11 夏休み:からすおじさん

来たぜ!おばあちゃんの住む田舎へ!

東京から車に揺られてうん時間。北の方にあるお母さんの実家、おばあちゃん家へやって来た。
いつもはお盆時期に行ってるんだけど、今回は親の休みの関係で夏休み初日から来たってわけ。
東京に比べれば静かだし、涼しいし、ゆっくりダラダラできるし、ご馳走三昧だし、何よりお小遣いがもらえるのだ!これ学生にとってとても大事なイベント。臨時収入って誰がもらっても嬉しい物でしょ?

うちのおばあちゃん基本的に沢山食べろ、沢山遊べ、沢山寝ろ。とにかく子どもはやりたいことやれの精神の人なので、崇拝せざるを得ないくらいにはおばあちゃん大好きである。田舎なので遊ぶ事には困るけれども、正直サブスクあれば今は生きていける人間なので、もうここに住みたい。おばあちゃんにグデグデに甘やかされて生きていきたい。

そしてあらかじめ説明しておこう。おばあちゃんのうち、少し特殊なのだ。
何がと聞かれると、その家に住んでいる住人がだ。え?お母さんの実家なのだから、お母さんの両親。つまりおばあちゃんとおじいちゃんがいるのではないのかって?おじいちゃんに関しては、まだ見た目おじいちゃんとも呼べない年齢でこの世を去ったらしい。私もおじいちゃんの顔は写真でしかみた事ない。
じゃあおばあちゃんの一人暮らし?いや、そんなのどこも特殊ではないだろう。なんと隣のうちのおじさん(?)が老人の一人暮らしは大変だろうということで、常時とは言わないが、ほぼ一緒に暮らしている。もちろん自宅はあるので、夜とか朝早くはそちらへ帰っている。半同居と言っていいのだろうか。
田舎の人間はあたたかいなんて言葉では到底おさまらない懐の深さのお隣さん。
因みにかれこれもう何十年もそうして過ごしてきているので、ほぼ家族みたいになっている。
セコい人間なら「え、それ時給いくら?」なんて事を思ってしまうだろが(私は思った)なんと無償。つまり彼の善意。ボランティア精神で成り立っている。ありえない。

そんな生ける菩薩と称してもいいくらいな彼は“小烏丸”と自称している。苗字は聞いた事ない。
先ほども述べた通り、おじさん(?)には到底見えない見た目で、なんなら少年ですと名乗っても信じてしまうくらいに整った童顔をしている。実際問題年齢を聞いたら三メートルは飛び上がれるくらいには驚く。いや、ちょっと盛った。
あと少し触っただけで折れそうなくらい細い。だいぶ小さいころ“ホラー◯ン”なんて呼んでいたくらいには細い。羨ましい。私の脂肪を分けてあげたいくらいだ。
しかし見た目とは裏腹に、おばあちゃんの趣味の畑仕事をそつなくこなすくらいには体力も力もある。これが男の力だか、父の力だか、なんやかんや言っていた気がする。
そんな不思議だけど、とてつもなくできた人間の“こがさん”。もちろん彼もとてつもなく優しくて、おばあちゃん同様グデグデに甘やかしてくれる大好き。


………………


先にお墓参りを済ませてからおばあちゃんちへ。
木造の決して綺麗とは言い難い家だが、畳の古い匂いとか、縁側から吹き抜けてく風とかが気持ちよくて好き。

「まぁまぁまぁ、お帰り」
「待っていたぞ」

「ただいまお母さん、こがさんもただいま」
「お義母さん、こがさんお久しぶりです」
「おばあちゃん、こがさんただいま!」

「隆さんも名前もお帰り。さ、立ち話もなんだし、疲れてるでしょうから早く上がって!」
「どれ、我も荷物を持とう」
「ありがとう」

朗らかな笑顔で迎えてくれる二人は何も変わってなくて、なんならおばあちゃんの洋服が新しくなっててちょっと前にあった時より若く見えたりした。
まだ全然休めてないし、なんなら長距離の車移動で体がガチガチで疲労してるくらいなのにもう楽しい。
ここ最近私に優しい人間の割合が減っていたから。菩薩二人に笑いかけられるだけでもう心が満たされるしウキウキする。
夏休み、最高…。

………………


仏壇にお参りして、茶の間でお菓子と麦茶をいただきながらいろんな話をした。もちろん近況のことがメインだが。
私の学校の話題になり、多少愚痴っぽくもなったが、ニコニコ嫌な顔ひとつせずに聞いてくれるし、否定をしないでくれる。
話す話題は尽きず、晩御飯の準備するからゆっくりしてとお父さんと二人だけ残されたものの、お父さんは長距離運転の疲れで直前まで寝ると横になってしまった。
一人残されてしまった私といえばテレビを見ることとスマホをいじることしかやることがないが、逆にそれだけあれば何時間でも一人でいれる。
いつものソシャゲにログインしとくか〜、とスマホの電源を入れたところで「名前」と声をかけられる。おばあちゃんだ。

「こがちゃんと一緒に畑で野菜取ってきてくれない?」
「いいよ〜」
「ありがとう!ご馳走作っとくからよろしくね」
「はーい」

因みにご馳走とはおばあちゃん特製のお蕎麦と、近所のおじさんとこの豚を使ったカツである(車の中でお母さんがそう言っていた)
おばあちゃんはこの町の蕎麦同好会にもう十年ほど入っている。なので腕前もそこそこ。定期的にうちにも手打ち蕎麦が届くのだがナマモノなのでそんなに大量には食べられない。ここにきた時はおばあちゃんも張り切って沢山打ってくれるので食べ放題なのだ。口の肥えた左文字家も一目置くくらいには美味しいので間違いはない。カツに関してはあれだ、酪農家さんから直接いただいてる物なのでいうまでもない。それ以外にも沢山おかずが出てくる。食べきれないほどにだ。それにこれからこがさんと一緒にとりにいく野菜も冷やしてそのまま食べるだけで最高に美味しい。

歩きながら口内にたまるヨダレを飲み込むとすぐに目的の畑へつく。といっても趣味の範囲でやっているものなので家の裏にあるそこまで大きくないものだ。大きくはないがそれなりの種類があって、こがさんも手伝っているので手入れが行き届いている宝石箱と言っても過言ではないくらいのものである(母談)

「こがさ〜ん、トマトたべた〜い」
「ここで食べてしもうてはせっかくの馳走が食べられなくなるぞ」
「小さめの一個だけ味見するだけだもん」
「・・・そうかわいい顔で言われてしまっては仕方ないな、一個だけだぞ、ほれ」
「やった!」

真っ白な手にのる今にも破裂しそうなくらい赤々とした小ぶりなトマトを欲張りなので一口丸々食べてしまう。

「ほほ、詰め込みすぎよ、子リスのようだ」
「んう゛ん」

口いっぱいに爽やかな甘さとしっかりした果肉を感じられて大変良きです。
世間ではトマト=甘いが美味い方程式だけど、私は甘すぎずちゃんと噛みごたえがある方が好き。もう一個行っちゃおうかなと目線をキョロキョロさせていると、「これ、これ以上は我も厳しく行かせてもらうからな」と宣言されたので大人しく野菜を一緒にとる事にした。

「名前、お隣さんもそうであるが、新しい友人達とも仲良くしているようで我は安心したぞ」
「え、さっきの話を聞いてなんでそう思ったの?!」
「いやよいやよも好きのうちというだろう」
「嫌ですけど?!」
「表情も楽しそうだったしの。我の目は誤魔化せぬぞ」

ふふと楽しそうに笑ってるけど、全然そんな事ないし、これに関しては否定しても勘違いを解いてはくれなさそう。こういうとこはおじさんくさい。

「しかし、楽しいからと言って危ないことに巻き込まれるのはいささか心配よ」
「だよね!!?こがさんもそう思うよね!?」
「遊びも行き過ぎては危険なこと、紙一重だろうて。大きな怪我とかはしていないか?」
「はいはいはい!!!!!膝とか肘とかしょっちゅう擦りむいてまーす!髪もちょっと焦げたりすることも多々あるし、胃痛も増えました!!」
「ふむ、それくらいであれば問題なさそうだ」
「どこが!?」
「今ここにいるのがその証拠だろうて」
「くっ!!」

確かにここにいる時点でめちゃめちゃ健康的じゃん。

「・・・名前」
「なに」
「蟇ゥ逾櫁?という言葉に聞き覚えは?」
「ん?なんて?」
「・・・いや、なんでも」
「埴輪?」
「・・・もう、か」
「こがさーん、だからなんて?」
「いや、そろそろ戻ろう。馳走ができている頃合いよ」
「?うん」

一瞬だけこがさんの表情が固まっていた。なに?私の聞き取り能力低過ぎて引かれた??いや、確かにここ最近会話をしていて聞き取りにくいなぁと感じることが増えたけど、まだ中学生なのにこんな事になっててちょっと焦ってたりするけど!!引かないでこがさん!引くくらいならさりげなく耳鼻科紹介してください。

明らかに話をはぐらかされて、ご馳走だと家へ戻ることになったけど、割とそのさりげない態度に心の中でちょっと泣いた。


・・・・・・・・・


先ほどのことなど気にならないくらいに蕎麦もカツも美味しい、最高。
聞き取り能力が衰えてたってなーんも気にならない。だってこんなに美味しい料理を食べられてるんだから。現金な人間だって今まで何万回と言われてるので気にしないからな。

こがさんも先ほどの反応が嘘のようにお父さんと楽しく晩酌している。さっきのはやっぱり見間違いかもしれない。なんたってあの菩薩のようなこがさんが私の耳が悪いくらいであんな反応するわけないもの。
なんの気無しにスマホに目を移すと相変わらず凄まじい程のlimeの通知。見なかったことにしたい。いや見なかったことにするんだけど。そうじゃないんだ、私は宗三にお蕎麦沢山で最高ですって飯テロしたかったんだよ。

所狭しと並んでいるご馳走を一枚ぱしゃり。宗三に飯テロしてやると、お蕎麦のお土産楽しみにしていますと、クソ面白くない反応がきた。
毎年お盆帰りには左文字家へのお土産としてお蕎麦を持たされるのでそれのことだろう。
宗三つまんないやつくそ。


 ・・・・・・・・・


一通り食べ終えて、お風呂も済ませて縁側の椅子に腰掛けているとこがさんがきた。なんと手には赤々としたスイカと塩を持っていて「共に食べるとしよう」と。
スイカ大好き。これもおばあちゃんが趣味でつくっているものだろう。
あんなに沢山食べたけどスイカは別腹。なんならスイカなんてただの飲み物とほぼ一緒だ。
小皿を受け取り手前にあるスイカを一つとる。ぎっしりした実には綺麗な黒い種。私は最初にフォークで全部とっちゃタイプです。

機嫌よく鼻歌なんて歌っていたら「辛くはないか?」と声がした。勿論こがさんが言ったことなのだけれど、いきなりなんのことだ?

「新しい出会いは、そなたにとって苦痛にはなってはおらぬか?」
「どういうこと?」

そう返すと、少し悲しそうに微笑む。こんな表情初めて見たかもしれない。・・・いや、前にもどこかで。

「ふっ、こちらに新しく生を受けてまだ少ししか経っておらぬのに、我が子らはやはりそなたが・・・主がいないと生きてはゆけぬのだな」
「な、なんの話」
「しかし、それでは主が辛かろうて。やっと籠から抜け出して空を飛べたのだ、もう少し自由であるべきではないか?」

こがさんの言っていることがなに一つ理解できない。というか、この人は本当に“こがさん”なのだろうか?

訳がわからず、なんていえばいいのかも分からず困っていると、目の前の彼は優しく微笑んだ。

「大丈夫だ。もう少しだけ我が主を自由でいさせてやろう」

そう言って向かいに座っていた彼は席を立ち私の目の前立つ。
何かされるのか?と身構えた。また先ほどと同じように優しく微笑みその白く透き通った手で私の両頬を包み込んだ。見た目とは裏腹にちゃんと温かいなんて思っていればどんどん顔が近ずいた。
え!?なんて思っていたら、お互いの額が合わさる。お母さんが自分の子供の熱を測るかのようだった。
どこにどう目線を向けていればいいのかわからなくて、上目を使ってみれば彼の長いまつ毛が目に入る。お人形さんみたい。なんて考えていたら彼が何か唱えていることに気づく。なにを言ってるんだろう。しかし不思議と私の瞼は重力に負けて落ちていく。

最後に覚えているのは赤い炎みたいなものと、彼の優しい声。
けどなんて言っていたかまでは覚えていない。




その日の夜。
全く覚えてはいないけど、とても幸せな夢を見た気がした。


20230627





[ 34/87 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -