エイリア2A

いつの間にか家に帰ってきてた。

病院から皆とどうやってわかれて、どうやって家まで来たのかよく覚えていない。
両親からひどく心配され、何をするでもなく、その日は泥のように眠った。


次の日、監督から学校の修繕、怪我をした生徒達の治療のため目処がたつまで、学校閉鎖となったと連絡がきた。勿論無闇に外を歩くのも自粛。

エイリア学園と名乗る宇宙人達の今後の動向も予測できるものではないし、日本全国が今もエイリア学園によって襲撃されている。


そして、皆薄々は予想していたが、この事件のせいで今参加している中学の夏の大会が中止になった。勿論延期もない。
完全に打ち止め。

病院であれだけ涙を流したというのに、電話越しにその言葉を聞いた瞬間また涙が止まらなくなった。勿論最後まで戦えないこと、もあるけど、三年生の先輩方の気持ちを考えると本当にどうしようもない気持ちになってしまった。それに今の状況で皆で集まって話すことすらできない。

転生して野球満喫。前世で悔しかったできなかったこともやりとげる筈なのに、どうしてこんな仕打ちばかりなのだろう。
これから先のチャンスはいくらでもあるけど、今しかできないことだって勿論ある。

野球馬鹿、何て言われる私だけど、正直今は何も出来ないくらいには弱り果てていた。

携帯がなった。こんなときに誰だろうと画面をみたら“松野”の文字。
全く用件が分からず頭に?を浮かべたまま「もしもし」とおそるおそる返事をする。

「…名前お姉ちゃん?」
「え?!太陽くん?」

当の本人の松野の声ではなく、何故か病院に入院している太陽くんの声が聞こえる。驚いているうちに後方から“苗字〜テレビ電話にして〜”と声が聞こえる。これがたぶん松野の声だ。

困惑のままテレビ電話にすると画面いっぱいにうつる太陽くんと、その後ろにうつる松野や影野たちサッカー部の入院した面子。

「えと、なんで太陽くんが松野の携帯?」
「勝手に電話かけてごめんなさい!でも、お姉ちゃんのこと心配で…」

そういうとすぐに泣きそうな表情に様変わりする。そんな顔をさせたかった訳じゃないのに。
すかさず松野がフォローにはいる。

「いやさ、苗字が大号泣したあと今にも死んじゃいそうな感じで家に帰ってったでしょ?学校も当面閉鎖って話しとか、いろんな部活の大会中止とか練習が禁止になったって連絡もきたし、今朝この子がきて苗字の電話番号知ってるか?っていうもんだから。まぁ僕たちも僕たちで苗字のこと心配してたから皆で連絡してみようってなったわけ」
「その様子だととりあえずは無事そうだな」と画面には写ってないけど半田の声がしてくる。

そうか、病院から帰ってくるとき私はそんな感じだったのか。体を直すために入院しているのに、余計な心配をかけてしまって申し訳なくなる。

「ごめん、心配かけて」

画面越しの皆はどこか安堵したような表情で笑っていた。

「お姉ちゃん、また会える…?」
「今、学校から安全のためにあまり出歩くなっていわれてる。けど、落ち着いたらまた会いに行くよ。この前はサッカーやろうって約束守れなかったし」
「うん!」

太陽くんの屈託のない笑みを見たら少しだけ心が軽くなった。
松野たちと少しだけ話をした後、通話を切ってバットをもって外へ出た。ちょっとだけやる気が出てきて、家にある小さな庭で日課の素振りをした。


…………


あの電話以来少しずつ行動が出きるようになってきた。前みたいに野球に没頭ってことはまだできないのだが、それでも少しずつ前に進めている実感はある。

あの電話以外にも、背中を押されたというか、触発された事がある。
太陽くん達の電話の次の日に土門からメールがきていた。今でも信じられない内容なのだが、あの宇宙人達を倒すために全国を旅してくるぜーといったものだった。
「は?」と思わず声が漏れてしまったのは仕方ないと思う。
しかし、土門というか、円堂達はこんな状況でも全然ヘコたれないんだと勇気をもらったのは紛れもない事実だった。

だから今、また野球が出来るように行動と勉強と前みたい戻るために少しずつ私も前に進んでいる。
野球部の連絡とれる人達と連絡とったり家や近くの公園で自主練したりする日々。
テレビでは総理大臣誘拐事件や、エイリア襲撃予告きたとか、そういう暗いニュースばかりが流れている。
円堂達がこの先テレビに出たりしちゃうのかもなと考えたりするくらいにはメンタルは復活している。


…………

ある日、リトルリーグで一緒だった友達からメールがきていた。

なんでも私に会って話したいっていうやつがいて、こんなときで悪いんだけど明日とか会えないかという内容だった。

“いや、まず会いたいって誰が?”
“サッカー部の同級生のやつなんだけど本当にただ話がしたいだけなんだってさ”
“ええ…。こっちは全然しらないのに、向こうは私をしってるってこと?怖いんだけど”
“流石に不安だろうから、俺も当日はちゃんと立ち会うからさ”
“うーん。因みにさどんな感じの話かとかは分かる?喧嘩売りにとか、野球の話なのかとか、恋愛的なやつなのかとか”
“今本人達に聞いてきたけど、影山だかって逮捕された部活の監督やってた奴いたんだけどさ、そいつの話とかいってたぜ?”

「!?」

影山?あの、影山?あまりの驚きに携帯を落とすところだった。
なんで今になって影山の名前が出てくるんだ。

友達の通っているところは帝国学園で、そこのサッカー部の奴らってつまり、影山と接触してた人達ってことだよね。

シンプルに行きたくない。
けど、わざわざこうして友達を介して影山について話したいことってなんだ?っていう疑問もある。
話の通り影山は逮捕されて今は刑務所のはず。
もし影山の息がかかっている人間だったら?
もし影山の罠だったら?
考えすぎか?でも…。

不安と恐怖があるけど、それと同時に好奇心も同じくらい大きくて、どうしようということしか考えられない。


…………


結局好奇心に負けて、私の家の一番近いペンギーゴに集合という形で、話を聞くと約束してしまった。

待ち合わせの時間より五分前に着いたのだが、既に友達が店先に見えた。横には二人。青っぽい髪と茶髪の男子。多分あの二人が話したいといっていた二人なんだろう。

「對馬ーお待たせ」
「お、苗字!久しぶり。てゆうかごめんな、無理いって」
「いいよ全然。んで、その二人がメールでいってた人?」
「そ!眼帯してる方が佐久間、んでこっちが源田。こいつ俺の友達の苗字な」

どうしてこう、サッカー部の奴らはこんなに奇抜な人が多いのだろう。断トツで鬼道が一番すごいけど。

「今日はきてくれてありがとう。源田だ」
「佐久間だ」
「よろしく」

簡単に挨拶をすまし「で?」と端的に今回のその“話”とやらを促す。

「手短に話す。影山が護送最中に車から逃げてまた何かを企んでるって噂が出てる」
「…は?」

表情を変えず佐久間はいいきった。
影山が逃げた?
嫌な汗が止まらない。足もきちんと地面を踏めているか分からない感覚になっている。

すかさず源田がフォローするように話を付け加える。

「噂だからどこまで本当かは分からないが、事実だと思う。俺たち帝国のサッカー部は影山が捕まった後まぁ、荷物やら書類やらの整理をしてたんだが、“新帝国学園”という文字がかいてある書類を見つけてな。何かの計画書だったのは覚えている。しかし、暫くしてからその計画書や、新帝国学園とかいてある物が全て消えていたんだ。多分影山が動いている証拠だ」

頭が痛い。直ぐ様家に帰って寝込みたいところだ。

「どうしてそれを私に教えてくれるの」

源田と佐久間はお互いの顔を見合わせた後申し訳なさそうな顔でこちらを見た。

「これ以上影山の好きにさせたくないのと、被害者を増やしたくない、それだけだ」
「…そう」

佐久間が真っ直ぐこちらをみてハッキリと答えた。彼らも影山の被害者。私の事は鬼道辺りから聞いたのか、はたまたそういう影山の資料などに私の情報があったのか…。さだかではないけど、この言葉に嘘偽りは無いんだということは分かる。

「話はこれだけだといいたいんだが、最後に一つ」

源田が申し訳なさそうに聞いてくる。

「新帝国学園の話を耳にしたことはあるか?」

きっと影山にさらわれたときのことだろう。

「ないよ、一度も」
「そうか」
「今日は話を聞いてくれてありがとう」
「気を付けてくれとしかいえないけど、何かあればまた伝える」

それは對馬を通してということだろうか。

「對馬にわざわざ仲介してもらうのはめんどくさいから連絡先教える」
「そうしてくれ、俺は今回の仲介大変だったんだからな」
「はいはいありがと對馬」

適当にあしらって二人と連絡先を交換する。まぁ、今後この二人の連絡が来ないこと=平和なので、来てほしくはないのだが。




20231212



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