8、鶯丸と駄菓子ライフ


鯰尾くんと骨喰くんと知り合ってから明らかにお小遣いの減りが早くなった。
今までだったら家に直帰からの、テレビや漫画三昧なんて事が多かったし、なんやかんや宗三兄弟がいつもうちにくるときにお菓子を持ってくるので、お金を使うときというのは殆どなかった。
家にいることが多い人間は服もそこまで必要としないし、今はサブスクなんて便利なものもあるから余程のことじゃない限り音楽を買うとか映画を見るとかもない。

それがどうだろうか、二人とつるみ始めると外で活動することが殆どだ。
勿論体育館で遊ぶとか、何故か山や川で原始的な遊びを誘われることもあるが、カラオケやゲームセンター、外食なんかも増えるので必然的に使わなかったお金はどんどん減るわけで…。

そして月の半ばだというのにもう殆ど今月のお小遣いは残っていない。
うちのお母さんはお金には割りとうるさいタイプなので、前借りなんてことも無理である。

何がいいたいかといえば、お菓子を無性に食べたい。
ここ最近奴らにそれこそ原始的な遊びに誘われることが多くて、この間なんか絶対にやりたくないと言ったのに並盛山にザリガニ釣りに連行された。
しかも草刈りから始まった。なんでやねん。
その草刈りというのがまぁ最悪。虫は勿論、草で皮膚が切れるし、クモの巣に引っ掛かるし、一番は蛇に遭遇したこと。死を覚悟しましたわよ、ええ。それを笑って見てた鯰尾くんにはマジで殺意を覚えた。骨喰くんは慣れたように蛇を追い払うし、なんなのこの兄弟。どんなことして育ってきたの?

いや、話が脱線したな。
ともかく、そういう体を使う遊びが多かった事に加えて、最近宗三達は江雪くんの小説の参考のためということで旅行に行っているのだ。江雪くんは引きこもりの癖に旅行は好きらしい。引きこもりの風上にも置けないエセ引きこもりとはこいつの事だ。
私も「行き、ますか?」と誘われたのだがもうすぐ夏休みが近い。宗三に「期末テストが近いんですからそんな余裕、ありませんよね?」と脅されましたよね。最悪。
ああ、ダメだまた話が脱線した。

簡潔にまとめる。

体力をここ最近めちゃめちゃ使わされる。
糖分を補給したい。
宗三兄弟がうちに来ないせいで、お菓子を自由に食べれない。
しかし、お小遣いが少ない。
すごく困っている。

ということである。分かってくれただろうか?

そんなこんなでたまの休日、私はピンチのときや家にいたくないときなどの避難所にしている駄菓子屋へ向かっていた。
小さい頃からある駄菓子屋で、今の店主は江雪くんと同級生だった人に変わっている。昔はその人のお父さんが経営していたのだが物心付くくらいには亡くなったみたいで今はその人がやっている。
昔からよく可愛がってもらって、廃棄になりそうなお菓子をタダでもらうこともしばしば。
それに本人ものんびりしてる人で一緒にいて気楽だし、嫌な感じも全くない。

それにしてもあそこに行くのも久々だ。半年くらいずっとあっていない気もする。元気にやっているんだろうか?
そんなこんなで付いた駄菓子屋にはいつものように椅子に座って茶を啜るうぐまるくんがいた。

「うぐまるくーん、久しぶり〜」
「あぁ、名前か。めっきり見ないと思っていたが、元気そうだな」

独特の髪色をしてる彼は、こちらを一別してまた茶を啜っていた。この男カテキン中毒者なので、お茶を飲めないと死んでしまうのである。

「丁度よかった。名前、少しの間店番をしてくれないか?」
「はい?」

来て早々、お菓子食べながらごろごろしようと思ったのになんだって?

「いやなに、荷物を出すのを忘れていてな。今日中に出さなければ行けないんだ。郵便局はすぐそこだし、少しの間だけだ」
「え〜〜〜〜。その後お菓子食べながらごろごろしてていい?」
「ああ、好きなだけ休んでいけ」
「やった!いいよ、いってらっしゃい」

すぐ戻ると、脇にあった荷物を持ちのんびりと歩いていった。
絶対めんどくさくて今日まで行かなかったやつだな、あれは。
先ほどまで彼が腰かけていた分厚い座布団がくくりつけてある安そうな丸椅子に腰かけ、ぼーっと店内を観察する。

昔からなにもかわらない。ところせましと並べられた駄菓子に、ずっと張り替えてない古いポスター。色んな子達がシールを貼っていったカラフルなレジに、年期のはいった箒と塵取り。
まだまだ中学生の私ですら懐かしいと感じてしまうのは何だか変だけど、それくらい小学生の頃は頻繁に通っていたのだ。

そんなこんなで待っていると、お客さんが来てしまった。
えー、店主がいないのにお会計なんてできないよ!なんてことはない。私はここの駄菓子屋が第二の家の人間だぞ?
大体のお菓子の値段は把握してるし、何だったら小学生やそれ以下の子が大群で押し寄せてきたとき、忙しいから手伝えといわれて、ほぼ仕事をこなさないうぐまるくんにかわって捌ききったプロだぞ?
来た人は二人。私と同じくらいか年上くらいの男子学生だ。制服をよくみたところ、黒曜の生徒っぽいのが分かった。

「いらっしゃせ〜」
適当に挨拶して二人の動向を見守った。

一人は色々物色していて、特にガムやキャンディのところを忙しなく見ている。
一方もう一人の眼鏡をかけている人は付き添いできたのか、全く興味なさそうに彼の後ろをついて歩いてた。イメージ通りっちゃあイメージ道理な感じだ。
ふふ、こうして誰ともかかわることなく、人間観察に勤しむ時間の楽しいことよ。本当は奥の座敷でお菓子食べながらごろごろするのが最高だけれど、こうやって緩やかな時間を過ごすのも悪くない。

「店員さん、これちょーだい」
そういって腕一杯にお菓子を抱えてきた彼は満面の笑みだった。可愛いやつめ。
そんな私も親戚の子を愛でるような笑顔で会計をしていく。こんなに沢山買ってるにも関わらずワンコイン。これぞ駄菓子屋の魅力だよね。

袋を渡すと「あんがと!」と元気よく去っていく。隣の少年もペコリと小さくお辞儀して去っていった。はー、また善行をつんでしまった。
一仕事終えて満足していたら、彼らと入れ違いにうぐまるくんが帰って来た。

「客が来ていたのか?」
「うん、さっきの男子二人だけ。スッゴい沢山買っていってたよ」
「そうか、いい客だな」
「(すげー他人事だな)」
「待たせてすまなかったな。菓子は適当に持っていっていいから、奥の座敷で休むといい」
「わーい!うぐまるくん大好き!」

柄にもなくその場で跳び跳ねて、直ぐ様小さな篭を手にこさえ好きなお菓子をこれでもかと詰める。チョコ系も勿論好きだし、おつまみ系の乾物とかも好き。そして私がこよなく愛しているのは、ポテト○ライ!あの油の濃さがたまらないのだ。
ルンルンで選び終わった後、直ぐ様靴を脱ぎ捨て奥の座敷へダイブした。

畳に、茶箪笥、中くらいのちゃぶ台に、少し立派なテレビ。ちなみにあの茶箪笥にはみちみちに色んなお茶っ葉が入っている。
普段かぐことがない畳の匂いを胸一杯に吸い込み、深呼吸した。これよ、私の求めていたのはこれ。仰向けに体勢を変え薄暗い天井をぼーっと眺めていると、うぐまるくんがやってきて「茶だけいれておくから後はゆっくりしてってくれ」とパタパタ準備して店の方へ戻っていった。

お茶のいい香りが漂ってきたとこで、選んだお菓子をつまみながら茶をゆっくりと啜った。
ふー、と一息つけば頭の中にあった小さな悩みごとやモヤモヤも一気に吹き飛ぶ。
もう私、うぐまるくんちの子になりたい。
彼は大分マイペースな人間のため基本的に他人に対してとやかくいわない。なるようになれ、みたいなタイプの人間のため、割りと親しい仲だとしても宗三みたくガミガミもいってこないし、話したくないようなことにも突っ込んでこない。

うぐまるくんみたいな友達がほしかったなぁ…とぼんやり考えながらひたすらにお菓子とお茶を交互に口にいれ続けた。


―――


どれくらい時間がたったのか。気づいたら私は寝ていたみたいで、薄いブランケットがかけられていた。うぐまるくんがかけてくれたんだなぁと、寝ぼけ眼に思いながら店の方へ歩いていくと相も変わらずうぐまるくんは椅子に腰かけお茶をのんでいた。

「ああ、起きたのか」
「うん。ふぁ…あ。ねぇ今何時?」
「もうすぐ四時だな。そろそろ店は閉める予定だが、まだ休んでいくか?」
来たのが一時過ぎ位だから、二時間くらいは最低でも寝てしまっていたようだ。
「…んーん、そろそろ帰るね」
「そうか。篭にいれた菓子は持って帰っていいぞ」
「うん、ありがとう。ねぇ、またきてもいい?」
「ああ。気の向くままに、いつでも来たらいいさ。歓迎する」

そういって優しく笑ってくれるうぐまるくんは、昔と本当に変わらないなぁと、こっちまで温かい気持ちになる。
ブランケットを畳んで、荷物をまとめる。店の出口の方へ行くと、シャッターを閉めるための棒を持ったうぐまるくんがたっており、お互いに手を降って別れた。

殆どなにもしない一日だったけどすごくリラックスできたし、充実感さえある。
また前みたいに頻繁に遊びに行こうかなー、なんて気分よく家に帰った。



20220921

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