歌仙と麻婆白菜

最近歌仙が深刻な表情をして食事をしているのをよく目にする。

我が本丸の歌仙と言えば料理をするのも食べることも大好き。特に嫌いなものもないので、いつも鼻唄を歌いながら厨に立ったり、素敵な笑顔でご飯を食べている。
とにかく今までこんなことはなかったため、少し心配である。


そんなある日、いつものようにお留守番組と本丸の掃除を済ませ、各々内番や、雑務をしていたとき。

私は昨日の出陣の報告書に間違いがないか目を通していた。
その中の一つ。歌仙が隊長を勤めた第二部隊での中で気になる箇所を見つけた。
昨日の夜に作成したものだから、幾分か疲れていて流し見してしまったのだろう。

因みにその気になるというものが、まだ一発では倒しきれない場所へ出陣をしてレベル上げをしているのだが、何故か一発で倒せた部隊があったという。凄く弱いわけでも、いつも通りの強さでもなく、本当に絶妙な強さだったらしい。
その後の敵部隊はいつも通りそれなりの手応えの敵だったとか。

特に問題になることではないかもしれないが、今日のお留守番には歌仙もいるし、今のうちに確認だけしておこうと自室を出て彼を探した。


…………


彼は自室にいた。
障子が半開きになっていて、正座をして机に向かっていたのが見えた。
なんだか凄く真剣な表情だ。
しかし、仕事の件なのでそのまま素通りするわけにもいかず、静かに「…歌仙?」と声をかける。

こちらに全く気付いていなかったのか彼は凄い勢いで振り向き「あ、主?!」と後ずさりする。

「な、何のようだい」
「あの、お取り込み中にすみません。昨日の出陣の報告で確認したいところがありまして」
「あ、ああ!そうか!」
「この件なんですけど…」

説明するも、頬や腕などを頻繁に触っていて落ち着きが無い様子。
これは、こっちの方を先に解決しないと満足いく回答は得られないような気がする。

「すいません、この説明より先に…歌仙」
「!」
「なにか困り事や心配ごとですか?以前から何か思い詰めているようですし、今も話に集中できていません」
「うっ」
「仕事の話なのできちんと答えて貰いたいんですが、これではいけないと思うんです。なので何かあるなら言って下さい。微力ではありますが力になりますから」

目線をあっちこっち。本人も言っていいのか悩み、うー暫く唸ったのち「その」と口を切る。

「僕って…太った?」
「え?」
「っ〜。数日前の出陣で、鶯丸に“最近丸くなったな、おかめのようだ”っていわれて!その、確かに僕は沢山ご飯を食べている自覚はあるけど、そこまで目に見えて太っただろうか!?」
「いや、え」

全然想像していなかった告白に、頭が追い付かない。本人はいたって必死でなんならものすごい決心をもって言ってくれたのに、拍子抜けしてしまったというのが本音だ。

そ、そうか。歌仙もそういうことを気にするタイプだったのか。
そうだ、彼ら刀剣男士だって一振一振個性があるのだから、これだって凄く真剣な悩みなのだ。私も真摯に答えなければ彼に悪い。

「私個人としては、太っているようには見えません。それに、沢山食べていると言っても戦場であれだけ動いているんです。太るはずがありません。むしろ筋力が上がっていると考えた方が」
「…本当に?」
「はい」
「……そうか」

私がそう伝えても、やはり一度気になったことは簡単にぬぐえないわけで、今もどこか納得がいってなさそうだ。

「直ぐに気持ちが切り替えられないようであれば、今日からだす食事をヘルシー志向なものにしてみますか?」
「ヘルシーって?」
「ええと、そうですね。野菜中心で太りにくいというか、油を沢山使わない健康的な料理ですかね?」

暫く間を置いて「するよ」とボソッと返事が返ってくる。
これを試して歌仙の気持ちが少しでも前向きに戻ってくれればいいんだが。

「分かりました」と返事をしてから先ほどの報告書の事を聞く。
が、なんだか歌仙の答えも曖昧で、はっきりとした結論はでなかった。この報告書に関しては提出を少しまって貰って、こんのすけにも相談してみよう。

自室に戻り提出できる書類等をだして、ご飯の準備のため厨へ向かった。


…………


「そんなわけで今日は麻婆白菜にします」
「豆腐ではなくてかい?」
「はい!白菜も沢山取れていますし、ヘルシー志向ですからね」

豆腐もヘルシー食材だが、私がただ食べたいだけなので今日は麻婆“白菜”だ。

「豆腐でもヘルシーはヘルシーなんですけど、そこを野菜で代用するのと、今回は豚挽き肉ではなく鶏挽き肉にします。油分が減るので元の麻婆豆腐よりも格段にヘルシーです」
「ふむ」

もともと料理をすることが好きなうちの歌仙は、自分で料理に関してのノートを作ったりしているのだが、今回の事もノートにメモを取っている。偉い。

「さぁ、作り方はそこまで違いはないですからまずは食材を切っていきましょう。手伝ってください」
「ああ、分かったよ」

ネギに人参、椎茸にメインの白菜

「白菜はしなしなになるのでこれでもかと切りますよ。そのあとは塩で水抜しますから大作業です!」

歌仙のためヘルシー志向の料理にするが、勿論ボリュームのあるご飯を食べたい男士達が大半なので、ちょっと一手間。

この材料で餃子も作っちゃう。餡はこの材料をみじん切りして少量の鶏挽きと混ぜるだけ。
麻婆白菜を丼にしてその上に乗っけちゃってもいい最高のおかずである。

麻婆白菜の手順を歌仙に教えそちらは任せながら自分は餃子をせっせと作る。
途中、今日のお留守番組の平野秋田が合流して手伝ってくれた。(他に蜻蛉切と石切丸もいたのだが、彼らは手が大きくて今回は手伝いが難しいためお皿や食卓の準備をお願いした)



…………


「「「いただきまーす」」」


晩御飯が始まり、各々好きなように食べる。
私もご飯に麻婆白菜を並々によそい、スプーンで口一杯に頬張る。美味しい。辣油をもっとかけちゃお。

チラリと歌仙の方を見ると嬉しそうな表情で私と同じようにご飯を頬張っていた。

ふふ、これが見たかった。久々に見れたキラキラした笑顔にじわじわ胸が熱くなる。
これでまた食事を楽しんでほしい。



20231215

その後何度かそういう食事を続けていたら、本人は大変満足したようで、普通のそれなりにカロリーのある食事もいつも通り美味しそうに食べるようになっていた。




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