6、蜂須賀襲来

正直な話、ここ最近の出来事は毎日が濃密でお祭りと言っても過言ではなかった。(祭りと言っても悪い意味で)
いつからこんな感じになってしまったのか。ぐるぐると記憶を巡らせれば、その目まぐるしい毎日の最後に出てきたのはあの紫頭の長髪。

そう。全てはあの男に詰め寄られ、暴力をふるわれそうになったのが原因だ。
思い出したら腹が立ってくるというもの。
あいつがあんなことをしなければ、いや、あいつに合わなければこんなことにはならなかったのに。
ただ、思い出してムカムカしたところでどうしようもない。既に私の回りは百八十度変わってしまった。もう元のあの平凡な日々は帰ってこない。

はぁ、とため息をつき鞄の荷物をまとめると、いつメンになってしまった鯰尾くんと骨喰くんが寄ってきて「今日は学校裏の並盛池でザリガニ釣りして帰ろうよ」とか言い始める。本当にやめてくれ。自分の弟達とやってこい。
いつも通り「やだよ、ネト○リで海外ドラマの続きみる」と否定すれば両腕を二人で固定して無理やり連行されるのだ。

ザリガニなんて釣って何が面白いんだよ!しかも並盛池って雑草とかぼーぼーで虫とか蛇とか絶対いるし行きたくない。キツイ、汚い、危険だよ、3Kだよ?!

「もー名前ったら泣くほどザリガニ釣りしたくないの?」
「当たり前だろ!いぎだぐない!!」
「なら並盛総合体育館でバレーボールはどうだろう」
「やだ!この前だってバトミントンやって走り回されて膝擦りむきまくったのに、バレーなんかやったら血の海になるっ」
「それはただ名前がへたくそなだけじゃん」
「とにかく私は家に帰るのー!!!」

そんな叫びもむなしく、気付けば校門は目の前。ちゃっかり靴も外履きに変えられていて、私を無視して二人は予定を立てている。どうすればいい、どうすればこの状況を打開できる!?お兄さん召喚しちゃう!?いや、お兄さんを呼んだとこで私の自由は約束されない。
だからって他に助けてくれる人…。いない!!というか誰かかしら呼んでも状況が悪化する未来しか見えない。

今日も諦めるしかないのか。力を抜きもうどうとでもしてくれ、と思ったときだった。
二人が何かに気付き立ち止まった。

「あれ?蜂須賀さん、こんなとこで何してるんです?」

伏せていた顔を上げて、この二人の知り合い?なんて珍しいと感じ興味本意でその人物を確認した。
見た瞬間地獄に叩き落とされた。

そう。目の前にいたのは、あの元凶の紫頭の長髪!
驚きと、不快感と、何よりもまず本能的に逃げなきゃと頭のなかで警報がガンガンなっている。
何でこの人こんなとこに?!てゆうか二人とも知り合いなの?!
よく見れば紫頭一人だけで、以前一緒にいたオレンジ頭とゴツいメッシュの人はいない。

鯰尾くんは一方的に奴に話しかけていて、終始無言で黙っている骨喰くんに「ね、あの人と知り合いなの?!」と小声で訪ねると
「やはり分からないのか?」と微妙にずれた発言をしてくる。たま〜にこういう回答されるから、どういうリアクションすれば良いのか分からなくなる。

「蜂須賀虎徹。別の学校に通っている、俺たちと同じく元 “蛻?蜑」逕キ螢ォ” だった」
「………なんて?聞き取れなかったからもっかい」
「…俺達の昔馴染みだ」
「ふーん」

もー、隣でペチャクチャいつまでも喋ってるから全然聞こえないし。只でさえ骨喰くんボソボソ喋るタイプだから聞き取りにくいのに、なんて不満に思いつつ二人をみるとちょうど話に区切りがついたのか、紫頭が寄ってくる。
こ、こわ。二人が相も変わらず両脇をガッチリ固定しているため逃げられないし、まさかまた暴力?!

「主、その…」

だが思っていた展開とはうって変わって、目の前の紫頭はモジモジとなにやら言い淀んでいる。なんだ?前なんかすごい怖い剣幕で迫ってきて、THE不良というイメージを植え付けていったのに、今目の前にいるこいつは完全に女子。少女漫画によくいる、好きな人にストレートに思いを伝えられずモジモジしちゃう女子そのものだ。

な、なんだこの豹変ぶりはと引いていると、ようやく口を開いた。

「今日の放課後、俺と一緒にお茶をする権利をあげよう!!」
「は?」

あのモジモジ状態から放たれた言葉は何故か超上から目線で、しかも見ず知らずのやつと出掛けるなんて陽の者だとしても絶対無理だよ?(いや、山本くんならついていきそうとふと思ったのはここだけの秘密だ)

「普通に無理ですさようなら」
「んな!?」
「ぷぷ。はい、フラれたんでさよなら蜂須賀さん」
「行こう名前、兄弟」

そのまま、二人に引きずられながら退散する形になったが、蜂須賀と呼ばれる男は必死に私たちを引き留めた。
「待て!」「違うんだ、主と二人で話がしたくて!」「頼むから訳を聞いてくれ!」「行かないでくれ」
その言葉を聞くたびに、私の中の蜂須賀という人物のイメージが少女漫画の女の子のイメージに塗り変わっていく。
帰宅する生徒達も、なんだなんだとこちらに目を向けてヒソヒソと小声でなにか話ながら帰っていく。そんなところがまたその悲壮さを物語っていて、ちょっと可愛そうになってきたなと思ったときだった。

「頼むから…行かないでくれ、主…!」

と声色が変わったと思いきや、ボロボロと大粒の涙をこぼしながら蜂須賀は仁王立ちしていた。

これには流石の私たちもぎょっとする。
二人の腕もゆるみ、若干宙に浮いてた私の足も久々に地を踏みしめた。

仁王立ちしていた蜂須賀はゆっくり此方に近づき、私の手をそっと握って「行かないで」と目を擦っていた。
あまりの展開に開いた口が閉じない。
え?これがあの不良?私の頭鷲掴みにして壁に思いっきりぶち当てようとしたあの不良?嘘でしょ?双子か?二重人格か?信じられない変貌ぶりに何も言えない。

同じくぎょっとしていた二人に助けを求めようと目線を送ると、何故か二人で「いやー、懐かしいねこの状況」「まるで変わっていないな」「久々だから余計に泣いてるよね」「確かに、昔より酷くなってる」とかなんとか他人事のようにこそこそ話をしている。
完全に裏切り者である。だって傍から見ればこれ、完全に私がこの男を泣かした風にしか見えない。何気に一歩後ろに下がって距離を空けているし。

しかし、どうしたものか。いつまでも泣いている目の前のこの男をほおって行くわけにもいかないのだが、如何せん二人きりで話なんてのも気が引ける。
うーんとない頭を頑張って使っていた。その努力もむなしく、後ろの二人はなんと帰りやがった。薄情にもほどがある。
「流石にこんな状態になってまで蜂須賀を無視するのも人としてどうかと思う」
「そっ!だから名前、あとよろしくね。きっと美味しいもの食べさせてくれるよ。ばいばーい」
ふざけるな。いつものしつこいお前らは何処にいった。
そんなこんなで私の残された道は一つしかなくなってしまった。

「…あの、じゃあ、お茶……します?」

その一言で蜂須賀はこれまで見たことがないほどの満面の笑みで「あぁ!!」と、元気よく返事をした
ほんとにこいつの情緒どうなってんだよ、病院いけ。という言葉を必死に飲み込んで、私達は近くの喫茶店へ足を運んだ。


―――


入った喫茶店はお客さんが二、三人しかいなくて私達は壁際の二人掛けの席に案内された。
しかも入店した直後、ウエイトレスのお姉さんは何故か泣き腫らした男と私のセットにぎょっとしており、なにかを察したのか周りに人がいない席へと気を回してくれた。
私は変に気をつかわれたくなかったけど。

さて、水を出されて目の前の彼をチラチラとうかがっていると、また何か言いたげにそわそわし始めた。
埒が空かないので私から話しかけた。

「あの、そもそもどちら様ですか…」
「あ、あぁ、自己紹介がまだだったな。俺は蜂須賀虎徹、蜂須賀と呼んでくれ」
「苗字名前です。…歳っていくつですか」
「十六の、高二だ」

何となく予想はしていたけど歳上だった。怖い。

「私は中二です。先輩だったんですね」
「ああ、けど…あまり畏まらないでくれると助かる」
「はぁ」

会話が途切れる。気まずぅ。結局この蜂須賀さんは、何が話したくてあんなになっていたんだろう。
そんな気持ちを読み取ったわけではないと思うが、彼はポツポツ話し始めた。

「まずは、この前はすまなかった」
「あ、はい」
「初めてあったにも関わらず、取り乱してみっともないとこを見せてしまった」
「(さっきも大分みっともないとこだったと思うけど)」
「…なぁ、本当に君は何も覚えていないんだな?」
「覚えていないって何をです?」
「俺たちのこと。それから 蟇ゥ逾櫁? として戦っていたこと、全部だ」

なんて?店内bgmのボサノバが若干音が大きい気がする。だからといって途中聞き取れなかったとか、揉めるのもめんどくさくて聞こえてたふりをする。

「全然知らないですし、よく分かんないです」
「…そうか」

あからさまに気分を落としていた。なんならまた目がうるうるしてるし、まさかまた泣く?!
ヤバイと思ったものの、彼は鼻を少しすすり、「いや、知らないなら知らないで良いんだ。そうだ、なにか頼むと良い。この前のというか、今回も迷惑をかけたし、ご馳走させてくれ」と、気前の良いことを言い出したので遠慮なく季節限定のパフェを頼ませてもらった。
まあ、食べ物に罪はないし、貰えるもんは貰っとけの精神で生きてきているんで、へへ。

そのあと何だかんだでポツポツ会話を交わした。
初対面の時とは全くの別人かよというほど、彼とは話しやすくてパフェと彼が頼んだ紅茶がくる頃には意気投合とまではいかないかもしれないけど、それなりに仲良くなってしまった。

いや、別に仲良くなるのが悪いわけではないのだけど、本当に最初のインパクトが強すぎてこんな関係になれるとは思わなかったというかなんというか。
会話も弾むのとシンクロしてパフェを食べ進める手も早くなる。

うっ。冷たいものを一気に食べたからか、少し頭がいたくなる。
「大丈夫か?」と声をかける彼に「大丈夫」と短く答える。
かき氷とか食べるとすぐキーンとなるタイプなため、これは想定の範囲内。しかし、なかなか収まってくれない。そんなにアイスがっついて食べたかなぁ?なんて思いながら頭をこねくりまわしていたら蜂須賀くんは笑っていた。


20220913




[ 29/80 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -