番外1、源氏兄弟と花見

※本編始まる前の話


「妹!花見をしに行くよ!」

また来た。春風とともに嵐が来た。
ニコニコといつも通り人畜無害ですという顔をして私の部屋にズカズカ入ってきた髭切お兄さんと、凄く申し訳なさそうな顔で大量の荷物を抱えている膝丸くん。

小学校の頃まではちゃんと玄関でチャイムを押して礼儀正しくしていたはずなのに、中学に入学してこれってどういうこと?
チャイムは鳴っていないし、家にはいる許可も出してないし、部屋のノックの音もないし、こんなことして許されるの家族だけだよ?(家族でも部屋ノックはしてほしいけど)ほぼうちの家族といっていい左文字家の人間ですらチャイム押してるよ?どうしたの?え?不法侵入?

「もう、もっと嬉しそうな反応してほしかったな。お花見だよ?」

お兄さん、後ろ。後ろの弟の顔見てあげて。凄い顔してるよ。まじであり得ないくらい歯くいしばって大量の荷物かかえてるけど、その荷物全部押し潰しそうなくらい力こもってるよ。

その膝丸くんといえば、やっとの思いで振り絞った声でぼそぼそ喋りだした。

「すまない、名前…。俺が、今回は俺のせいなんだっ…!」

今回の押しかけの原因はなんとなんと膝丸くんが発端らしい。だからこんなにも罪悪感で死にそうになっているのか。

「昨日の、買い出しの…帰り道っ、兄者にポロっと、名前と、またっ花見が……したい……と!」
「膝丸くん顔が凝縮しすぎて、皮膚がちぎれそうになってるから、だからもう、いい、いいから、お花見行こ、ね?素直に嬉しいし、そんなに申し訳なさそうにしなくていいから、ね?」

こんな状態では私のほうが罪悪感というか、色々申し訳なくなってしまう。
兄の常日頃の奇行に比べれば膝丸くんのなんて赤ちゃんレベル。可愛いにもほどがある。てゆうか普通に嬉しい。
だが、当の本人はそう思えないようで、

「っ!!!すまない!!!!!」ドンッ!!!!!
「いいって!!そんな、くそお世話になりましたの土下座しなくていいって!!」

荷物を丁寧に床においた瞬間残像ができるほどの早さで土下座しだした。

「もー、二人ともそんな寸劇しなくていいから、ほら、行くよ」
「兄者ぁ!!」「お兄さんっ!!」

本当にこの二人の血は繋がってんのか。


…………

話によるとうちの家族は、源氏兄弟いつでも我が家へウェルカム!らしい。なんでやねん。

あのあと荷物を準備すらさせてもらえず、お兄さんの小脇に抱えられて一階へ降りると、やはりお母さんがいて(お父さんは仕事)「ちょっとお母さん!!!」と全力で叫ぶと流石に源氏兄弟も足を止め、お母さんも「なに?」と廊下へ顔をだした。
しかし、お互いになんのリアクションもなく「…こ、この二人のこと気になんないの?!」と聞いてみたところ「うん?だって源氏くんたちでしょ?」「そうだよ?どうかしたのかい?」とかなんか私だけ蚊帳の外というか、何も理解してないみたいな感じで泣いた。
膝丸くんはめちゃめちゃ常識人なのでまた申し訳なさそうな顔をしてはいたが、それでも何もいってはこず、逆に私のほうが頭おかしいですって攻められてる気持ちになった。大変遺憾である。



何もわからぬまま花見花見とウキウキな髭切お兄さんを尻目に、膝丸くんと私は後ろをとぼとぼついていく。
流石に一人で荷物をもつのは可哀想だからと、持つよと提案したが「いやこれはおれ自身へのせめてもの罰なんだ。俺が持つ。それにこれくらいどうてことない」と、このように一ミリも譲ってくれなかった。頑固なんだよなぁ。
「そういえば膝丸くん、そんなに私とお花見したかったの?」
そう聞けば彼の表情は忙しなく変わっていく。
「な!!そんな、いや、それはそうなんだが!そんな駄々をこねたとかそういうことでは!いや、でも一緒に花見をしたかったのは嘘ではないし、う…」
赤くなったり、萎んだり、必死そうだったり、まるで中国の伝統のお面の早替えのようなそれは見ていて全然飽きない。
まぁ、膝丸くんが真面目で常識人だからこそ、花見したいなぁ、くらいに思ってたことをこの兄が無理矢理実行に移したのは言わなくてもわかるのだが。
最終的に顔を真っ赤にしながらいつもより数倍小さい声で「行きたいと思ったのは事実だ…」というのだった。
素直に感謝の言葉をのべると、照れながら笑うので自然とこちらも笑みが漏れる。

そんな二人の微笑ましいやりとりを満面の笑みで見守る髭切だった。


…………


お花見と聞いていたのでてっきり桜並木がズラリとならぶ大きな公園のほうへ行くのだと思っていたが、私達は何故か何処なのかもよく分からない雑木林を歩いていた。ちなみに道っぽいものは微かにあるものの、普通に獣道である。

「なんで?!」
「なにがだい?」
「花見するんじゃないの?!」
「ん?するよ?」
「じゃあなんでこんなとこ歩いてるの?!」
「花見をするからだよ?」

おい、会話のキャッチボールしろよ。
膝丸くんに助けてとアイコンタクトを送るもこいつもついに私を裏切った(?)のか兄と同じようにキョトンとした顔で私を見ていた。
せーつーめーい!!!!

「てゆうか、桜見るならこんなとこじゃなくても良くない?!」

花見をするのは構わないのだが、こんな過酷な事は求めていない。誰だってそうだろ。綺麗なものを見て、美味しいもの食べて楽しくおしゃべりして、家で寝る。
つかれたつかれたぶーぶー文句をいう私に彼等はにこやかにまぁまぁと言うだけで特に怒りもせずフォローもせず目的地へとついたのだった。

「さぁ、どうだい?懐かしいだろ?」

自慢げにそれを見せつけるお兄さんなんか視界からこぼれ落ちてしまうくらいに、それは大きくてたくましくて怖いほど綺麗だった。

目の前に悠然と構えるのは今まで見たことがないくらい長寿そうな桜の木。
凄く太いが、縦にはそんなに大きくない。それでもその分横へ何本にも分岐する枝が延びていて、まるでここら一体を桜で覆いつくしてしまいそうな。
この桜に全て養分を持ってかれてしまっているのか他の木は周りに全くなくて、だからこそその一本が余計に目立つのだ。

「きれい…」

あれだけぶーぶー文句を言っていたのだが、圧巻の光景に頭が真っ白になった。
なんだこれ、こんなの並盛にあったら絶対話題になるだろうに。生きてきて一度もそんな話は聞いたことない。
それに、なんだろう…、何かが引っ掛かる。
そういえばさっきお兄さん懐かしいだろっていってたな、懐かしい?

「名前?」

膝丸くんが心配そうに声をかけてくるも、うまく反応できない。どうしてもこの桜に釘付けになってしまう。綺麗ですごくて、でも、なんだが納得いかない変な気持ちもあって。

「う〜〜〜…………ん」

「名前…、駄目だよ。綺麗だからって、そんなに食い入るように見たら」
不意にお兄さんが私の目を覆いそのまま回れ右、膝丸くんと目が合う。

「だ、」
「だ?」
「大丈夫なのか!?!!!!」

いつもの鼓膜を殺しに来るクソデカボイスで私に掴みかかる彼の圧の強さったらすごい。今日はきてなかったな〜なんて思ってたらノルマ達成だよ、ありがとうございます。

「だ、大丈夫大丈夫、別に綺麗すぎて見いっちゃっただけだし」
「…そうか」
「ねぇ、妹。この場所は僕たち三人だけの秘密だからね?また三人でこようね」
「うん?うん(まだ花見すらしてないのになんの約束してんだこの兄は)」
「ふふ、可愛いね、名前。流石僕たちの妹」

動物を扱うかの如く頭部をわしゃわしゃと撫でる(掻き回す)お兄さん。いつもにこにこしているが、今日ほど嬉しそうな笑顔は滅多にしか見れない。いや、いつも喜んでるのはわかるんだけどこう、何て言えばいいのか、特別喜んでるとしかいえないのだが、ちょっと変だ。
膝丸くんも心配していたものの、少し口許がにやけている。余程嬉しんだろうなぁ。

「あの、食べませんか」

あの獣道を歩いてきた私の足とお腹はもう限界に達していた。花より団子といつだか宗三にいわれたことがあるのだが、昔からいわれすぎて何才からいわれていたかはもはや覚えてない。


………


源氏兄弟流石というべきか、持ってきたシートもお洒落、弁当を入れるバスケットもお洒落、もちろん弁当もお洒落。そして美味い。死角がねぇ。
おにぎりやサンドイッチの和と洋なのだが、おかずも子供の弁当箱にはいってるものから、ちょっとこじゃれたデリ系のものまで、とても満たされた。なんならちょっと食べすぎて動けないくらいに。
「膝丸くん、帰りおんぶして」
「はぁ、沢山あるからといって、急いで食べるからそんな事になるんだ」
「美味しいのがいけないと思います」
「こんなの頼まれればいつでも作るし、いつでもうちに食べに来ても構わないんだぞ?」

このイケメンがっ!
そして顔をパァと輝かしてめちゃめちゃ賛同してくる髭切お兄さん。源氏家の娘にめちゃめちゃなりたいけど、それはそれで絶対ゆっくりできなさそうだし、膝丸くんがうるさそうだから無理だなぁ(おかん的な意味で)

「てゆうか、定期的にお兄さん拉致ってくるし、そこら辺は問題ないよ」
「そうそう、お前はよく分かってるね。それでも一緒にいてくれれば、わざわざそんなことしなくてもいいんだってこと分かってよね」

あざといポーズでそういうこと言ってくるの確信犯。ギルティ。そして振り返って気づいたけど、拉致ってくる事が既に問題ありすぎなんだよ。毒され過ぎてる。

改めて二人の顔をじっと見つめてみる。
どこをどう見てもイケメン。なんなら世界の美しい顔ランキングみたいなのに載れるレベル。
そしてスタイルも外国人顔負け、股下がスカイツリーで、筋肉がついてるにもかかわらず、しまるとこはちゃんとしまっている。

なんで私こんな人たちに気に入られてんの?と常々思っている。訳がわからない。いや、出会いからしてまじでワケわかんないんだけどさ。

「膝丸くんもお兄さんも彼女とかいないの?」
「いないよ」
「ぶっ!!」

さらっと返事する兄にたいして、この恋愛トーク一ミリも慣れていない弟の反応、どうかしている。絶対どちらもモテるのだから、膝丸くんがそんな初な反応するのは流石に嘘すぎませんか?
歩けば女子がよってくる人間だろうから多少慣れてるでしょうに。

「げほ、いき、う、いきなり何を言い出すんだ!!!」
「ただの世間話なんだけど…」
「お前は存外この手の話は苦手だよね」
「流石にこういうとこはお兄さん見習った方がいいと思うよ」
「ふふ、名前、君がいるから恋人なんてもの必要ないんだけどね。ね、えと…苔丸」
「膝丸だ!!俺も、その、急がしい身だしな!恋人などそんなこと、考えていないぞ!!!!」
「今大学で新しい研究が始まったんだもんね」
「あ、ああ!」
「毎日女学生たちに言い寄られてるけど一ミリも興味ないっていってたしね」
「そうだ」
「俺と名前が好きだから興味ないんだもんね」
「そう…って、兄者!!!!!!!」
「はは」

すみません。やはり思考を停止させないとこの二人の会話、今日に限ってはついていけません。
なんで?いつもそれなりにおかしいことばっかりいいつつも多少常識がある二人なのだが、なんか今日おかしい。(特にお兄さん)
なんて例えればいいのか…、そう、まるで、ちょっと酔ってるみたいな。
お酒は飲んでないはずなんですけどねぇ。どういうことなんですかねぇ。

もう一度先程の桜を見上げる。この桜見てたらちょっと変になったんだよなぁ。もしかして二人も影響を受けてたりするんだろうか。
さっきよりも見いっちゃうなんてことはないのだが、なんだか…。

「ふぁ」
「ん?眠いのか」
「うん、食べたら眠くなってきた。帰る時起こして」

意識が落ちる直前、聞き覚えのない名前が聞こえた気がするが気のせいか。


…………


「柄にもなく浮かれているね」
「す、すまない。また俺達三人であのときと同じ場所でこうして花見が出来るのが想像以上に嬉しくて」
「ふふ、それは俺も一緒だよ。それに覚えてないなんていってても、身体と奥底に眠る記憶はちゃんと覚えているようだし」
「妖気を纏う桜。ほとんど妖気なんか残ってはないが、浮かれて俺達まであてられてしまった」
「たまにはいいんじゃないかな?楽しければ良しってやつだ」
「名前は完全にあてられて寝てしまってるけどな」
「そこが可愛いんじゃないか。このままずっと三人でいられればいいのに」
「ああ」


20230521



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