「は、はいぃ」

ギロリと睨まれ、武器を当てられ、なんとか声を絞り出したがもうこのまま気絶しそうだった。

「必要な掃除用具があればそこの風紀委員に伝えて。じゃ」

すっと立ち上がり顎下に当てられていたものを渡された。どうやらさっき放り投げたホウキらしい。
いつの間にか控えていた、風紀委員の草壁さんが男子三人を抱え、先輩と一緒に教室を去っていった。残ったのは私と、もう一人の風紀委員。ちょっと怖い顔をしている。
しかし、見た目とは裏腹に「諸事情で班員はあなただけと聞いているので自分が手伝います。あと普通の掃除道具では片付けきれないので、他に欲しいものがあればなんでもいってください」と優しい言葉をかけてくれるのだっだ。
これも雲雀先輩の指示だったとしても、先程の出来事とのギャップにちょっと泣いた。


その後二人で念入りに教室を掃除し、ダッシュで家に帰った。
家には小夜ちゃんが来ていて、全てを忘れるためにハグをさせてもらった。(後で宗三にいい加減にしろと怒られたけど)

次の日学校にいくと、職員室に呼ばれてた女子は丁度風紀委員が教室にはいっていくところを目撃し怖くてはいれなかったといってた。私がその立場だったら同じだったから許した。
男子三人は揃って病院で入院することになってらしい。恐ろしくてちびりかけた。

ああ、もう雲雀先輩とエンカウントしたくない。あれだけで寿命二十年くらいは減った。
これからも一般生徒として可もなく不可もなく過ごしていこう。



20240114
そんな思いもむなしくエンカウント率は増えていく





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