大倶利伽羅と納豆キムチ



久々にきてしまったあの欲求。

これは誰にでも起こる現象。無性にあれが食べたいという欲求。
その衝動がでてしまったが最後、それを食べるまでは絶対に食べる手を止めることはできないし、いざ目的の物を食べたとしても、何度もそれを食べないとその欲求は収まってくれないのだ。
厄介な欲求ではあるが、目的を達した瞬間というのはそれはもう幸せだ。自分でも分かるくらいに幸せホルモンが滝のようにでてくる。

さて、前置きはほどほどにして私が今何を食べたいのかというとそれは…

“納豆キムチ”!!!

発酵食品に発酵食品をかけて食べる健康という言葉しか当てはまらない食べ物だ。
勿論個人の好みがあるので当てはまるかどうかは分からないが、納豆キムチは禁断の食べ物といってもいいだろう。一度食べてしまえば最後、毎日食べないと気がすまないほどその中毒性は高く、一日でも食べない日を作ってしまえば、先程いったように“無性に食べたい”という欲求がまたでてくる。
つまり負のスパイラルに陥ってしまうのだ。
悪い例えになってしまうが私にとっての納豆キムチはいわば麻薬。

それに納豆キムチはそのまま食べても勿論美味しいのだが、その真価は付け合わせとして食べることにある。
ご飯は勿論、麺類、パン、お豆腐、お魚の缶詰などなど…。その相性の良さといったらチーズと肩を並べるほど。勿論そのチーズと合わせても完璧
である。ちなみに私は冷やした汁なし麺と絡ませて食べるのが大好きです。

どうしよう、困ってしまった。

以前食べたのは審神者になる少し前。審神者になってからは毎日が慣れないことでバタバタしていて、そんなことを考える暇もなかった。それが続いていて、今はそれなりに落ち着いてきたという事なんだろうけど…。

しかし、これを食べるとなると今日のお留守番、大倶利伽羅までその負のスパイラルに巻き込んでしまうことになる。果たしてそんな極悪非道なことをしていいものかどうか…。

朝、目が覚めてから考えているのはずっとその事。今日の仕事は内番とお掃除くらいなので(事務仕事は皆が帰って来て報告を聞いてから)多少ミスしたところで大した問題ではないのだが。

「…………」

顔にバッチリでてしまっているのか、大倶利伽羅は先程から凄くこちらを見てくるのだ。
馴れ合わないと最初こそ一人でいることが多い彼だったが、それは本当に最初だけ。仲間が増えて共に過ごしていくことで、今では話しかければ普通に会話をしてくれる。なんだったら彼から話しかけてくれることだってある。(大体は事務的なことだけど)

だからこそ、なにか勘違いさせてしまっているかもしれないが、多少なりとも心配してくれているんだろうなということは分かっている。
それなのに私の考えているのは納豆キムチのこと。彼にこの禁断の食べ物を食べさせようと画策しているとんでもない審神者だということに、申し訳なさがじわじわとわいてくる。

はぁ、と深いため息をこぼし空になった洗濯物かごを持ち上げたとき、彼は私の直ぐ隣まで歩みよってきた。
「何があった?」
「……」
優しい。見下ろしてくる表情はいつも通りだが、その目の奥は優しくて、気に掛けてくれているということは十分に伝わってくる。

だからこそこんなことで悩んでいるのが申し訳ないし、彼を道連れにしようとしていることにも嫌気がさしてくる。
それでも食べたい、食べたいのだ納豆キムチ!

何もいわない私をじっと見てくれる彼に私は意を決した。

「大倶利伽羅…私はすごく狡賢くて、欲深くて、とてもダメな人間です。この後、貴方をとんでもないことに巻き込んでしまいますが、それでも私を許してくれますか?!」
「……何をするつもりなんだ」
「勿論反旗を翻すようなことや、貴方達を傷付けるような危ないことではありません!でも、そうですね……貴方をそれなしでは生きていけない身体にしてしまうかもしれません。ある意味とても危険なことです」
「あんたもそうなるのか?」
「残念ながら私はとっくの昔にそうなっています。それに貴方を巻き込もうとしてるんです」

少しの沈黙が流れる。そりゃあ駄目だよなぁ。こんな危険なことに彼を巻き込んではいけない、こんなに優しい彼を利用しようだなんて私は本当に駄目な人間だ。

「いえ、すみません変なことをいってしまって。今の事は全て忘れてください」
「…いいぞ」
「…え?」
「いい。あんだがそれで元気になるなら、俺を巻き込め」
「でも、」
「あんたのそんな顔をずっと見ているくらいなら、そのほうがいい」
「大倶利伽羅……」

彼は優しすぎる。すいませんすいませんと何度も謝りながら、私達は昼食までの時間をおぼつかない手で仕事を進めた。


―――


「……」
「これを食べてください」

私達の目の前にあるのは汁なしの中華麺に少しからい味噌ダレを絡め、納豆キムチに茹で卵、きゅうりの千切りをのせたもの。

目の前のギラついた視線は、どういうことだと訴えてくる。

「実はこれは凄く危険な食べ物なんです」
「…」
「いえ、正確にはこの上に乗っている納豆とキムチを混ぜたものです。これを食べてしまったが最後、毎日これを食べないと気が済まない身体になってしまいます」
「さっきのは、これなのか……?」
「はい」

さっきよりも眉間にシワがよったのが分かる。すみません。紛らわしい言い方をした上にこんな極悪非道なことに巻き込んですみません。

「色んなことに対してすみません。でも本当なんです。凄く美味しいので冷めないうちに食べてください」
頭を深々と下げて私はその視線から逃れるため、手を合わせ目の前のご飯に手をつける。

美味しすぎる。私の体はこれを求めていたのだ。久々に食べるこの味に体を震わせていると、大倶利伽羅も手を合わせそれを食べ始めた。

少し気まずいためお互いそのまま黙々とそれを食べ続けた。


「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
「あの、」
「……」
「本当にすみませんでした」
「……悪くなかった」
「!」
「少し寝る」
「は、はい!」

こちらを見てくれなかったが、それでも彼の口からでたのは肯定の言葉。よかった。怒っていないみたいだし、それなりに美味しく食べてくれたようだ。

彼の姿が見えなくなってから少し小躍りしたのは秘密だ。


―――

翌日の朝、皆揃って朝御飯を食べ始めたときだった。

「あれ、利伽ちゃんそれ…納豆とキムチ?」

その一言に私は思わず大倶利伽羅を二度見してしまった。
うちの本丸は基本的にご飯に乗せるものは自分で好きなものをとる形なのだが、なんと大倶利伽羅は皆の目の前でその悪魔の食べ物を錬成しようとしていたのだ。

「駄目です大倶利伽羅!それは危険です!!」

皆一斉にこっちを見るも、当の本人は無視を決め込み出来上がってしまったそれをご飯の上に乗せていた。

「え、主。大丈夫?」
「もしや食べあわせが悪いとかでしょうか」
「大倶利伽羅、貴方まさか皆まで巻き込むつもりで…!」

大きな口でそれを頬張る彼はこちらを見てニヤリと笑った。
どうやら彼は私なんかよりも狡賢いようだ。

「うまい」

あの大倶利伽羅が“うまい”とこぼしたのだ。皆それに食いつかないわけがなく、それを真似するものがでてきて、あっという間に我が本丸は皆、納豆キムチの中毒になったのは言うまでもない。

20220822


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