5、ディーノお兄さん?髭切お兄さん?

沢田くんが生徒手帳を落としていった。


今日の日直だった私と沢田くんはくっそめんどくさい日誌を無事書き終えて、ジャンケンをして日誌を持っていくのはどっちか決め、無事負けた。
沢田くんたらジャンケンなのに今まで一度も勝ったことがないような喜びようで万歳なんてしてた。
そこまで喜ばれると悔しいとかいう気持ちもわいてこない。良かったね沢田くん…なんて思いながら重い腰を上げて日誌をもつと、沢田くんが「あれ?」と声をもらす。

「んー?どうしたの沢田くん」
「いや…、そういえばあの二人いないの?鯰尾くんと、骨喰くん」
「ふっふっふ、気付いてしまったようだね沢田くん!!!!」

あまりの嬉しさに顔の緩みがおさえきれず、そのまま捲し立てるように説明した。

「実はね!!昼間はいつも通り纏わりつかれてたんだけど、HR終わって直ぐに、今日は大事な日だから一緒に帰れないんだっていってさっさと帰っていったんだよ!!!!こんな嬉しいことある?!この日の放課後だけ私は自由の身なんだよ!やっふー!!」
「凄い喜んでる…。そっか、たまには一人になりたいときもあるもんね」
「だから今日はさっさと家に帰ってネ○フリ三昧なんだよ!」
「(それは別に二人がいてもいなくてもできるんじゃ)」
「沢田くんも良い放課後をね!じゃ!」
「あ、うん。また明日」

颯爽と駈けていく名前を尻目にツナは「あんなこといってるけど、ちょっと寂しそうだったなぁ」と超直感を無意識に働かせているのだった。


さてここで冒頭に戻るのだがうきうき気分で教室に戻ってきた私の鞄の近くに沢田くんの生徒手帳が落ちていた。
多分帰り際に落としたのだろう。ま、渡すのは明日でもいっか!と気楽に考え鼻唄を歌いながら帰ろうとした。そして階段を降りてる最中に普通に足を滑らせて落ちた。
痛い。幸いにも学校の階段というものは広い踊り場をもうけてる構造なため落ちたといっても二、三段位なのだが、それでも痛いものは痛い。

「いった…」と膝をさすりながら一緒に落ちた鞄を拾おうと手を伸ばすと、その手の先に黒い革靴が見えた。あれ、この革靴なんておもっていると真上からあの恐怖の声が降ってくる。

「ふーん、今日は群れていないんだね」

恐る恐る顔をあげるとやはりというべきか、居たのだ、雲雀恭弥が。よりによってあの二人がいないときに!!!

「これ、君の生徒手帳じゃないよね」
「は、はい!?」

怖すぎて全くもって周りが見えないのだが、よくよくみると彼の手の中には沢田くんの落とした生徒手帳があった。さっき階段から落ちたときにポケットからでたんだ!
やばいやばいやばい、もしかしてこれ窃盗の容疑で殺される?!何とかして誤解を解こうと、先輩がなにもしゃべらぬうちに慌てて弁明する。

「あ、あの!実はですね日誌を職員室に届けて戻ったら、同じクラスの沢田くんのその手帳が落ちてまして、生徒手帳って我々学生の身分証明みたいなものじゃないですか!だから常に携帯をしとかなきゃいけないのに、それを持ってないと沢田くん困るよな〜と思いまして、今から彼の家に届けに行こうと思っているんですよね!決して盗んだとか悪用しようとかそういうことではなくて、本当にただ落ちて「五月蝿い」はい」

トンファーをさっと顔面に向けられ大人しく口を閉じた。はい、死にました。無理です。何でこんなときに限ってあの二人いないの、怖いよ、助けてくれ。
心の中で遺書の内容を考えていると向けられていた武器は離れていき、代わりに沢田くんの生徒手帳が帰って来た。

「え」
「それ届けるんでしょ、なら早く行きなよ」
「えっと」
「それとも本当に悪用する気で盗んだの?」
「違います!!!!」
「なら、早く帰るんだね」
「は、はい!」

どうやら見逃してくれるらしい。ありがとう神様、私まだ生きてていいみたいです。

「ただし」

また物凄い早さで顔ギリギリにトンファーを向けられる。思わずチビりそうになった。

「今日中にそれを彼のとこへ届けなければ窃盗だとみなし噛み殺すから」
「今日、絶対に、死んでも、届けさせていただきます」
「じゃ」

先輩は肩にかかった学ランを翻し、私がもと来た階段を上がっていった。
さぁ、ネ○フリどころじゃねぇ。沢田くんちに死んでも行くぞ。


―――

沢田くんちをまず知らないので職員室に行き、雲雀先輩の名前を出したところ秒で、なんなら地図付きで教えてくれた。恐怖政治だな。

うちとはちょっと離れた場所で帰りのめんどくささを考えたら、そりゃあもう行きたくはないのだが、この生徒手帳に命がかかっているのでそんなこともいっていられない。

住宅街にはいると家についている番地の番号を見ながら進む。順番的にもうすぐだよなぁ…と思いながら角を曲がると、黒服の厳つい男の人たちがある家を中心に散らばっていた。
あまりの異様な光景に元来た道を引き返したかったが、私の予想が正しければ沢田くんちはあの黒服の人達の密集地にある家。

雲雀恭弥に殺されるか、あの厳つい集団に殺されるかの二択。どっちもいやすぎて泣きたい。
先生に沢田くんちの連絡先も聞いて事前に連絡しとくべきだった。最悪だ。
半べそかきながら、ここを行かなければどのみち死ぬ。なら強行突破しよう。とうとう頭が働くなってきたのすら気付かず、私はあの中心地へダッシュした。

が、秒で捕まった。

そりゃそうだ。こちとら体育の成績二だぞ。中の下。はぁ、本当にここで死んでしまうんだと思うと涙が滝のように流れてきて前が見えない。掴んでいるおじさんたちなんて小声で「うぉ」とかいってちょっと引いてたもん。仕方ないだろ、お前らのせいだよ!!

しかし何処につれてかれるわけでもなく、気付いたら沢田くんが凄く驚いた顔をして目の前に立っていた。
「苗字さん!?!!何でここに、ていうかなんでそんなに泣いてるのー!!?」
あれ?前が見えないので、手の甲で雑に涙を拭いよく見るとそこはあの中心地、多分沢田くんちであろうと思っていた家の玄関だった。
「あれ…?」
「と、とにかく入りなよ!どうしたの苗字さん、話聞くから!」
「うぇ、沢田くんこの人達誰、殺されるの?死にたぐない゛〜〜〜〜〜!!!!」
「「ええ!」」
「あ、や、苗字さん!!!死なない!死なないから落ちついね、ね?早く中はいって!」

阿鼻叫喚のなか私は半ば引きずられるように沢田くんちにお邪魔した。


―――


「落ち着いた?」
「……うん」

中にはいるとリビングのテーブルに腰をかけお茶をすすめられた。あったかい。一口飲むと、パニックも少し収まって、お互いふぅと息をこぼした。

「俺の部下たちが悪かったな」
一番に口をきったのは沢田くんのとなりにいた謎のイケメン外国人だった。
一応説明しとくとこのリビングのテーブルには四人がけで、私の前に沢田くん。その隣にイケメン外国人。イケメン外国人の一歩後ろに立っているのが先程玄関近くにもいた厳ついおじさんのうちの一人だ。キッチンカウンターには自称沢田くんの家庭教師というリボーンくんも座っている。

「部下?とは…てゆうか沢田くん、全部がわからないから全部説明してほしいんだけど」
「あー…えーと……」

めちゃめちゃ目そらすじゃん。
本当に一から十までわからない。この人達が誰なのか、そして部下って、しかもあんなに家の周りにうろうろしてるし、ましてや一般人に見えない。ヤのつくあの職業に関連してる人達にしか見えないのだけれど、沢田くんってそんな人達と関わってたの?

「こいつらはキャバッローネファミリーだぞ。で、このツナの隣に座ってるへなちょこがボスのディーノ。ちなみにツナもボンゴレファミリーのボスだ」
「ちょ!リボーン!!」
「ディーノだ、よろしくな。へなちょこではないからな!」
「よろしくお願いします。そしてごめん、ぜんっぜんわかんない……」

リボーンくんがいいあぐねてる沢田くんの代わりに全部説明してくれたが、全然説明になってなかった。名前しかわかんなかった。
沢田くんは違うんだなんて否定して説明し直そうとしてるけど、ディーノさんとか言う人はゲラゲラ笑ってるし、リボーンくんはうるせぇぞとモデルガンだしてるし、とりあえず私が死なないならもう帰ってもいいかな?
「あの全然わからないはわからないでいいんだけど、これ」
「あ、それ俺の生徒手帳」
「うん。明日でもいいかなと思ったんだけど、その、今日中に渡さないと殺されちゃうから」
「なんで?!?」
「だから無事生徒手帳も返したし、帰るね私」

そういって席を立ちそそくさと玄関へ向かう。
沢田くんも慌ててこちらに向かってきて「ほんとにありがとう」と頭を下げてくる。
いいんだよ全然。私の命がかかってたからね。
「私こそありがとう。お茶美味しかったよ」

と、出ようとしたところで例のディーノさんとやらとリボーンくんも玄関へやってくる。

「なんだ、もう帰るのか?ツナの友達ならもっとゆっくりしていってくれよ」
このイケメン笑った顔が百億満点である。かっこ良すぎでは?
「いえ、今日は用事があるんで帰ります」
「そうか、改めて俺の部下たちが悪かったな。怖がらせちまったよな」
「はは…。すんごく怖かったです。でも死なないなら大丈夫です」
「ははは!お前面白いやつだな!また遊びにくるからその時はまた会おうな」

そういって百億満点の笑顔で手を差し出してくるんだよ?死んじゃうよ?私の心臓ぎゅんぎゅんしちゃうよ?!

「お兄さんイケメンですね…………あっ」
なんて呟いてやばいことに気がついた。お兄さんって言っちゃった。

明らかに私の様子がおかしくなったことに彼らはすぐに気づき「どうかした?」「大丈夫?」など声をかけてくる。

このお兄さんって言葉、ある人物を自動的に召喚してしまういわば私にとっての“禁句”なのだ。
脂汗が止まらず、どうしようどうしようとパニックになっているうちに、外が騒がしくなっていることに気づく。勿論目の前の沢田くんたちもだ。

もう来てしまった。いったいどれだけの地獄耳なんだよあの人…。
心のなかで泣きながら、ガチャっという音と共に現れたのは

「呼んだかい?妹」

自称私のお兄さん、髭切さんである。
どうやら今日はまだまだ終わらないようだった。





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