乱と野菜ラーメン

最近仲間入りした四振、平野藤四郎、石切丸、宗三左文字、大和守安定。
日常生活も勿論だが、本業の時間塑行軍の撃破にも慣れてもらうため早速出陣をしてもらった。四人+隊長に乱藤四郎、そしてまとめ役として山姥切国広。
第四部隊頑張って沢山倒して沢山強くなろう!と意気込む彼らを、太陽も高く上ってから見送った。
仲間が増え、本丸に残る刀剣男士達が増えたため家事や雑務が今まで以上に早く終わる事に少し感動した。

審神者としての事務仕事も勿論だが出陣した彼らをサポートするのも仕事で、遠征に行った第二、三部隊は特に問題はないが、第一、四部隊に交互に陣形や進軍の指示を出すのは少しばかり大変だった。
普段から複数部隊への指示はしているが久々に鍛刀したばかりの刀を引き連れての複数指示だ。
今までのツケが回ってきたといってしまえばそれまでだが、正直端末の画面から目が話せず、事務仕事なんてものは一向に進まなかった。


事が起きたのはそろそろ本丸へ帰城しようかという時だった。
第四部隊は育成始めで連戦続きだったため傷をおってない者は誰一人おらず、中傷状態の者もいる。帰城してくださいと指示を出し、第一部隊の方へ目を向けたときだった。

“乱!!”
という誰かの焦った叫び声が聞こえた。
なんだと目線を戻すと、山姥切が倒したはずの脇差しにもう一度斬りかかり、それを完全に消滅させた。
画面はしには重傷状態の乱とそれを介抱する四振りが。
一体、目を離した一瞬で何が起こった?!

「何が起こったかは帰城してから聞きます。まずは迅速に、安全を確認してからこちらに戻ってきてください!」
『わかった』

山姥切が隊長の乱の代わりに返事をした。
第一部隊にも今の敵を倒したら直ぐに帰城するよう声をかけ、急いで執務室を飛び出た。


本丸に残っていた者達に重傷者がくるから手入れ部屋へ直ぐはいれるよう扉を開けといてと頼み、転移装置である井戸まで走った。

焦る気持ちを必死に押し込め、彼らが着いたらどういう風に動くか何度も何度も頭の中でシュミレーションする。
重傷者の乱を一等先に手入れしてそれから他の者達も傷の深い順に手入れ。山姥切には申し訳ないが手入れより先に簡潔に事情を説明してもらって、それから第一部隊も帰ってくるだろうから…。

なんて考えている内に転移装置である井戸が光だした。

先にきたのは重傷の乱と、中傷の大和守と平野。
中傷以上の者はこんのすけが井戸の外に転送してくれる。
着いた瞬間に、後ろに控えていた次郎太刀と燭台切に目配せし乱を手入れ部屋へいち早く運んでもらう。

「私は先に行くので、加州、大倶利伽羅、鶯丸。先程伝えたとおり、これからくる者達への指示をお願いします」

OKや、わかったなどおのおのの返事を確認して手入れ部屋まで走った。


…………

一段落して、動ける者達と晩御飯を済ませた。
山姥切から先程の状況を聞いたが単純な話だった。倒しきれていなかった敵がいて、不意を突かれたとのことだった。
既に連戦をして、各々傷ついていて、疲労もそれなりにあった状態だ。起こり得たことだが、気を付けていれば防げもしたことだった。
勿論現場の者達が一番早く気づけたことだろうが、指示をしている私だって気づけたことだったろう。

決意を新たにした矢先の出来事。これはちょっと
「へこむなぁ…」



翌日、順調に軽傷者達も手入れが終わったのだが、乱が忽然と姿を消した。


出陣も遠征も勿論しなきゃいけないため、四部隊皆送り出したあと、残った者たちで乱の捜索にあたった。(第二〜四部隊は遠征へ、第一部隊は古参でかため、隊長の判断に任せながら出陣してもらった)

屋敷の中も庭も裏山の麓も、探せるとこは全て探したつもりなのだがそれでも全然見つからない。流石短刀。なんて言ってる場合ではないが、本当にどこにいるのか全くわからない。

二時間ほど探して、一度緊急の連絡などきてないか確認のため執務室へ戻った。
ため息をつきながら障子を開ける。PCや端末には特に急ぎのメールも連絡も入っていなかった。
捜索に戻るため部屋を後にし縁側を歩いているとガタッと音が聞こえた。

音の方向は外。正確にいえば農具や外で掃除、作業するための道具をいれとく物置小屋からだった。
乱?それとも鼠?ただ道具が倒れただけ?どのみち音がしたからには中で何かが起きたのは間違いない。

小屋の前に立ち、恐る恐る戸を引く。
慎重に中を除くと薄暗くてほこり臭くて、でも直ぐにその物音の正体に気づいた。薄暗い中に光る青い目。

「こんなとこにいたんですね」
「…あるじさん」

煤やホコリだらけになった乱が、悲しそうな顔でそこにいた。


…………


皆に見つかったことを報告し、話を聞くために執務室へ彼を通し、お互い向き合って話をしている。
しているとは言ったものの、むこうは一向に口を開かず、ただ黙って正座をして膝の上に乗せている両の手を見つめている。酷く悲しそうな顔をして。

名前を呼んでも、どうしたのかたずねても、時間がただ過ぎていくだけ。どうしたものかと頭を悩ませるが、会話が一方的になるのも違うし、うーん。

ぐぅ。
自分のお腹が間抜けな音を立てたのがわかった。幸いにも小さな音だったため、自分しかわからないが、流石に恥ずかしい。よくよく考えれば今は昼の一時をとうに過ぎていた。
そういえば、乱は昨日の夜から何も口にしていない。お腹だってすいているはず…。

ピンと閃いた。お腹がすいていれば誰だって精神がまいってしまう。決して自分がお腹がすいたとかではない。

「すこしここで待っていてください!絶対にここから出ないでくださいね!でないと私、泣いてしまいますからね!」

念を押してまたいなくならないでと忠告し、厨へと小走りで向かった。
お腹もすいただろうし、季節的に外も寒くなってきている。小屋ではあるが外は冷えるし、そんなとこに素足と寝間着でいるなんて自殺行為だ。

温かくてお腹も膨れて栄養もたっぷりで、とにかく、乱にあんな顔は似合わない。また何時もの愛嬌のある可愛らしい笑顔を見せてほしい。


…………

出来たものを執務室へ持っていく。
「お待たせしました」と声をかけると、彼はこちらを一瞥し、一瞬固まった。

「さぁ、食べてください」

目の前のお盆に乗っているそれは野菜たっぷりのラーメン。スープは醤油。
色んな野菜に、挽き肉に、にんにくも生姜もたっぷりいれて体の芯からあったまる私特製ラーメンだ。卵は茹で玉子じゃなくて生卵を落として固まりかけてるやつ。
彼はラーメンと私を交互に見つめる。

「昨日の夜から何も食べてませんよね?それに寒かったでしょう?昨日の出陣でのことが辛いんですよね、きっと。話をするのだって体力がいりますし、ああ、すいません。私も伝えたいことが全然まとまらなくて。
その、お腹がすいてはなんとやらっていうじゃないですか。まずはご飯をしっかり食べて休みましょう。私も辛いときはそうですし、その、急かしてしまってすみません」

ゆっくりとだが、自分の今思ってることを伝え、頭を下げる。

その時小さく「いただきます」という声が聞こえた。
頭を上げると、ラーメンを二、三本ゆっくり啜って、スープを一口飲んでいた。
野菜をつかみ食べ、また麺を啜る。熱いものだから、ふーふーと冷ましながらゆっくり食べ進めていた。
そして、幾分か食べ麺を啜っている途中表情が崩れた。大きな瞳がうるうるして、眉も下がり、口元が何かをこらえるようにぐにゃりとまがる。

「うっ、うう〜〜」
「だ、大丈夫ですか」
「おいしい…おいしいよぉ、あるじさんっ」

右手に箸は持ったままだが、ポロポロこぼれる涙を左手で一生懸命拭う。それでもそれは追い付かなくて、お盆や寝間着にぽたぽたと落ちていく。

泣いて、拭って、食べて。それを繰り返し、時折「おいしい」と言ってくれる姿をみて、ああ、もう大丈夫だなと安堵した。

「ゆっくり食べてくださいね」
「うんっ」
「おかわりもありますからね」
「…ぅん」



「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
食べ終わる頃にはすっかり泣き止んではいたものの、鼻も目蓋も赤く染まっていて、時折ズビッと鼻を啜っている。
それでも先程とは違って憑き物が落ちたように表情は晴れやかだ。

「あのね」
「はい」
「不意打ちをもらって重傷になったのも勿論悔しいし恥ずかしかったんだけど、その脇差しを倒したのボクなんだ」
「つまり、」
「うん、自分のやりそこなったやつに不意打ちもらっちゃったってことなんだ。今回、新人部隊の隊長任せてもらって、見本にならなきゃいけないのにそんな失態をさらしちゃって、本当に悔しくて恥ずかしくて、こんなボクのことあるじさんも絶対呆れてるって思って」
「そんなことありません!」

どんどん下を向いていく乱の顔を優しく持ち上げ、目を合わせて否定する。

「私も最近、政府に怒られて皆に失態を晒しました。皆同じです。失敗も失態もなんでも、みっともないことも全部だしていいです。私だって誰だって完璧でいることは出来ないんですから!」
「あるじさん」
「ちょっとずつでいいんです。一緒に成長していきましょう」
「…うん!」

彼のを頬を包んでいる私の手。その上に更に彼は手を重ねる。あったかい。


20231008



「それにしても、小屋も一度探したんですがずっとあそこにかくれてたんですか?」
「ううん。皆が探してるのわかったからちょこちょこ場所を移動してたんだ」
「(なるほど道理で見つからなかった訳だ)」


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