7、並盛トリオと薬研と後藤とときどきランボ


学校から帰ってきてすぐお母さんに買い物してきてと、財布プラスエコバッグと通学カバンを無理矢理交換させられて、家に一歩はいることもなく玄関の戸を閉められた。
流石にひどくない?
こういう場合宗三でも流石に家の中にはいれてくれるんだけど…。そして思い出した。今朝お母さんとお父さんが口論になっていた。理由はすごく下らないことだけど、塵積だったのかやけにヒートアップしてた。それが今も引きずっていて、私にまで八つ当たりしているという訳だな、納得。
自分の親だからこそのこの考察力。この考察力というか、この頭の回転のよさを他でも発揮できたらこんなに大変な毎日じゃなかったのになぁとため息を吐きつつ、近所のスーパーへ足を進めた。


―――


恐ろしいほど何事もなく買い物をすませ、自宅へと向かっていると「あれ?苗字じゃねーか!」と底抜けに明るい声が聞こえてきた。

この声…聞き覚えがありまくる。
振り向きたくねぇ!聞こえてないふりをしながらさっきよりも早足で歩くが、うまく回避できるわけもなく、肩に手を置かれると同時に「よっ!おつかいか?」と、声を再度かけられる。

嫌でも振り向かざるをえなく、顔を向けると山本くんがそこに立っていた。邪な心しか持たない私を完全に消滅させてしまうくらいのにこやかな笑顔で。

「あ、うん…頼まれてさ」
「そっか!偉いな苗字。俺もオヤジに頼まれて買い物きたんだぜ、同じだな!」
「あ、はい、そうだね」

くそ、この陽の者の中でも頂点にいるような人間に絡まれるのほんとつらい。しかもサシで喋るなんてこと、私に耐えきれるわけもなくその場で爆発四散出来るレベルだ。


なんと私は山本武と小学校が一緒だった。その頃から何故か苦手だ。本当にフィーリングといえば良いのだろうか、嫌なことをされたわけでも、絡みがしつこいとかそういったことでもない。なんならクラスも六年間で一度しか一緒ではなかったのでそこまで関わっていない。
まだ何も知らないその時の方が苦手意識は若干ではあるが低かった。けれども中学にあがりカーストなるものを理解しはじめてからはさらにその苦手意識は急上昇。

今では頼むから私を無いものとして扱ってくれたのむ、その眩しさで私は死んでしまう、といった感じ。

「なーなー、帰り道一緒だろ?一緒にいこーぜ」
ひ〜〜〜〜。むり、死ぬ。なんて思っていても既に歩幅をあわせずっとついてくるので、確定事項なんだろう。こういうとこ!こういうとこなんだよ山本くん!!
嫌ともいえず、早く家につかねーかななんて思っていたのだが、すっかり忘れていた。
山本くんはあの沢田くん筆頭の並盛トリオ。そう、あのトリオはお互いにトリオホイホイな訳で、こうして一人でいたとしてもいつの間にか残りの二人が寄ってくる。何故かそういう仕組みになっているのだ。

そう、十メートルも歩かないうちに奴らはきたのだ。

「お、ツナと獄寺じゃねーか!おーい」

その名前をきいた瞬間私のメンタルといったら、ゼローパーセントこえてマイナスの域に突入だ。
目の前に現れた沢田くんと獄寺さんがいつも通り、隣にいる男の元へ集まってくる。
学校が終わって、家について、奴ら(鯰尾くんと骨喰くん)から解放されたと思ったのに!
なんでこんな、第二ラウンド突入じゃねぇよ!もうKOだよ!ノックアウトさせられてるのにこんな仕打ち!
神様がこの世にいるならいってやりたい。私をいじめてそんなに楽しいかと。

私のそんな気持ちとは裏腹に、山本くんは沢田くんたちにことのいきさつを楽しそうに説明している。私は微塵も楽しくないけど。
そんなことより早く帰りたい。イライラしているお母さんが待っていようと、鬼の宗三が待っていようと、私は今すぐこの場から立ち去りたい!

しかし、神様はこんな展開だけでは満足してくれなかったようで、さらに追い込みをかけてくるのだ。

「あ、ツナ〜〜〜!!」

また増えた!!!と思う暇もなく黒いモジャモジャが沢田くんのお腹に凄い勢いでめり込み、彼はそのまま尻餅をついてしまっていた。

な、なんだあれ。

訳もわからずその場を見守っていたらどうやら牛のコスプレをしている子供のようで「ランボ!お前どこ行ってたんだよ!」「テメー十代目を心配させてんじゃねーっていっつもいってんだろ!」「お、また迷子になってたのか?」などなど、全部説明してくれていた。
私のためじゃないのはよくわかっているし、素で話してるんだろうけど、めっちゃ理解しやすい。
あの時(沢田くんの生徒手帳返しに行ったとき)も、これくらいわかりやすく説明してほしかった。未だにあの時は何だったのかよく分かってないもん。

「た〜いしょ」
気を抜いていたそんな時、後ろから変な名前で呼ばれ肩を抱かれた。
思わず声も出せずに驚き、何が起こったのか確認すると、以前会った藤四郎一家の一人のあの子がいた。イケ小学生のあの子。その隣にはもう一人、茶髪で紫のメッシュが入ったトゲトゲしてる子もいた。

「な、」
なにもいえず固まっていれば、隣のイケ小学生は肩を抱いたままクツクツ笑ってるし、それを見たトゲ小学生は呆れてるし。なにこれ?!?!

流石の沢田くんたちも気付いたようで苗字の知り合い?と聞いてきたが、真っ先に答えたのはランボとよばれる男の子。

「ヤゲンとゴトーはランボさんの家来で一緒に遊んでたんだもんね」
「え?!」
「はは、そうだな。俺っち達はランボの家来で、お前さん達を見つけるゲームをしてたんだ」
なんて冗談めいて言うイケ小学生に対し、トゲ小学生がすかさず訂正をいれる。

「はー…、違うだろ!?こいつ迷子で泣いてたから、保護者を探してたんだよ。あんた達はランボの兄弟か?」
「いや、兄弟ではないけど…俺のうちに居候してて、保護者?です」

沢田くんちにあんな小さい子居候してるのか。前は見なかったから、別の部屋にいたか出掛けてたんだろうか。てゆうか居候?親戚の子供とかか?

本当に迷惑かけてすみません、有難うございますと謝り倒している中学生の沢田くん。それを小学生なのにいいってことよと対応する隣の二人。なんだこれ。
てゆうか隣のイケ小学生いつまで肩抱いてるつもりだよ。

そんなこんなしているとランボくんと獄寺さんが口論をはじめていた。沢田くんに迷惑かけるなとか、うるさいだとか、完全に子供の喧嘩。獄寺さん流石にあんな年下に喧嘩だなんて大人げない。沢田くんへの忠誠心凄くない??まじで引くレベルだよ?

「なぁ大将」

何故かトゲ小学生も私を大将とよぶ。どういう経緯でそんなあだ做つけたの?なんて言葉は飲み込んで「なに?ですか?」と簡潔に答えると彼は思っていたよりも常識人だったようで「ちゃんとした自己紹介まだだったよな」と自己紹介をはじめた。
「俺、後藤藤四郎よろしくな」
「俺は薬研藤四郎だ。今世でもよろしくな、大将」
「苗字名前です、ども」

後藤くんに薬研くん、覚えた。
薬研くんは鯰尾くんたちと同じようなこといってるし。今世ってなに?!そういう口説き文句があるの?ドラマばっかり見ている私が流行りに乗り遅れるなんてことあるんだなぁなどと思っていたら、とうとうランボくんは泣き始めたらしい。
本当に獄寺さん大人げない。
沢田くんと山本くんが必死にフォローするも、面白いくらいギャン泣き。

流石の事態に薬研くんはやっと抱いていた肩を離し、後藤くんと二人で仲裁しようと渦中へ向かった瞬間、すごく大きなドカンっ!!!という音と共に周囲が煙で見えなくなってしまった。

な、何が起きた?!
軽くパニックになっているとぼんやりと後藤くんがこちらに駆け寄ってくるのが分かった。
「大将!大丈夫か?!」と必死な形相で、その表情に思わず声がでなくて、小さく首を縦に動かした。
煙も徐々に晴れていき、中心部には皆ちゃんといて無事だったんだなと一息ついたのも束の間、全然知らない色気の凄いお兄さんが二人いた。
その二人と入れ違いに?とでもいえばいいのだろうか、ランボくんと薬研くんがいなくなっていた。

あっけらかんとした空気の中、一番最初に喋ったのがもじゃ髪で色気の凄い人。

「やれやれ、また十年前の俺ですね」
スゲー電波な人だった。
沢田くん達は大人ランボ!!!と騒いでいた。いや、何事?ランボくんがこれ?そんなわけあるかーい。タイムマシンなんてドラ○もんの中にしか存在しないのに、さっきの衝撃で頭を打ってしまったのかもしれない、かわいそうに。

そしてもう一人の男。背が高くてメガネをかけてかっちりした黒い服に身を包んでる。観察してたら目があった。その人は大きく目を見開いてびっくりした顔でこちらを見ている。
それに気付いたのか後藤くんが庇うように私の前にすっと移動する。やだ、後藤くん、常識もあるのにそんな気遣いまでできるなんて優秀すぎやしませんか?!絶対成長したらいい子になるし、いいお父さんになれるよなんて馬鹿みたいなこと考えてたら、さっきの男が近づいてきて私たちの目の前に立った。

「な、何だよお前、薬研は!」
「……」

緊張が走る中、沢田くんが後ろから「苗字さん、多分十年後のやげんって男の子だと思う!」と訳の分からないことを口にした。
「はぁ?!」
流石の後藤くんも訳が分からないといった感じで反応した。その時の、十年後の薬研くんといわれていた男が、後藤くんの肩に手を置き「大丈夫だ」と一声かける。警戒心バチバチだった彼も何故か、驚いたような感じで見つめていた。

魔法にでもかけられたかのように後藤くんはすっとよけて、私は十年後の薬研くんといわれている男と真っ向から向き合うこととなってしまった。
いや、確かにこうして真っ正面から見ればどことなく薬研くんぽいというかなんというか、面影は確かに感じられる。
じっと見つめていたら「そんな熱烈な視線向けるなんて、流石の俺も照れるぜ?」
なんて事を言い始める。しかし、問題はそこじゃない。凄いいい声なのだ。好みドンピシャの声に驚いているといきなり抱き締められた。

「ふぁ?!!」
「は!!!」
「「え?!」」

あちこちで驚きの声があがるのも気にせずにこの男は優しく、腫れ物でも扱うように私に触れていた。
正直なんも考えられない。だって、同級生とか年下にこんなことはされることはあっても(主に藤四郎一家の面々)頻繁にされてたわけでもないし、ましてやこんな年上(?)でかっこいい人にこんなことされるなんて全くないわけで、心臓の音だけがあり得ないくらい大きく聞こえて、とりあえず死にそうだった。だれかAED準備しといてって感じです。現場からは以上です。

そんな時、ランボとかいわれていた色気の凄い男は、「名前さんですか?!」
とこちらというか、私の存在に気付いていた。いや、私からしたらこの抱き締めてる人もあなたにも一切面識がないんだけれども。

そんなこんなで、反応するのはこの薬研くんといわれている男。
抱き締めていた手を離し、体をランボといわれている男に向けると「ダメだぜボンゴレ。この人は朧のもの、いなくちゃダメな人だからよ」

何故か二人の間にバチバチと火花が散っており、並盛トリオも私と後藤くんも完全に蚊帳の外だ。後藤くんは素早くこちらにやってきて「怪我ねぇか?大丈夫か?」とすごく心配してくれる。
私の後藤くんへの好感度の上がり方がとどまるところを知らない。なんだ?彼いい子過ぎないか?最近変なことばっか、濃い人ばっか知り合いになるから、マジで聖母にしかみえない。

バチバチ火花を散らしていたはずの二人は何故か此方に詰め寄ってきて、後藤くんと二人で身を縮める。

「名前さん、ボンゴレはいつも貴女の味方です。それだけは忘れないでください」

そういうと彼はアイドルにも負けないくらいのウィンクをしてくる。ひ、顔がいい、というかエロさが凄い。なんて考える暇もなく今度はもう一方。

しかし彼は、なにもいわず顔を此方に近づけてくる。このままだとキスしちゃいますけど?!なんて顔が赤くなるのを感じるが、その綺麗な顔は私の横でとまり
「浮気はいけねぇな、大将」
と、あの好みドンピシャの声を使って耳元で囁いてきた。
死にました。はい、死にました。
あまりのことに、腰も砕け、その場に座り込んでしまった。なんなら鼻血まで出てきた。隣の後藤くんが甲斐甲斐しくポケットティッシュを取り出し介抱してくれる。

そんなこんな考えてる暇もなく、ボフンッという音ともにまた煙がまわりに広がり、そこには元の薬研くんとランボくんがキョトンとした顔で座っていた。



20220921

その後の展開も書く気でいましたが、皆さんの想像にお任せしときます


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