同田貫と豚汁

※方言間違っていると思いますが生暖かい目で見てください


心機一転、これから初心に返って気を引き締めてでも、命大事に頑張っていきましょうということで、定期的に行っている炊事会。
料理して食べるだけなのだが、この会はお外で総出で料理をして食べる謂わば自宅で行う炊事遠足みたいなもの。

今回は豚汁。わいわいガヤガヤと皆で協力して何かをするというのは好きだ。
普段事務仕事ばかりで皆と何かをやるとなると、それこそ食事の準備だったり掃除洗濯のような雑務。それに皆で一緒にやるということもまずない。
私は指示ばかりで彼らと一緒に戦場に立って戦えないから、共同作業というのは皆の表情も感情も直に目にすることができるし、何より自分も彼らの役にたっていると目に見えて実感できるから好きだ。
こんな卑屈な考えをしていたら怒られてしまうのだが、そう簡単に考え方とは変えられないものだ。ちょっとずつちょっとずつ、前向きになれればそれでいい。

「同田貫、お芋の皮剥き終わったので適当な大きさに切ってこの水の入った鍋に入れてってもらっていいですか」
「あいよ」

うちの同田貫は勿論戦闘意欲は強め、最初の頃は戦闘以外の内番や雑務は苦手だった。しかし私の霊力の影響なのかただの個体差なのかは分からないが、やり方さえ覚えてしまえばそこまで嫌がるわけでもなく、最低限の事は手伝ってくれるようになった。
こうして炊事会でも手伝ってくれるのは本当にありがたい。手が足りないという意味でもだが、コミュニケーションをとれる場が多くなるという意味でも嬉しい。

「…おい、なんだよさっきからじろじろこっちみて」
「ああ、すみません。料理する姿が板についてきたなぁと思いまして」
「刀としてはあんまり嬉しくねぇな」
「ふふ、刀としてはですか」
「深い意味はねぇよ!」
「はい、勿論です」

本当かよとぶつくさ文句をいいつつも、ちゃんと手を動かしてくれる辺り満更でもないと思いたい。

「これどうするんだっけ」「次はこうだからこうしといた方がいいよね」「あっ、危ない、それはこうしといたほうが」「ありがとう!じゃあ次は」周りを見渡すと皆が意志疎通をして、どうすればいいか考えて動いてくれている。
私が考えている理想の状態。これからまた新しい刀剣男士たちが増えていくと、こうした状態を維持していくことが出来るかとか、そもそも皆でこうして炊事会をまた開けるだろうか、もっと大人数をそもそも纏められるのか、沢山の不安もあるけど…。

「おい、手が止まってるぞ」
「あ、すみません!」
「あんた考え事しながらやって前に手切ってんだから気を付けろよな」
「うっ、そうでした」

同田貫に言われた通り考え事をしながら料理はしてはいけない。しかし以前にも何度も同じことをして、しまいには手を切った時も。
勿論注意されるのは同田貫だけでなく、他の刀剣男士達にもだ。


「主〜、米炊いちゅう間にワシらおにぎりの具とかとってくるぜよ」
「はい、おねがいします!」
「あ、まって陸奥守さん、ボクと秋田も一緒に行く」
「おう!そういうことじゃ、何人か離れるき、何かあったら呼んでくれ」
「分かりました!」


「主〜鶯丸さん掃除サボってる!」
「もー、料理免除のかわりなのに…。すみません長谷部、鯰尾と一緒にいって鶯丸の監視と掃除の方へ回ってもらっていいですか?」
「まかせてください!!」


「ねぇ主」
「はい」
「人参も大根もあまりそうだから、前にもだしたけど野菜スティックとかもあれば箸休めにいんじゃないかな。他のサラダもあるけど、おつまみとかおやつ感覚でいけそうなのもいんじゃないかなって」
「なるほど、いいですね!いつも通り夜までどんちゃん騒ぎになるでしょうし、なにより人数も後から増えるでしょうから作っちゃいましょうか」
「だね」
「ソースなんですけど、味噌マヨネーズ以外にも何種類か作っときましょうか」
「うん、それじゃあ伽羅ちゃん借りるね。三種類くらいあればいいよね?一緒に作っておくよ」
「ありがとうございます」


―――♪
「はい」
『も、もしもし。主、きこえているだろうか?』
「はい、聞こえていますよ。どうかしましたか?」
『それが、次郎太刀殿が暴走して、自分と堀川ではとめられず…』
「ああ…やはりそうなってしまいましたか」
『申し訳ない』
「いえ、いいんです。こちらこそ苦労を掛けて申し訳ありません。とにかく、買い物自体は終わったんですね?」
『はい』
「では、ご馳走を作って待っていますから、気を付けて帰ってきてください」
『は!それでは失礼します』
「はい、まっていますね」
ピッ



「やっぱりあんた審神者として向いてるよな」
「え?」

一息ついたところで同田貫が声をかけてくる。どうやらお芋を切るのが終わったようで、一息ついてるとこらしい。

「えっと」
「さっきから回りの奴らの意見聞いて、んでもってちゃんと指示してうまいこと現場を回してんだ。あんたは上に立つ人間としてうまくやってるよ」
「ど、どうしたんですかいきなり!」

柄にもなくべた褒めな彼が、らしくなくて思っていたより大きな声がでてしまった。

「なんもねぇよ。……強いていうなら激励ってやつだな」
「激励」
「いってただろ、今まで以上に頑張るんだって」
「…はい」

炊事会を始める前に行った報告会。
彼等になんで今回お呼びだしをされたか、私はなんでそうしてたか、じゃあこれからどうするか。そういったことを全て打ち明けた。
勿論厳しい意見も出たけど、それでも皆で再出発しようとなった。
だから炊事会をしてるのだけど、こうして個人的に声をかけてくれたのは何人かいたが、まさかこうして同田貫から激励を貰えるとは思っていなかった。
じわじわと嬉しさが滲んでくるのが分かって、口許が緩むのが押さえられない。

「ニヤニヤしてんなよ」
「す、すみません。本当に嬉しくて」
「へっ、やる気出てきたろ?」
「はい!」
「んじゃ、後よろしくな」
「はい!ん?」

彼はその場から立ち上がりポンと私の肩に手を置いた。

「結構手伝ったろ?他の奴らも割りと自由にやってるようだし、俺はそこでもて余してる和泉守と軽く手合わせでもしてくるわ」
「ちょ」

何かをいう前に、もう彼は後方にいて、和泉守の近くにいた。

「も〜」

仕方ない。上手くしてやられた感が凄いが、ここまで手伝ってくれたのも事実。

「二人とも!ほどほどにしてくださいね!」
「おー」「へーい」

二人は手を上げて行ってしまった。

激励も貰ってしまったし、食材の下処理はほぼほぼ終わってるんだ。

「さて、残りも頑張りますか」


…………


皆で雑務やら炊事会の準備やらをしていればお昼もとっくにすぎて午後の四時。
準備自体は二時頃に終わっていて、買い出し組が帰ってきた瞬間に会は始まった。既に一杯引っ掻けてそうな次郎太刀を筆頭に困り顔の蜻蛉切と堀川が荷車をひいていた。
彼等が戻ってくる前、さっそく四振り分鍛刀をした。会が始まって皆で話したり、遊んだり、ご飯を食べたり、新しい刀が来るのをワクワクしながら楽しんでいた。

「よ、もうしょげたりはしてねぇな」
「同田貫。はい、ご飯も美味しいですし、皆が楽しそうで見てるこっちも楽しくなりますしね。あと新しい刀達が来るのもワクワクしています」
「なら大丈夫だな。てか、あんたそれしか食ってねぇのかよ。相変わらず食がほせぇな」
「これでも今日は沢山食べてますよ」

沢山動く刀剣男士達と比べて私は事務仕事メインだ。今日はそこそこ動いたけれども、食べる量は元々違うのに。

「ほらよ、もっと食えよな」
「わわ!こんなにですか、もうただの煮物みたいになってますよ」

今日の豚汁はほとんどの具材を大きめに切って食べごたえのあるものにしたのだが、彼は自分の山盛りになってる具材を私の具材にもうつしてきて、まじまじと顔を見れば少し火照っていた。きっともう酔っている状態なのだろう。

自分の分が少なくなったからとおかわりをしに行ってしまったが、かわりに私の器は汁物というより煮物のようになってしまっている。でも

「…嬉しいなぁ」


その日は皆お腹がはち切れるまで食べて飲んで、新しい四振りを迎え入れる頃には潰れかけてた。しかし、そこから歓迎会というなの宴が続くのだった。


20230627





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