山伏とカツカレー

久々に袖を通した審神者の正装着。
普段から姿勢や行動には気を配っているつもりだが、これを着ると自然と背筋が伸びる。

今日は以前こんのすけから渡された政府からのお呼びだしの日で、日帰りで現世へと行く。
現世へ行くときはいつも付き添いで刀剣男士一人を連れていく。皆いきたいと最初の頃は決めるのが大変だったため今は行く順番を決めて、その人と行くことにしている。今回は山伏の番だった。

「では、いってきますね」
「カカカ!主殿の事は拙僧にまかせておけ」

「「「いってらっしゃーい」」」

皆の送りの声とともに私と山伏は現世へと向かった。
転移装置で現世へ向かったあと、指定の場所には既に迎えがきていた。
昔では乗ることなんてできないと思っていた真っ黒なリムジンだ。流石は政府直属の職業。
運転手に乗るよう促され、私たちは本部に付く間大人しく車に揺られていた。

「して主殿、今回は何故呼び出されたのだ?」
「そうですね、まだ詳しいことは伝えていませんでしたね。……完全に私が悪い事なのですが、うーん、すみません、恥ずかしいので今はまだ暈した言い方をさせてください。まだまだ余力があるのに本気で仕事をしていないだろ?と注意されに呼ばれたといいますか…」
「ふむ、主の事だ、なにか考えあっての事なのだろう?それまではその答えで我慢するとしよう」
「申し訳ないです。本当に未熟者なのは理解しています」
「拙僧に謝ることでもないだろう?とりあえずまずは今日を無事に終えることを考えようではないか」
「…はい!」

本当に申し訳ないと思っている。完全に今回の事は私情を仕事に挟んでしまい続けた結果の事なのだ。
とにもかくにも山伏の言うとおり、まずは目の前の事を一つ一つ片付けて結果がでてから皆に謝罪しよう。先の事ばかり考えて目の前の事をおろそかにするのは逃げだ。
頭のなかを一度まっさらにリセットして姿勢を正した。


―――


所謂本部といわれている“歴史防衛省”の庁舎。
中は職員は勿論私と同じように呼び出された審神者やそのお付きの刀剣男士たちで溢れ返っていた。
「こちらです」と案内してくれる政府の職員の一人についていき、控え室へ通される。呼び出されたとはいえ、相手も多忙の身。すぐに用事を済ませて直ぐに帰るなんてことはほとんどない。

「大変申し訳ありませんが、担当の薬袋(みない)は急な案件での会議が長引いていまして、あと二時間はかかると思われます。その間こちらで待機していてください」
「はい」
「昼の時間も挟みますので地下一階の社員食堂で昼食をとっても構いません。ここの控え室、お手洗い、食堂以外へは足を踏み入れないようお願いします」
「ええ、分かりました」
「それでは失礼します。何かありましたら控え室の電話でお申し付けください」

そういって案内人は去っていった。何度か来てはいるものの、この高級ホテルのような待遇にはやはり慣れない。それこそ控え室もホテルのスイートルームのような感じ。ホテルと違うのは寝室とトイレお風呂がないことくらい。

「さて、今回も待ち時間が沢山あるようですし先にご飯だけでも済ませてきましょうか」
「あいわかった」

やはり政府直属の機関なだけあって施設の広さと充実具合といったらすごい。
お昼よりは少し早い時間だが既に席は半分以上埋まっていた。

「主殿は何を食べるのだ?」
「そうですね〜…なんて、悩んだフリを一瞬しましたけど実はもう決めてあるんです。カツカレーです!」
「ほお」
「気合いをいれていかないと、内容は把握していても心が折れそうになるので…」
「ふむ、そういうことなら拙僧も同じものを食べ臨むとしよう」
「心遣い感謝します、では二人分の食券買いますね」

いそいそと食券をカウンターへもっていきブザーを渡される。
その間に山伏が席を見つけてくれていたので、外が見えるカウンターの席へ二人ならんで腰かける。毎日整えられている中庭は緑が鮮やかでうちの本丸とはまた違った美しさだ。
一息ついたところで直ぐにブザーはなり「どれ、拙僧がとってこよう」と動く隙も与えられずに二人分のカツカレーを取りに行ってしまった。

山伏の第一印象は大きくて、逞しくて少々荒々しそうなんてものだったが、深く知れば知るほど彼は思慮深くて気配り上手で繊細に動ける素敵な刀だ。(個体差はあると思うが)
所謂紳士。もちろん豪快な一面もないわけではないのだが、基本的にやることは丁寧だしスマートだ。

帰ってきた彼の両手にはそれぞれ一個ずつお盆が抱えられており「ありがとうございます」とそれを一つ受けとる。

「では、」
「「いただきます」」

食堂のカレーというだけあって、誰でも食べれるよう甘くもなく、辛くもなく、けれど深みとコクはちゃんとあってとてもおいしい。
カツのサクサクして少し油っぽい衣と合わせてもくどさを全く感じさせない。

気合いをいれるためにとはいいつつもやはりここに来るとカレーを食べたくなってしまうのは、体が本能的にそれを求めてしまっているからなのだ。
無心で食べてしまっていた。
ふと隣の山伏をみると彼も怪獣みたいに大きな口で無心で食べ進めていた。

「(やはり皆そういう風になってしまいますよね)」
少し安心して目の前の皿に視線をもどし、大きめのスプーンいっぱいにご飯とカレーとを掬ってかぶりつく。
これで私は勝てる。大丈夫。頑張れ私。

もくもくと食べ進め最後の一切れのカツを口に含むと「カカカ!主殿の口はいつみても大きいな」
と笑われてしまった。少し照れながら完食。

「「ごちそうさまでした」」


20230201






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