おさわりしたい南泉


午後から第一、二部隊が出陣予定で、それまでの間休息のため昼寝をしていた。
昼御飯を食べた後、執務室へ戻りお気に入りの座布団を二つ折りにして頭をのせる。今日は天気が良くて心地よい風も吹いてるから、戸は開けたまま。
障子からもれる微かな光と、ふわりと肌を撫でる優しい風。直ぐに夢の中へと旅立っていったのはいうまでもないだろう。


心地よい夢を見ていたはずなのに、なんだか暑くて重苦しくて、呼吸がしにくい。きちんとアラームをかけておいたのだが、それを聞くことなく目を覚ますことになってしまった。

なんなんだいったい。夢見が悪くなるのは何かの予兆か?と重たいまぶたを開けて体を起こそうとするも、それも叶わない。
金縛りか?
鈍い頭を必死に働かせるため目は霞んでるものの、視界からの情報を必死に集めた。キョロキョロ動かせば自分の胸元に何か乗っかっていることに気づく。
段々クリアになる視界に写ったのは金色の頭。

「……なん、せんか?」
「……」

返事はないけどその頭に気づいたことで、これは金縛りなんかではなく、ただ彼が私の体の上にうつ伏せに乗っかっているせいでこんな状態なのだと気づいた。

動く気配はない。
体が密着しているせいで、トクトクと南泉の心臓の音も、私の心臓の音もよく聞こえる。彼の方が少しばかり速いみたいだ。

というか、彼の顔の位置。完全に私の胸に埋めている状態じゃないか?
刀ではあるが男所帯。最初こそ恥ずかしいと思うことも多々あったが、流石に慣れたのか、はたまた感覚が麻痺してきたのか、こういうことにも動じなくなってしまった。

何故彼はこんなところで寝ているのだろうか、しかもこんな状態で。
気づいたら隣で刀剣男士達が寝てたなんてことは過去何度もあったものの、流石に自分の胸に顔を埋めて寝られるなんてことは初めてだ。
さて、どうしたものか…。

「南泉」
「………」
「南泉、起きて」
「……」

先程も伝えた通り、心臓の音がよく聞こえるのだ。私が呼び掛けるたび、彼の心臓の音は大きくなっていることに気づく。
これは狸寝入りだと確信したのは速かった。
起きたくない、または私を寝たままだと勘違いさせていたいということだけど、それでも意図が見えない。

違う視点で考えてみよう。
私だったら?どういうときに誰かに抱きつきながら寝たくなる?
寂しいとき
甘えたいとき
悲しいとき
くらいしか思い付かない。
じゃあ彼もこの中のどれかに当てはまるのだろうか。
とにもかくにも、共通するのはマイナスな感情なこと。でもそれが必ずしも当てはまるとは限らない。
ああ、分からない。考えても考えてもあまり人付き合いが得意じゃない私には解決は難しそうだ。
直接彼の声を聞きたい。

「南泉、知らないかもしれないが今日の第二部隊の隊長は日光に変更になったんだ。もうすぐ執務室へ訪れると思うぞ」
「にゃ!!」

狸寝入りをやめて文字通り飛び起きた南泉。すぐさま逃げようとしたものの、そんなこと許さない。服の裾をおもいっきり引っ張ればそのまま脚を滑らせ尻餅をついた。ちょっと痛そうだ。

「南泉」
「は、はい!!…にゃ」
「怒ったりしてないし、怒る気もないから、何故こうしてたのか教えてほしいのだけど」
「うっ」

目線が凄まじい勢いで泳いでいる。
理由があったからしてたのは明白だが、そんなに返答に困るものなのだろうか。
気づけばお互い正座して向き合っていて、その間にあるのは沈黙だけだ。

絶対に責めもしないし、誰かに何か報告したりもしないということを信じてほしくて、膝にのっている彼の手にそっと自分の手を重ねた。
ビクッと体がはね、おそるおそるこちらの表情を確認してくる。安心させようと、自分ができうる限りの優しい表情をしてうなずく。

「ずっと前から、その、主に触りたくて」
「うん」
「にゃ、にゃんでかわかんねぇけど!!見るたびに触りたくて、抱き締めたくなって、んで、その、我慢でき…なくて。すまねぇ……にゃ」
「うん」

さて、理由は聞けた。そうなると…

「うーん、その理由だと…あなたは、私に好意を持ってるってこと、なのかな?異性的な意味で」
「好意」
「つまり、好きってこと」

好きという言葉を口にしたとたん、今起きている事態をようやくちゃんと理解できた気がした。
顔に熱が集中して、脈拍が速くなったのもわかる。それは彼も同じようで、顔を真っ赤にして驚いてるようだった。

「す、すき」
「…そ、うなのか?」
「そ、そう…かも」
「そうか」

先程とは違う沈黙。いやに雰囲気が甘ったるいのは気のせいじゃないだろう。
いや、そんなことはどうでもいい。問題は彼が私に好意を持っていること。しかし私は彼のことを意識したことはない。

彼の顔を見ることはできないが、熱っぽい視線がこちらを向いているのはわかる。

「な、なあ」

話しかけられて顔を上げざるをえなかった。けど、その表情を見なければ良かった。
思わずドキッとしてしまった。
今まで見たことのない蕩けそうな表情。けど今にも泣きそうな表情にも見える。

「もっかい…抱き締めてもいいか?にゃ」

その言葉が何故か“好き”とか“愛してる”っていう風に聞こえてくる。
これに返事をしてしまえば全てが決まってしまいそうな気がした。

返事は―――


20230626

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