前田と青江と山芋の鉄板焼


「遠征先の山で見つけたんだけど、長くて太くて立派だろ?」
「わぁ……、ずいぶん立派な長芋ですね」

遠征から帰ってきた第三部隊の隊長、にっかりがそういい見せてきたのが山芋。
私の前腕よりも大きいそれは水で洗ってから持ってきたのか土汚れが殆どなかった。

「実はもう二、三本あるんだよね」
と、どこから取り出したのか、同じ大きさのものがすっと横に並べられる。

取り敢えず今日の晩御飯の仕込みはもう終わっているし、これは明日使わせてもらいます。と伝えて厨の床下収納へと置いといてもらうことにした。
明日は長芋をふんだんに使っちゃおう。サラダにしても美味しいし、炒めても煮ても美味しい。それにトロロだってあれだけあれば沢山作れる。
お蕎麦にいれて食べるトロロが大好きでそれを考えるだけで夢心地だ。
明日の晩御飯はお蕎麦にしよう、絶対に。



さてさて、次の日
いつも通りに皆を見送ってから、今日のお留守番のにっかりと前田に今日の予定を伝える。

「さて、今日は内番とお掃除はそこそこにすませてください。残りの時間は昨日持って帰ってきてもらった山芋の処理に費やします」
「そんなに大変なんですか?」

前田が首をかしげて聞き返す。

「ええ。常備菜を一品作ろうとは考えているんですけど、今日のメインはとろろです。山芋をするのはそれなりの労力なので、皆で一気に終わらせましょう!」
「わかりました!」
「ああ、分かったよ」

各々持ち場につき仕事をこなす。事務作業は夜にやるので、今は水回りの掃除に勤しむ。
考えることは今日の昼御飯のこと。
食べることが大好きな私の考えることの大半といえば食べ物のこと。食いしん坊と言われても仕方ないのだが、これ程までに大人数だと毎日献立を考えるのも大変だ。それに自家栽培もしているため食物も沢山あるから余計に悩んでしまう。

晩御飯はかけそばにするのは決めているのだが、お昼……。ご飯は皆に持たせたおにぎりで使ってしまったので三人で食べる分はないし、山芋をこの後処理するからには、お昼ごはんにも使いたいというのが本音。だからといって今日はパンという気分でもないし、麺類も晩御飯がお蕎麦なので微妙である。
じゃあ残るは……粉。

ピンっと頭のなかで閃く音がする。そうだ、鉄板焼き。お好み焼きもいいけど、どうせなら山芋だけの鉄板焼きなんてどうだろうか?
すりたてのとろろを直ぐに焼いて食べられる。これ程までに贅沢なことあるだろうか?とろとろふわふわで、そこにソースとマヨネーズと鰹節と……。

口の中でじわじわ唾液が溢れてくるのがわかる。
普通のお好み焼きも大好きだが、山芋だけという贅沢な食べ物はなかなか食べる機会がない。どちらもそれぞれの美味しさがあるが、沢山量を作れるキャベツがやはり主流になってしまう。
遠征先でとってきたなんて彼らはいっていたけど、うちの本丸周辺の山にももしかしたら生えてたりしないだろうか?
今度山伏や陸奥守に聞いてみよう。採りすぎるのはよくないが、皆に一度は味わってほしい山芋だけの鉄板焼き。

―――


「さぁ、始めますよ!」

三人で小さく拳を上へ突き上げ“おー!”と気合いをいれる。
最近手に入れたフードプロセッサーにはフルで活躍してもらうが、やはり一度にすりおろせる量も限られてくるため、空いた手皆で残りもすりおろすのだ。
機械を導入するおかげで幾分かましではあるが、山芋をすりおろすのは本当に苦行。ぬるぬる滑って大変だし、痒くなるし、とにかく量がすごい。それに本丸の人数も相当なものだから…言わなくても分かってくれるだろうか?

「前田は山芋を適当な大きさに切って、フードプロセッサーでとろろをつくっていってください。簡単なので量をこなすことになります。休み休みでいいですからね?あとすごく滑るのでけがだけは気を付けてください」
「はい!」
「さて、青江は私と頑張って自力ですりおろしますよ」

すりおろしがねと適当な長さに切った山芋をわたし、こういう風にやっていきますよと説明し、皆もくもくと作業をこなすも青江節というのか「白くてねばねばしてて新鮮なモノはやっぱりちがうね、山芋のことだよ?」とか「主、一度手をぬぐった方がいい、ぬるぬるでベタベタだと…ねぇ?危ないよ」とか妙に変な言い回しをしてくるので途中途中で前田の耳を塞ぎたかった。勿論山芋をさわった手だから出来ないのだが。

昔、おばあちゃんの家でお手伝いをするといって同じように手伝ったことがあるが、当時のなにも知識のない私は、前髪を避けるため一瞬だけ汚れた手で額を擦ったことがある。
お察しのとおりおでこが痒くなって、怖くて泣くまでに至ってしまった。お風呂はいっといでといわれ、お湯で流したら良くなったのだが、あれは衝撃的だったなぁとしみじみ思う。

事前の説明で軽くではあるけど、山芋には触れると痒くなる成分があるよと伝えてあるし、手に酢水をつけたので無闇に手以外の皮膚を擦ったりとかはないと思うが、それでもチラチラと二人を見ている私は子供を見守る母親のようだろう。
はらはらドキドキしながらもすりおろす作業は無事に終わった。

その作業が終わってしまえば後は早かった。
保存用のとろろと、今使うものをわけて、材料をいれて適当に焼くだけ。

「さて、自分の分は自分で焼き加減をみて、ひっくり返しましょうか」
「はい」「わかったよ」

案の定トロトロの生地をひっくり返すのは至難の技で自分は端の方を少し崩してしまったのだが、流石は刀剣男士達、瞬発力といえば良いのだろうか器用に、綺麗に、ひっくり返していた。
その手さばきに思わず拍手を送ると二人とも満更ではないようで誇らしげにしていた。写真に納めたいくらいには可愛かったし、少し桜が舞っていたのもきちんと確認済みだ。

そんなこんなで完成した山芋の鉄板焼。
三人で食卓を囲み「いただきます」と声をあわせる。

熱々の鉄板焼の上で踊る鰹節、それとまじって香るソースの匂いといったらたまらない。
二人ともさっそく目の前の料理を口に運び、口の中でハフハフと熱を逃がしながら咀嚼している。
その光景がほほえましくていつまでも見ていたい気持ちもあるのだが、やはり美味しいものを目の前にしてスルーし続けられるほど私の食欲は小さくない。
大きな口を開けて頬張ると二人と同じように熱さと戦いながらトロトロで風味のきいたそれを咀嚼する。
熱を多少持ったまま飲み込むと、それが喉を伝って胃の中へと落ちていくのが分かる。
ふーと一息つくと二人ともこちらを見て微笑んでいた。
つられて私の口角も自然とあがってしまう。

笑顔を見せあいながら食べる食事はやはり格別で、気付けばお皿は空で、心も体も満たされる。

「「「ごちそうさまでした」」」

「主君、山芋はこんな美味しい食べ方があるんですね」
「以前食べたお好み焼きにもにているけど、こちらもこちらで美味しかったよ」
「今度は皆で本丸の裏山へいって山芋沢山探してきましょう!皆で美味しいものは共有したいですもんね」

雪が積もる前に皆で遠足にいこう。
こうして楽しみがまた一つ増えていく。


20221212


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