燭台切とカボチャのスープ
朝。太陽が上るのも遅くなってきた季節。
いつものように出陣する皆を見送り、その背中が見えなくなってもぼーっと空を眺めていた。
冷たくて、少し肌に刺さるような空気を肺いっぱいに吸い込むのが好きだ。
朝御飯に食べたお味噌汁で体は温かいものの、冷えてはいけないと皆が以前選んでくれたブランケットを羽織直し、本丸へと戻ろうとした。
「宅配でーす」
振り替えると転送装置の方から声がする。なんの荷物を頼んでいたんだっけ?
我が本丸の転送装置は、井戸。
普通の井戸より大きめで、出陣するときはスイッチを押して飛び込めばいい。帰ってくるときは汲み取るためのロープに掴まれば自動的に上がってこれる。ちなみに中傷重症になった際は、こんのすけが緊急として転送してくれる。
私が現世へ向かう際にも使うし、宅配や政府からの物資が届くのもここからだ。
小さな荷物は抱えて持ってきてくれるが、大きな物に関しては紐にくくりつけて上げてくれる。
今回はどうやら前者のようで、宅配のお兄さんが小脇に箱を抱えてやってきた。
「ここにサインだけお願いします」
「はい。……はい、いつもありがとうございます」
「いえいえ、ではまた!」
井戸に飛び込むお兄さんに、お辞儀をして玄関へと向かった。
―――
そんな時、今日のお留守番の燭台切は朝御飯の片付けを終えて食器を棚へ戻していた。
そこへ先程荷物を受け取った審神者は興奮した様子で帰って来た。
「燭台切!」
「わ、主。そんなに興奮してどうしたんだい?」
「これ!!」
そういって目の前に掲げたものに、穏やかだった燭台切までもが興奮し始める。
「とうとう買っちゃったんだね!」
「はい、とうとう買っちゃいました!」
「最高だよ主!」
「届くのが遅かったので、買ったことを忘れかけていたんですが、とうとう我が本丸にも来てしまいました!」
「じゃあ今日は早速それを使って」
「ええ、作りましょう!」
カボチャスープ!!!
―――
お芋やカボチャなど、大量にとれて満足感のある野菜が収穫期を迎えていた。
常備菜として毎日使っているし、長期間の保存も効く。大変ありがた〜い野菜なのだが、レパートリーがなくなってきたのだ。
うちは料理に使うための器具がわりと少なめで、とりあえず包丁、炊飯器、オーブンレンジ等の基本的なものがあればいいだろうという感じだった。
しかし人数が増えたり、料理が趣味になる刀剣も出てくると、これがあったら便利になるよなぁとか、あれがあれば一瞬で作業が終わるなど要望がちらほらでるようになったのだ。(勿論私もなのだが)
そんなこんなでとうとう買ってしまったのがこれ。
フードプロセッサー
しかもミキサー一体型のちょっといいやつ。
刻む、練る、混ぜるなどは勿論、おろしたり刻んだりなんてことも出来ちゃう。
夢にまで見たフードプロセッサーちゃんを早く使いたいため、私と燭台切はいつも以上に気合いをいれ、内番や洗濯、掃除、事務仕事を全て終わらせた。午後の仕事なんてもう残っていない。
料理好きな燭台切や、歌仙、陸奥守を筆頭とした者達と一度会議したとき、満場一致でこれが欲しいということになった。
まだ燭台切しかこのことは知らないけど、きっと皆帰ってきたら喜ぶだろうなぁ。
歌仙は大量に仕込みをするのが楽になるねと、陸奥守は山伏達と狩った動物の肉を加工する幅が広がると、乱や加州はスムージーが作れると、とにかく皆が喜んでくれる。
そしてお昼は、前から作りたいねといっていたカボチャのスープ。
材料は沢山ある。牛乳も皆毎日飲むし定期購入にしているため問題ない。
「じゃあ、早速作っちゃおうか。そして…」
「ええ!使っちゃいましょう、フードプロセッサー!」
とりあえずカボチャを適当に切ってレンジで温めている間に、サラダにする生野菜達を切っておく。あとスープに一緒に入れる玉ねぎも。
主食は勿論パン。トーストした食パンをスープに浸して食べるという戦法だ。
「付け合わせ、どうしましょうか」
「サラダだけじゃ味気ないもんね。んー…、ああそうだ。この間燻製にしたベーコンとお豆腐とかもいれてボリュームのあるサラダにしたらどうかな?」
「それいいです!そしたら、ベーコンと、よっと、お豆腐は…半端になってるやつがありますね。それを使いましょう。あと冷凍してある枝豆もいくつか茹でていれませんか!」
「うん!お湯を沸かしてお豆腐切っておくから、主はベーコン焼いてもらっていいかな」
「分かりました」
料理の慣れてない者たちや、ちょっと不器用な者達とゆっくり談笑しながらお料理をするのも勿論大好きなのだが、逆に慣れていてテキパキ動ける者達と、食堂で働いてるかの如くせわしなく動きながら料理をするのも大好きだ。
ベーコンをカリカリになるまで炒めている間にお湯が沸き、燭台切はその中に枝豆を丁寧に入れる。すかさずタイマーもセットする
「お豆腐はもう他のサラダと一緒に盛り付けておくね」
「分かりました。多分カボチャももうすぐ温め終わりますね。私が枝豆を一緒に見てるので、そちらの方お願いします」
「OK」
チンとレンジが動くのをやめると、湯気のたったカボチャが登場する。
ほかほかのカボチャ、それだけで十分魅力的だがここからが今日の本番だ。
「主」
「はい」
「はい、どうぞ」
そういわれ、ほかほかの小さく崩されたカボチャを目の前に差し出される。
パクリと口で直接食べれば、広がるのは優しい甘さとほろほろの食感。
「やっぱりうちでとれたカボチャは絶品ですね!」
「ね!僕もちょっと食べちゃった」
「ふふ、料理している人の特権ですね」
「そうだね、出来立てを摘まみ食いできちゃうのって楽しいし、美味しいよね」
二人で笑いながらいよいよフードプロセッサーを使うということで、茹で上がった枝豆をとりあえずザルに移し、いい感じに仕上がったベーコンは火を止めた。
フードプロセッサーにカボチャと玉ねぎをいれ、ボタンが押される。
ウィーンという音ともに、中にはいっている食材はみるみる形をなくしていく。
「「わぁ〜」」
「……感動ですね」
「どうしよう、これ一日中見てられるよ」
「わかります。はぁ、本当に買ってよかった」
「ねぇみて主、もう終わりだよ…」
そういってスイッチを一度切り、中を覗くとそれはもう元の形も分からない、混ざりあったオレンジのペーストだった。
二人でじーんと感動しながら、牛乳をいれさらに撹拌させる。
綺麗に混ざったカボチャスープを鍋に移し、温めながら味の調整をする。これも燭台切に任せて、私はパンをトースターで焼き、ベーコンと皮から出した枝豆をサラダに盛り付けた。
さあ、もうすぐ完成だ。
―――
「「いただきます!」」
手を合わせまず始めに食べるのは、勿論カボチャスープ。
温かいそれをふーと息をふきかけ冷まし口に運ぶと、まろやかな甘さが身体中に広がる。
口当たりもとても滑らかで、まるでお店で食べているといっても過言ではないくらい。
「おいしいね」
「はい、とても」
トーストしたパンを一口サイズにちぎり、スープに浸して食べてみる。
サクサクした触感の次に、中の柔らかいところからスープが染みだしてくる。まぁなんと美味しくて幸せな口当たりなんだろうか。
ちらりと燭台切に目を向けると、片手にパンを持ち高揚ととした表情で口を動かしていた。
きっと私もこんな感じなんだろう。
見てるだけで幸せそうなのが伝わってくる。
それから私たちは黙々とそれを食べ続け、お互いスープをおかわりまでしてしまった。
「「ごちそうさまでした」」
20220827
転送装置は犬○叉の戦国時代側の井戸に簡易的な滑車と屋根が付いてるイメージです
[ 9/80 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]