16 夏休み:メタ○ギ○ボス

気づいたら私は知らない部屋で寝ていた。え、これってあれ?いいですか、落ち着いて聞いてくださいってやつ?まさか私、昏睡状態でした?

まじで何処だろう。というか今まで何してたんだっけ?ぼーっと天井を見て、右見て左見て、そしてお腹側を見て、お?そこでふと気づく。
なんか金色の毛むくじゃらがいる。猫?犬?ぬいぐるみ?まだはっきりしない頭でそれを恐る恐る触れるとふわふわしていて、柔らかい。
しかし、動物の柔らかい肌とは違う、固めの何か。あれ?これもしかして人の頭?と思ったときそれは、むくりと起き上がった。

「でぃのさん?」
「…」
「…」
「……名前!?目ぇ覚めたのか?!」

向こうも眠そうにまばたきを繰り返していたが、次第に覚醒したのか前のめりになって安否を確認してくる。イケメンは寝癖ついてても眠そうな顔しててもイケメンだ。
ほげーとなんとなく整っている顔を眺めていると、向こうはほっとした表情になって、扉へ声をかける。部下さん達がいるっぽい。

入れ替わりでディーノさんは出ていき、中に入ってきた部下さんたちは私の意識がはっきりしてるのかどうか、チェックしはじめた。

一通り質問やバイタルチェック?が終わったあとディーノさんは戻ってきて、いきなり頭を下げだした

「え?」
「本当にすまなかった」
「え?あの、なにが」
「本当に覚えてないのか?昨日の夜のこと」
「昨日の夜…」

ゆっくり昨日のことを順番に思い出していこう。
まず、山本くんに殺意がわく→なんだかんだナポリ到着→ホテルチェックイン→ご飯→観光→ご飯→ホテル戻ってソニアさんと団欒

「団欒して…あれ?それから…疲れて寝たのかな?」
「…」
「ボス、やはり」
「ああ」

何やら凄く深刻そうな表情で会話をはじめてしまった。しかもイタリア語らしき言葉で。こっちは何をいっているかさっぱり分からない。というか、え、私本当に寝てただけじゃないの?いやでもまてよ、ここホテルのベットじゃないな。
どこ?ディーノさん達がいるからちゃんとした場所ではあるんだろうけど。

「名前、落ち着いて聞いてくれ」
「(でた、落ち着いて聞いてくれ)」
「昨日の夜、名前と護衛のソニアは襲撃にあったんだ」
「え?」
「ソニアは一命は取り留めたが重傷。名前そいつらに拉致された。なんとか、保護はできたけど、多分精神的ショックでその時の記憶が一部失われてると思う」
「え」
「あんだけ大見得きってこんなことになっちまって本当に申し訳ない」
「えと…はい」

正直その抜け落ちてる部分のせいで、なんでこんなに謝られてるのかが分からなくて困る。しかし、ソニアさんが重傷だなんて。姿をはっきり見た訳じゃないから全然実感がわかないが、お見舞いとかさせてもらえるのだろうか。

「でだ。イタリアにこのままいたら危ない。だから、キャバッローネが所有するプライベートジェットで今日、日本に帰国してもらう」
「え?!」
「いきなり連れてきてこんな目に遭わせて、いきなり帰らせるなんてほんとに名前にとって最悪なことばっかさせてるけど、危ない場所にずっといさせるよりも良いからな」

急展開も急展開。ジェットコースターよりも激しいこの緩急についていけてないのもあるが、目の前の彼は凄く真面目に、真摯に接してくれて、それが私の混乱をちゃんと静めてくれていた。

「あの、こっちこそ、なんかすいません」
「名前が謝ることじゃねぇ!絶対に。…はー、日本人ってなんでこうすぐ謝るんだ?怒ってもいいとこだぞ?」
「あっあっ」

不快にさせてしまったっぽい。ここでまた謝ったらまたため息をつかれるのだろう。どうするのが正解なんだと慌てていると、部下さん達が「お手伝いしますので、帰国の準備をしましょう」と声をかけてくる。ディーノさんは「また後でな」と去っていってしまった。


…………


あれよあれよという間に飛行機まで移動。自分が思っている以上に体も心も疲れていたようで、機内で爆睡。
気づけば真夜中。自宅前まできていた。
お父さんお母さんがディーノさんたちとペコペコ頭を下げあいながら話をしてるなか、何時の間にいたのだろうか、左文字三兄弟が音もなく私の後ろに立っていた。

「た、ただいま」
「おかえり」
「おかえりなさい…」
「……」

上から小夜ちゃん、江雪くん、宗三。相変わらず愛想のないやつである。

「おい、なんかいえよ」
「…っ、随分と元気そうですね」
「いたいいたいいたい!!」

何故かキレられながらアイアンクローをかまされる。こいつ疲労してる人間に対して何てことしてくれてんの?!いや宗三らしいっちゃらしいけど。
小夜ちゃんと江雪くんの優しさが身にしみるので、二人の間へ逃走し、腕をガッチリ組ませてもらう。あ、小夜ちゃんがそのままぴっとりくっついてくれる天国かな?

そんなことしてると勿論宗三は面白くないわけで、奴の背後に般若が見えるし、なんなら顔が般若みたいで怖い。こっちくんな。

「名前」
「あ、ディーノさん」

話し合いは終わったみたいで、親とディーノさん達はこちらへと戻ってくる。

「改めて、今回の件本当にすまなかった。もし嫌じゃなかったら、埋め合わせってのもなんか変だけど、イタリアの案内またさせてくれ。勿論日本でまた会っても仲良くしてくれよな」
「は、はい」

なんだこれ告白か?私プロポーズとかされてる?
心の中を読まれたのか、宗三に脇腹をチョップされ、我に返る。

「あの、こちらこそ。本当に楽しかったし、ソニアさんのことも気になるし、また、会いましょう」
「ああ、勿論だ」

やっぱりこれは告白かもしれない。
去り際もイケメンな彼らを見送って、さぁ、家の中入りますかというとこで「名前、今日小夜ちゃんたちこっちに泊まるっていってたからまた、客間で一緒に寝なさいね」とお母さんにいわれる。なんて?

当たり前の話なのだが私がこちらにつく前、事前に親に話は通していたらしい。宗三も小夜ちゃんも何時も通り家に遊びにきて、茶菓子をたべていたため、その事を耳にするわけで、心配のため一緒にいたいといってくれたらしい。
やっぱり小夜ちゃんしか勝たんすわ。
しかし、宗三も江雪くんもこっちに泊まるなんて聞いてないです。特に江雪くんなんて引きこもりなのに。
しかし逆にそれほどまでに心配していてくれたんだと思うと少しむず痒い気持ちになる。

小夜ちゃんと江雪くんと相変わらず腕を組みながら我が家の扉を潜るのだった。



…………


ディーノ達は名前達がきちんと家の中へ入っていくのを確認してから車を発車した。
無駄な気遣いをさせまいと、車は家からは視認できない所へ停めていたので向こうはその事に一切気づいていない。

さぁ、発車だ。しかし、車は一向に進まない。
部下の一人であるロマーリオが、運転席に「おい、どうした?」と声をかけた。「ボス、先程のピンク髪の男が話をしたいと」と何処か怯えたような声が返ってくる。
その時コンコンと後部座席の窓がなる。ロマーリオは警戒しながら窓を開けると、宗三が覗き込んでいた。表情は読めない。

「少し、お話しできませんか?」
「…ボス」

ディーノと宗三の間になんともいえない空気が流れる。

「分かった」
そのディーノの一言で、その空気は消え去り、ロマーリオと一緒に車をおり宗三の向かいに立った。

「で、話ってのは?」
「向こうで起きたこと知っていること全て教えていただけませんか?」
「お前は名前の保護者って訳じゃないよな。仲は良さそうだったけど、この事に関しては特別なやつ「私は“朧”の人間です」…は?」

話を早く進めるために、話に割って入るも、その言葉にはそれなりの衝撃があるわけで宗三の思い通りに話しは進むわけではなかった。
それすらも感じ取ったのか、宗三は話を待つことなく続けた。

「朧の人間ではありますが、そうじゃないと思ってもらって結構です。朧も一枚岩ではないので、あの子をどうこうする事も、する気もありません。
なので、教えて下さい」

正直どこまで信じれば良いのか分からないのが二人の本音だった。表情は全く変わらないし、そもそも本心が探れない。それに朧の人間というだけで疑わしいことではある。
少しの沈黙が続くがディーノは意を決して話すことにした。

「分かった。俺達で把握してる範囲でしか話せねぇが…」
「先程からそれでいいといっています」
「分かった。向こうに着いて通り観光したあと、名前に女の護衛を一人つけた。俺達は…まぁ、知ってると思うがキャバッローネっていうマフィアで、俺は一応ボスだからなその時絶対に片付けなきゃいけない仕事が一つあって、それを終えたら俺達もホテルに合流する予定だった。その間に名前は拉致された。誰がとまでは特定できてねぇ。それに関してはソニア、あぁ、その時の護衛の回復待ちだな。
それから名前に内緒でつけてたGPSがおかしな動きをしてるのに気づいてすぐ向かおうとしたんだが、そのやらなきゃいけない仕事ってやつに苦戦したってのと、また別の組織に襲われてな。一通り倒したあとGPSの場所に向かったら、名前と、多分朧の一人だと思われる奴がいて、その場に名前をおいて消えた」
「その者はどんな風貌でしたか?」
「黒髪で短くて、黒いスーツで、背はそこまで高くなかったな。あと目が青かったな」
「(…堀川国広でしょうか)」
「そこからは直ぐに安全な場所へ避難して、意識が戻ってから緊急帰国って訳だ」
「そうですか、ありがとうございます」
「あとは?」
「…拐われる前は、楽しんでいましたか?」
「ん?ああ、観光か?そりゃあ勿論。スゲーはしゃいでたぜ。ずっとニコニコ笑ってたしな」
「……そうですか」

その時初めて宗三の表情が変わったのを二人は見逃さなかった。
ほんの少しではあるが、目元が少し垂れ、口元も気持ち上に向いていた。

その時、ディーノのは宗三が本当に名前のことを大切にしてるんだと悟ったのだ。

「これだけ教えたんだ、俺達にも一つ教えてくれ」
「…答えられる範囲であれば」
「名前は何者だ?」
「…あの子は、普通の中学二年生。
いや、普通ではないですね。能天気で頭も弱くて、その割に小生意気で学習能力のない中学二年生です」
「…はは、そうか」

ロマーリオは何か言いたげだが、ディーノがそれを腕で制し「じゃあ、またな」と一言伝え、車へと乗り込んだ。
宗三は車がでるのを待つでもなく、用が終わるとすぐに苗字家へ足を進めた。

そんな中車内では、ロマーリオが「良かったんですか?」とたずねる。
ディーノは一言「ああ」とだけこぼして、満足げに微笑んだ。


202400110


[ 40/87 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -