エイリア2


状況把握のために太陽くんと手を繋いでロビーへ向かった。元々外へ行くためロビーへ向かっていたし、あそこならテレビも大きくて常に流しっぱなしだから手間取ることもなく何が起こっているのか確認できるだろう。

太陽くんの手は震えている。多分私の手も震えてる。お互いの手を励ますようにしっかり握って一歩一歩足を進めた。


テレビを見るよりもまずロビーの忙しなさに衝撃を受けた。病院の職員が声を出して忙しなく動いていて、傷ついた患者達が同じように運ばれたり、介助されながら歩いていた。
それに、玄関からも続々と怪我をしている人たちが止めどなく流れ込んできている。
全てに対応しきることは全然出来ていなくて、座る場所はおろか、床でも腰を下ろせる場所があればみなどこでも座り込む状態だった。

「なにこれ」

思わず声が出てしまうのも仕方ない。何でこんな状態に?
とりあえず当初の目的であったテレビに目を向けた。周りの騒々しさで勿論きちんと音は拾えないけど、デカデカと映るテロップに頭が真っ白になる。

“宇宙人襲来?!日本全土を破壊!滅亡の危機か?”

テロップと一緒に各地で戦争でも起きてるかのような画面がいくつも写し出された。
ここには雷門町は見つけられなかったが、病院がこんな状態だ。きっとこの街も襲われているということ。
いや、そもそも宇宙人ってなに?テロ組織とか何処かの国がいきなり攻撃してきたなんて方がまだ現実味があるのに、宇宙人???

「苗字!」

と後ろから声をかけられた。ゆっくり振り替えると、焦ったようすの豪炎寺がいた。

「いったい、何が」
「豪炎寺くん!苗字さん!」

豪炎寺に話しかけられたと同時に遠くから声がかけられる。この喧騒のなかでもクリアに聞こえる張りのある声。木野ちゃんだ。
人の合間を縫って木野ちゃんがこちらに駆けつけてきた。

「雷門中が!宇宙人に!」
「なんだって!?」
「サッカー部の皆も宇宙人にやられちゃって…」
「……」
「……」

二人の会話は途中からなにも聞こえてこなくなった。
雷門中も宇宙人にやられたって今いってたよね。
は?野球部は?大会は?皆はそもそも無事?怪我とか。もし怪我してたら、大会が延期になったとて間に合わないし、そもそも今後野球を続ける保証だって。

頭真っ白とはこのこと。

「……!」
「…!」
「苗字!!」
「!?」
という大声と共に両肩をグッと捕まれる。
目の前には怖い顔のような、焦った顔のような豪炎寺がいた。
自分がずっと呼ばれていたことに今気付いた。
意識を引き戻されて、周りの喧騒も、豪炎寺の後ろで困惑した表情の秋ちゃんも、ずっと私の手をぎゅっと握り泣きそうな表情の太陽くんも、やっと全てを認知できるようになった。

「あ、ごめ」
「俺はこれから木野と学校へ戻る。お前はどうする」
「…私も行く」

ちゃんと自分の目でどうなっているかを確認しなきゃ。

太陽くんに学校を見てくること、またここに戻ってくるからということを伝え、二人の後ろをついていった。


…………

悲惨。という言葉が割に合わないくらいに全てが壊されていた。
破壊し尽くされた校舎や、景観。傷ついた生徒や先生方。
私たち三人は皆声がでなくて、しばらくその光景を見ていることしか出来なかった。
二人がサッカー部の皆を見つけて駆け寄っていく。私も少し遅れてその後に続く。

近くまで寄ることが出来なかった。同じ学校の生徒だし、同級生だし、友達とも呼べる人だっているし、影山から、私を助けてくれた人たちでもある。
なのに、何故か声をかける距離へと踏み込むことが出来なかった。その時ふと、遠い世界の、違う次元の人達なんだと我に返ってしまった。
それに……。

「ごめん、野球部の皆のこと確認してくる」

声が出てたかどうかも良く分からないけど、喉から必死に音を絞り出してその場から逃げるように野球グラウンドの方へ走った。


こちらも勿論悲惨だった。動けるものもいれば、立ち上がることもできず寝転がってるのも。

「皆!!」
「苗字!」
「お前は無事だったんだな、そいや今日病院いくっていってたもんな」
「無事で良かったぜ…」
「私はあれだけど、けど、皆、怪我…」

何もいえなくなってると、監督が「命が無事なだけ良かったと思う他ない。この状態をみたらな」

最もだった。各々沈んでいて、怪我をして声を圧し殺して泣いている者も。そりゃそうだ。
だって、これから大会は続いていくはずだった。試合も練習も、もっともっと、これから野球を続けていくはずだったのに、立ち止まらなきゃいけなくなった。
そこから再び歩き始められるのは何時なのかなんて、誰も分からないし、そんな補償すらない。

なんでこんな、なんで、これからだったのに。許せないし、悔しいし、悲しいし、とにかく色んな感情がぐちゃぐちゃにかきみだされて、どんどん大きくなって、あ、ヤバい。
そう思った時には既に遅し。

「苗字!?」
「ぅば」
「苗字!」
「おい!手伝え!苗字オーバーヒートしたぞ!」

オーバーヒートしました。



…………

目が覚めたら見知らぬ天井。
あれ?こんな展開前もなかった?しかし前回と違うのは、側に両親と太陽くんがいた。
もしかして病院か?

「お姉ちゃん!」
「名前!大丈夫?!」
「せ、先生呼んでくる!」

バタバタとお父さんはかけていって、お母さんは安堵したのか、どっと椅子にもたれかかっていた。
太陽くんはどうしてこれほどまでに懐いてくれたのか、「良かった」と半べそかきながら私の手をぎゅと握ってくれた。

最後の記憶に残るのは野球部の状態をみて、オーバーヒートしたこと。
因みにオーバーヒートっていうのは感情が昂るあまり、大量の鼻血を出してぶっ倒れること。
前にも何度かやってしまっている。
健康診断とかでは特に問題ないといわれているので、そういう体質なんだとおもわれる。

それで運ばれたのか。しかし、以前こういうことがあった時には保健室程度で良かったのだが、今回は病院の、しかも病室のベッドとは。

「名前、精密検査とかもしてもらえるけど本当に大丈夫…?前も、鼻血沢山出しながら倒れたでしょ?」
「大丈夫だよ。というか、この前の拉致された時の検診でもとくに問題なかったんだから」
「…名前がいいなら、いいけど」
「名前お姉ちゃん病気…?」
「ううん、病気じゃないよ。たまにこういうことになっちゃう体質というか。今もとくに具合悪いとこないから、大丈夫。ね?」
「…うん」

看護師さんがきて体調に問題がないと判断され、帰宅の準備をすることに。両親に手続きや周りの整理をしてもらってる間にお手洗いへ。
用を足して外で待っていた太陽くんと一緒にロビーへ向かおうとした。が、直ぐに見知った人物を目にした。

「小林くんと半田?」
「え?」
「あ、苗字?!」

二人とも私と同じようにお手洗いから出てきたところ。しかし普段と違い、入院服を身に纏い、見てるこっちが顔を歪めてしまうくらいにボロボロだった。
話を聞けば二人の他にも入院をすることが決まってるメンバーがいる。勿論今回の宇宙人襲来の影響だが、彼等は少し違った。
なんとその宇宙人とサッカーをしてボコボコにされたとか。
正直突っ込むことも忘れるくらいに、私の心は疲弊していた。
他のメンバーにも顔を出しておこうと思い、太陽くんと一緒に二人の後に続いた。

病室に顔を出すと私に気づいたようで、皆こちらへ近づいてこようとする。しかし、相手はそれなりの怪我をおっている。無理をさせまいと、病室の奥へ素早く移動する。

「話、半田達から聞いたよ。命に別状がなさそうでよかった」
「…苗字お見舞いきてくれてありがと」

一拍おいて、一番関わりの深い松野が返事をする。微かに笑うその様が酷く痛々しかった。

お互いなんて声をかけていいか分からず、たじたじになってると「あ、あの、苗字さん野球部は大丈夫だったんですか?」と宍戸くんだっただろうか?彼に聞かれる。

「あ、うん。怪我をしてる人たちは勿論いるけど、でもみんなちゃんと生きてる、っ」
「苗字?」
「…生きてる。生きてる、けど!」

我慢していた色々なものが今になって込み上げてきて、それが決壊した。

「うわあああああああん!」
「「「?!」」」

涙も声もとめることが出来なかった。
皆が明らかに驚いて、なんならちょっと引いてるのも分かってるけど、でも、無理だ。

「命があるだけましだけど、でも、大会も明らかにできない。また今後再開したとしてと皆怪我して、リハビリが間に合うかどうかなんて分かんない。なんだったら、今後野球が続けられるのも分かんない!
なんで?!なんで、今なの!なんで宇宙人なんて。また、大会最後まで戦えない。また、なんで、なんでっ」

こちらの方が元気で、皆のお見舞いにきたはずの私の方が慰められる状況になってしまった。
かなり年下の太陽くんにすら頭を撫でられる始末。
自分は弱くて情けなくて、その事実がさらに追い討ちをかけてくるのだった。








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