13 夏休み:右腕
おばあちゃんと、こがさんと、何故か仲良くなった神主の太郎さん次郎さん兄弟と、泣く泣くお別れしあの騒がしい町へ帰ってきてしまった。ただいま我が家。
長時間の移動は寝ていたとはいえ疲れるもので、家についた瞬間荷ほどきもせずベッドへダイブしようとしたが、お母さんに玄関で「このお蕎麦左文字さんちに渡してきて」とお土産を持たされ家にはいることを拒まれた。
私の考えなどお見通しなのだろう、くそ!心の中で舌打ちしながらすぐ隣の家のインターフォンをならした。
ピンポーンとなってから一拍おいて、はいという短い返事と共にドアが空いた。
「うぃす、お土産の蕎麦」
「……」
出てきたのは親の顔より見た鮮やかな桃色の髪で綺麗な顔の幼馴染み。
しかし、様子がおかしい。
いつもだったら挨拶のかわりに罵倒がとんでくるはずなのだが、今日は無言。しかもずっと人の顔見てくるし。
「ど、どうした…?」
別に普通の人だったらそこまで変だとは思わないんだろうけど、いつもの対応があれだから、今日のこの反応は異常といわざるをえない。
流石に心配の言葉が漏れてしまうし、なんだったら右手を彼の顔の前で振って意識確認までしてしまった。
「おーい、宗三さーん??」
「…はぁ」
開幕ため息がきたので、無事そうです
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。
「帰ってきたんですね」
「帰ってきちゃったよ」
「…お土産ありがとうございます。折角ですから、兄様とお小夜にも顔を見せてってください」
「うーん、うん」
帰ってきたばかりだから自室にさっさと籠りたいけど、今帰ったら絶対お母さんにあれやれ、これやれ、と言われることは目に見えているので左文字家で休ませてもらってから戻るとしよう。
しばらく時間を開ければお母さん達も疲れてあれやこれや言わないだろうし。それにお盆が近いから絶対美味しいお菓子とか沢山あるだろうし。
左文字家で目論み通り美味しいお菓子と冷たい麦茶をいただき、幸せいっぱいで家へ戻るとやはり「洗濯物ちゃんと洗濯機に突っ込んどいてね」の一言だけですみ、その日は荷解きは洗濯物を出す以外全くせずにぐっすり寝させてもらった。宗三、今日だけは誉めて使わそう。
…………
次の日、気持ちよく寝ていたらお母さんに叩き起こされた。くっそ、なんだよ疲れてるんだよこっちはと、悪態をついていたら「あんたにお客さん。待ってもらってるんだから早く準備して!」
その言葉を聞いたとたん、奴らめ(藤四郎一家の誰か)とうとう家の中にまで上がり込んできやがった、と朝から不機嫌MAXになりながらも適当に身支度を整えて(バリバリ部屋着)リビングへと向かった。
しかし、私の予感は全く外れていた。悪い意味で。
「おはようございます」
「あ、お…おはようございます……」
誰がいたと思う?というかなんでこんなとこにいるの?その人物を見たとたん、全身の毛穴から冷や汗が止まらなくなった。
夏休みの朝(昼?)に似つかわしくない、学ランとリーゼントと舘○ろしばりのしっぶい顔で、並盛中風紀委員副部長の草壁さんが、姿勢よくリビングテーブルに腰掛けお茶をすすっていた。
え、まって。私何かしましたかね?天下の風紀委員の副部長だよ?トップは言わずもがな雲雀恭弥。それに忠実な右腕の草壁哲矢なんてもっぱら有名人だ。彼がここにいる=雲雀恭弥も関係してくる、である。
「ななななななな、なんのご用でしょうかかか」
「大丈夫か?そんなに緊張しないでほしいのだが…」
緊張するに決まってるだろ。怖いのでそんなこと言えない。上ずった声でとりあえず返事だけしておく。しかし緊張もお互いの微妙な空気も勿論消えることなく、向こうの方が先におれて話を続けた。
「実は、ある生徒の個人情報が一部虚偽のものだということが発覚して、我々も正規の情報を得ようと尽力してるのだが、その、ダメで」
全然頭が働いてないし、なんのこっちゃって感じだけど、それ一生徒の私に話していいことなのか?!というか、え、風紀委員ってそんなことして、してるのか…あの雲雀恭弥だもんな…。
そして嫌な予感しかしない。
「君にその生徒の正しい情報を得るために協力をお願いしたいんだ」
「気絶していいですか」
「えっ」
「すいませんなんでもないです」
ごほんと空気を変えるように咳き込み、「ちなみにその生徒の名前なんだが」と続けようとする草壁さん。やめろ、こんな状態の私でも凄く察しがつく。聞きたくないし関わりたくないし、関わりたくないし、これ以上面倒事はやめろ。
「一年、鯰尾藤四郎及び、骨喰藤四郎。この二名だ」
ほらねえええええええええええええええええええ!!!!!!!
気絶まではいかなかったが、その場に膝をつき蹲った私はなにも悪くないし仕方ないと思う。
どうしろというんだよ。スマホにはいっている彼らの連絡先を差し出せばすむのか?しかしそんなこと、流石の私でも人としてダメだろということは理解している。勝手に人に許可なく個人情報を渡してしまった瞬間、私の中のなにかが終わる(気がする)
「いきなりこんなことを言ってすまない」
普段の山のように見えてしまう彼も、威厳というものを感じさせないくらい申し訳なさそうにしている。たぶん罪悪感の現れだろう。
「協力というのは単に連絡先を持っていたら渡してほしいとかではなく、彼らにきちんとした情報を学校に教えてくれと君を介して伝えてはくれないだろうか」
「え、そんなんでいいんですか…?」
「ああ」
よかった。先程考えていたように個人情報渡せとか、なんならもっとエグいこととか要求されると思っていたが(なにせあの風紀委員だし)とりあえず、なんともなく事が終わりそうで一安心だ。
この一件を早く終わらせて残りの夏休みを楽しむために、草壁さんの目の前で奴等に電話し、確認をしてもらって二度寝に勤しむとしよう。
「今!ここで奴等に電話するんで!安心してください!」
「あ、ああ」
部屋に急いでスマホを取りに行き、颯爽とリビングへ戻り着信履歴から“鯰”の文字を押す。
ワンコールででやがりました。
「もしもし!」
『もしもし』
「今すぐ、早急に、直ちに、本当の個人情報を並盛中学校に提出しなさい!でないと私は死ぬ!」
『…名前?』
「いい?きちんとした、正しい個人情報だよ?迅速に行動すること!じゃあ!あ、夏休みは絶対に遊ばないからね!!」
一方的に伝えて、何かをいわれる前に即座に通話を切る。完璧な対応である。
やってやりましたよ私はという表情で草壁さんの方を向くと苦笑いされた。ひん。
とにもかくにも一件落着。お互いにペコペコと頭を下げあい別れたのち、光の速さでベッドにダイブした。明日は両親ともに仕事再開でうちにはいないし、好きなだけ寝て、自由に行動できる。
何をしようかと寝転がりながら考えていたが、ものの数分で意識は途切れ再び夢の中へ落ちるのだった。
が、お母さんを出し抜けるわけもなくすぐ起こされ、宿題を無理やりやらされた。普通に夜に寝ました。
20231008
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