エイリア3


非常に困った

對馬たちと分かれて家に帰ってからというもの、考えることは影山のことばかり。

また拐われるのだろうか。
また何かに利用されるのだろうか。
正直、もうあんな体験は御免だ。好き好んであんなこと望む人はそもそもいないと思うが。

というか、何かのアニメ?漫画?の世界ではあるが、今の今まで平和に生きてきたのに、ここに来て怒涛の展開はいったい何なんだろう。

本当は何となく察しはついている。サッカー中心の世界であるのと、この間のサッカー部の優勝。
完全にうちの学校のサッカー部がメインキャラって立ち位置になってるよね。しかも、あきらかに主人公ですって存在もいる。“え”からはじまって“る”で終わる人物が多分この世界の主人公なんだろう。

今更気付いたところで彼らに態度を変える気はないけども、それでも関わればこういうトラブルに巻き込まれてしまうらしい。


まぁまぁまぁ、そんなことは取り合えず置いといて、今の私のこの状況、どうすればいいんだ。

鬼道に助言を求めて連絡してみるか?
いや、今は宇宙人のことでいっぱいいっぱいだろうに、そこに影山のことなんて話したらストレスで倒れるかもしれない。
だけど、うーん。警察の手を逃れた人間で、その人間に拉致軟禁されていた訳で。
どうすれば自分が安全にいられるか、野球に打ち込めるか。


考えに考え抜いた末、親に相談してみることにした。当然の流れである。
両親も影山に拐われたことは勿論しっているし、まぁ大人だし保護者だし。
私自身考えることは放棄して日課の素振りをしていた。頭を使うのはもう疲れてしまったよパト○ッシュ
時間は夕飯時を過ぎていた。そんな時に家のインターフォンが鳴った。
嫌な予感が頭をよぎった。こんな時間、しかもこんなご時世訪ねてくる人物なんているのか?
対応したのはお母さんで、素振りをやめ、不安に思いつつ家のなかを覗いていた。

流石に考えすぎだったようで、鬼瓦という強面の刑事さんが、招かれ中へ入ってきた。
鬼瓦さんは影山をずっと追っていた刑事だそうで、私が世宇子の試合が終わり意識を失った後、両親に事情や今後のことを説明したのがこの人らしい。
確かに影山のことについて相談するのはうってつけの人物だ。

両親と横並びに座り、その向かいに鬼瓦さんが鎮座する。
事のあらましを説明し、返答をまつ。が、うーんと腕を組み唸りしばしの沈黙に包まれる。

ゆっくりと自分でその言葉を確認するように鬼瓦さんは話し始めた。

「皆さんも勿論ご存知だと思うが、今日本はエイリア学園と名乗る宇宙人達に攻撃されている。警察達は、その対処や防衛に終われる日々だ。私もそのうちの一人に成り下がっている状態だ」

出されていたお茶を一口飲み更に続けた。

「正直に言うと、今この日本に安全な場所はどこにもないというのが現実です」
「そんな!」
「ただ」

お母さんの悲痛な声にすかさず鬼瓦さんは答えるが、どうも言い淀んでいる。あまりおすすめな案ではなさそうだ。

「今、雷門中学サッカー部の者達が、エイリア学園を倒すために旅をしております。ニュースでもやっているのですがご存知でしょうか?」
「え、ええ」

おいまて、嫌な予感がするぞ。

「そこに同行するのです」
「嫌だ!!」
「名前」
「名前、とりあえず鬼瓦さんの話をまず聞こう」

本当に嫌なんです。止めないでお母さん、お父さん。

「彼らはサッカーで戦っている。勿論その旅には監督やマネージャーといった、所謂非戦闘員もいる。言い方は少し違うがな。
奈良、北海道を回って今は京都へ向かっていると聞いている。その間監督やマネージャー達は大きな怪我をおってはいない。
つまり、身を隠すよりも彼らについて日本各地を移動している方が安全ではないかと私は思っております」

最もな案ではあるけど、これからも安全かどうかなんて保証はどこにもない。
というか、本当に彼らと一緒にいて安全でいれる気がしないから嫌なんだ!!

しかし、両親はそうは思ってはいないらしい。
すごい感銘を受けたという顔をして鬼瓦さんを見ていた。お母さんにいたっては涙目になっている。
これは完全に駄目なやつだと確信した。何かが、私と円堂達サッカー部を引き合わせようとしているとしか思えなくなってくる。

「名前いいな?」
「鬼瓦さん、是非その旅に名前を同行させてください!」
「わかった。明後日には出発してもらう。準備をそれまでにすませておいてくれ」

私としては影山にというか、また世宇子の時のような拉致軟禁がなければなんでもいい。いいけど、いいんだけど!

ああ、もうどうにでもなれ。



…………


約束の二日後。
鬼瓦さんと、護衛としてきてくれた総理大臣御用達のSPの人と共に京都へ行くことになった。
荷物は何日か分の着替えと、バットとグローブ。あとは必要になりそうな日用品諸々。

両親とそこそこの挨拶をして、身を隠すように車や新幹線、バスなど乗り継ぎ、着いた先は“漫遊寺”という中学校。

この中学校に宇宙人の襲撃予告が来たらしく、雷門サッカー部はここに滞在しているらしい。

前世で見たことある中国拳法映画に出てきそうな建物だ。こんな建物にサッカーなんて完全にあの映画しか出てこないのは多分この世界で私一人だけだろう。
ついでだから野球部を覗いてみたいのだが、そういう融通は効かないんだろうか。

グラウンドまでくると、既にここのサッカー部だと思われる者達と雷門中とで練習試合をしているようだった。

相変わらず必殺技なんてとんでもない現象が起きてるなーとボーッと歩けば、雷門側のベンチにいつのまにか着いていた。
鬼瓦さんと大人の女性とが話をしている。あれ、サッカー部って響さんっておじさんが監督じゃなかったっけ?姿が全く見えないがお手洗い…なわけないか、試合中だし。

鬼瓦さん達の奥の方には木野ちゃん達マネージャー陣がいた。皆私に気付いているようで驚いた顔をしてたり、小さく手を振ってくれていた。振り返そうとひらひらと手を動かしたら、鬼瓦さんに手招きされる。
目の前には話していた女性。

「苗字さん、こちらが今回の雷門イレブンの監督兼、引率の吉良瞳子監督だ」
「話は聞きました。よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」

監督が変わったのか知らなかった。今回の旅限定でということだろうか。
美女の気迫におされてどもりながらも挨拶を返す。

「事情が事情だから、貴女には今回の旅の手助けという名目で暫く一緒にいてもらいます。間違えて選手達に本当の事は話さないように」
「分かりました」
「じゃあ荷物は後で皆とキャラバンに戻るときに持っていって貰うから、貴女はベンチで選手達を見ていて」
「は、はい」

鬼瓦さんとここまで護衛をしてくれたSPの人にお礼をいって、木野ちゃん達のいるベンチへ向かった。

「苗字さん?!あの、どうしてここに?」
「はは、えと、私もその宇宙人退治の手伝いすることに…なりまして」
「本当ですか〜!苗字先輩がいてくれたら百人力ですよ!」
「一緒に来たのは鬼瓦刑事さんと、SPフィクサーズの人よね?本当にそれが理由なの…?」

雷門さん鋭すぎる。いきなり嘘がばれそうなんですけど。
しかし、すかさず瞳子監督がフォローに入ってくれるのと、試合展開がガラリと変わり、皆の視線は自然と私から離れていったのだった。

その後も試合を皆で見守るわけだが、無償に野球がしたい。
確実に皆のサッカー楽しい!って気持ちに触発されている。
早くまた雷門のグラウンドでバット振って、皆と一緒に球追いかけてドロドロになってラーメン食べたい。

…………


練習試合は雷門が勝利を収め、皆笑顔でこっちへ戻ってきた。というか約一名ダッシュでこっちに突っ込んできている。おい、やめろ、それは完全にぶつかる。

「円堂ストップ!」
「苗字〜!!!」
「ストップ!!」
「なんでここにいるんだ!?もしかして俺たちと一緒に来てくれるのか!!」
「誰か!円堂を止めろ!!豪炎寺!鬼道!誰か!円堂の保護者!!」

突進まではしてこなかったものの、クソでか大声で至近距離をうろうろするもんだからたまったもんじゃない。
私の叫びも相当なものだったのか、木野ちゃんに鬼道他数名がどうどうと、円堂を後ろに下がらせ落ち着かせてくれようとしている。(落ち着いてないが)

「それより、本当になんで苗字がここにいるんだ?」

土門がいつものようにのらりくらりと聞いてくる。が、瞳子監督が間にはいって、嘘の理由を伝えてくれる。
わりと歓迎されてるようだし、とりあえずはどうにかなりそうだなと一息ついたとこで、違和感に気付く。

「新しい面子が増えたってのは聞いてたんだけど、豪炎寺は?いなくない?」

と聞いた瞬間、なんだか気まずい空気になってしまった。あれ、もしかして聞いちゃいけない事だったんだろうか。


20231213





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