5A

「は、はは……。こんにちはお兄さん」
「うん、こんにちは」
「えと、どちら様ですか…」

ニコニコと人の良い笑みで挨拶してくる髭切さん。突然の来客に沢田くん達も勿論唖然としている。

「僕はこの子のお兄さんだよ」
「え?!苗字さんお兄さんがいたの?!」
「いや私一人っ子!だけどその、なんていうか…」
「妹、もう帰るところなんでしょ?そろそろ行こうか」
「あ、」

そろそろ行こうかなんて優雅な言葉とは裏腹に、私は小脇に抱えられそのまま挨拶するまもなく連れ出された。

「い、行っちゃった…」
「おい、リボーンあいつは」
「わからねぇ、でも…よっと」
なんとも言えない空気に取り残された三人。ツナだけは混乱しているが、残りの二人と後からきたロマーリオは玄関を開けてその惨状を目の当たりにした。

「な、なんだこれ!?」
後ろからチラリとしかみていないツナですらその状況に冷や汗を流した。

家の周りにいたはずのディーノの部下たちは全員倒れていて、呻き声をあげている。みな急所を一撃でその手際は鮮やかとしか言えなかった。

「大丈夫ですか?!」と声をかけて回るツナを尻目にリボーンとディーノは一番距離のはなれている場所にいた部下の元へ向かう。

「っ、あいつがやったのか?」
「…多分な」

その男は他の者達とは違い息を引き取っていた。
死因は刃物で心臓をひとつき。しかしその傷よりも先に目が行くのは両腕。どちらの腕もきれいに切断されて地面に落ちているのだ。

「なんで一人だけなんだ」
「一人殺るなら他も死んでいてもおかしくはないな」
「それにこの傷…全部プロの手口だ」
「こりゃあ本腰いれて調べてみるしかねぇな苗字名前」

名前の知らぬところでどんどん事態が大きくなっていることに本人は全く気付かないのだった

―――

そんなことが起こっているとは露知らず名前は相変わらず小脇に抱えられていた。

「お兄さん道端のおじさん達ほんとに生きてるんですよね、あれ死んでませんよね!?怖いんですけど私!」
「んー?殺しなんてしないよ。だってそんなことしたら君が泣いちゃうでしょ?」
「ほっ、ならいいです。てゆうかお兄さんまた仕事すっぽかしたんですか?」
「だって呼ばれたし」
「いや、そんなことで仕事わざわざサボらないでください」
「うん、考えとくね!」

仕事なめてんのかこの社会人。

きちんと説明した方がいいだろう。この人は源氏髭切さん。図書館に勤めているお兄さんである。
先程もいったが自称私のお兄さんなので全く血は繋がっていない。その証拠がこの顔面格差だ、分かりやすいだろ?
さて、なんで私のお兄さんを自称しているかと言うと私も知らない。
髭切さんと出会ったのが小学生の時、図書館に本を借りに行った時だ。だからそう、三、四年前くらい。初めてあった時はそれはもう酷かった。

「あれ、主じゃないか。小さいね、それにようやく会えた。嬉しいなぁ」
「お兄さんだれ?私名前だよ」
「ふふ、そっか名前は名前って言うのか。それに、お兄さんって…いいね」

この最初の会話だけで大分やばい人間だということが伝わるだろう。イケメンだとしてもサイコパス臭がしっかり漂ってくる。

「うん、弟の膝助に妹の名前……。ねぇ主。今日から僕は君のお兄さんだよ」
「お兄さんは名前のお兄さんじゃないけど」
「今日からなるんだよ、君のお兄さんに。僕は髭切。だから今日から僕のことは“お兄さん”って呼んでね」
「……髭切のお兄さん」
「ううん、“お兄さん”」
「お兄さん」
「うん!」

当時小学生だった私でも彼の底知れぬヤバさに少し引いていた。そして拉致られた。
いや、もう改めて考えたらこれ案件過ぎない?!警察動いててもおかしくないでしょこんなの!
拉致られた先は近くのファミレス。単純な人間だったもので、パフェをおごってくれた瞬間直ぐ懐いた記憶がある。

そしてそれが食べ終わるころ

「兄者ああああああああああああああああああああああああああああああああ」

そうそうこんなクソでか大声。ん?
昔の思い出に浸っているとそのありえないくらいの声量がどんどん近づいてきているのに気づく。
いつ髭切さんは連絡いれたんだ?!
そして目の前の人物は気迫のこもりすぎる顔で「またなのか」と声をかけてきた。
そうなんだよ。また君のお兄さんがやらかしたんだよ。
口には出さないが諦めた顔でうなずくとはぁと深くため息をはいた。

「やぁ弟丸、随分早かったね」
「兄者!また仕事を抜け出したのか、そして名前まで、あと俺は膝丸だ」
「だって呼ばれたし」
「呼ばれたからといって名前を連れ去るのはまた別だろう」
「もう、そんなかっかしない。膝麿だって妹に会えて嬉しいだろ?」
「うっ、」

髭切さんの実の弟膝丸くん。彼は兄とは違い大分常識的だし、くそ真面目で、素直な性格なので、いつもこうして注意を始めるのだが直ぐに丸め込まれてしまう。膝丸くん、もう少し君ががんばってくれれば私はこんなに拉致られることはないんだよ。
「名前も筋丸に会えて嬉しいよね」
「まぁ」
「ほら!」
「くっ!名前すまん」
「もう慣れたからいいよ。今回やらかしたのは私の方だし……はは」

つまり“お兄さん”と私がいつ、どこで、どの声量で発したとしても、来るのだ。髭切さんが。
盗聴気でも仕掛けられてんのかと疑ったことだってあるが、そんなものはついていない。そして、私の元へ来るのが早すぎる。どんなに遠くても五分以内で必ず来る。
正直私はこの人は人間じゃないなって思ってる。じゃないと全ての事に対して説明がつかないのだ。謎が多すぎるこの兄。

そして、今回は私がやらかしたといったが、呼ばなくても気まぐれで拉致られるのだ。
理由は簡単「妹に会いたかったからに決まってるじゃないか」ということです。
警察の怠慢さと、髭切さんの勤めている図書館の職員達が凄く気になるよ。

「で、お兄さん。今日はどこ行くの」
「んー…、うちへきなよ。今日は君の好きなすき焼きにする予定だったし。僕が名前の荷物宗三くんから貰ってくるから、弟と一緒に先に家へ帰ってて」
「すき焼き最高!お兄さん大好き!」
「ふふ、僕も大好きだよ」
「はぁ、ほんとに泊まるんだな名前」
「うん、だってこうなって自分のやりたいこと出来た試しないし、すき焼きだし」
「じゃあ先に帰ろう。兄者また後で」
「うん、妹のことよろしくたのんだよ」

こうして膝丸くんと一緒に彼らのおうちへ向かうことになった。もうこういうことは過去に何回も起きてるので源氏家がどこにあるのか知っているのだが、大概はこうして膝丸くんと一緒に向かうのが多い。そして髭切さんは何故か宗三の野郎を私の保護者と思っており、いつも彼に許可を得に行っている。さすがに私の親にそれはやってくれ。


―――


源氏家へついて直ぐに中央のソファに飛び込みテレビの電源をいれる。
後ろで「はしたないぞ名前!!!!」と、またクソでか大声で叫んでいるがいつものことなので気にしない。
適当にチャンネルを回してみるも面白そうな番組はやっていないようだった。

「ねぇ膝丸くんネト○リとか、ア○プラとか入ってないの?」
「入ってない。俺も兄者も基本的にニュースかNH○しか見ないからな」
「(じじいかよ)」

仕方なく、テレビを消し自分のスマホをいじる。つまらないけど暇潰し程度にパズルゲームでもしよ、とアプリにログインしたとこで膝丸くんが隣に座ってくる。ちなみに私は横になっているため、必然的に私の足は彼の膝へ移動するのだった、膝丸だけに。

「最近はどうだ」
「もー、会話の振り方がおじさん過ぎる。えっとね…ハチャメチャすぎて毎日疲れてるよ」
「というと」
「なんかさー、前に双子の転校生きてからすっごい絡まれるようになって、しかもその転校生ズがまぁまぁトラブルメーカーというか、めんどくさいことに積極的に首突っ込むから私も巻き添え食らうんだよ」
「めんどくさがりのお前には酷なことだな」
「そーなの!!ほんと無理〜まだ髭切さんのあの奇行の方が可愛いレベル」
「ふっ、それは兄者も喜ぶだろうな」
「いやどこが」
「それなりに好かれてるとこがだ」

なんて談笑してる時間がここ最近で一番穏やかで平和で泣きそう。いや、この前の左文字読書会も穏やかで楽しかったけど、膝丸くんが私のまわりで大分一般人レベルが高いから本当に癒し。


―――


週一ですき焼きがいい。大変美味しかった。この兄弟、なんと料理が凄くうまい。そのためすき焼きも割り下からこだわって準備しており、もう最高。お店で食べているかのようだった。

それにしてもこんなに二人とも顔がいいのに、料理もできる、勉強もできる、運動もできるって…神様はずるいよな。

「名前、風呂が沸いたから先にはいるといい」
「ほーい、んじゃ一番風呂いただきまーす!」

名前がいなくなったあと、膝丸は自分と兄の分のお茶をもちダイニングテーブルについた。
向かいの髭切にお茶をわたし、二人で息をつく。

「で、宗三はなんと言っていたのだ」
「もう大分動いているみたい、今日が招集日だって言っていたよ。あとボンゴレも目を付けているみたいだね」
「……そうか」
「いやー、朧も血の気が多いというかなんというか…今日呼ばれたから名前の元へ行ったんだけど、ボンゴレの仲間の護衛が邪魔だったから気絶させといたんだけどね」
「兄者!軽率すぎるぞ!!」
「しっ、声が大きいよ」
「っ、すまない」
「気絶させる前に一人だけ、殺されてたんだよね」
「!」
「予想だけど、今日招集がかかったからお付きの脇差しくん達はいないだろ?だから誰かまではわからないけど短刀の誰かがずっと付いていたんだろうね」
「……そんなことをすればその一味も、仲間のボンゴレも敵にまわしたも同然ではないか」
「そうなんだよ。宗三くんにも一応話しといたけど、彼、頭抱えて今にも倒れそうだったよ」
「あいつも気苦労がたえないな」
「はぁ、名前を僕たちだけの妹にできたら、こんなことにはならなかったのになぁ……」
「…そうだな」
「付喪神のときだったら神隠しさえしてしまえばよかったけれど、人間の体は不便だね」
「それで、これからどうする兄者」
「そうだね……とりあえず朧にだけは渡したくないかな。もちろん他の組織にもだけど。記憶を戻したところであの子はあの子だけど、でもそんなことしたらきっと今日みたいな時間はもうこない。だから―――」


20220821



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