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雷門中学野球部も例年通り夏の大会が始まった。
毎日のように試合をしては反省、ミーティング、そして試合。順調に勝ち進んでいる私達だが、頭を抱えるほど落ち込むことがあった。
なんとあの強豪校でライバル校の帝国学園野球部の数名が怪我をしてこの夏の試合にでれないということだった。
説明することが沢山あって何から手をつければ良いやら。とりあえずなぜ怪我をしたかについてだが、サッカー部の試合を観覧していて怪我をしたみたいだ。
サッカー部は時期的に野球部よりも夏の大会が始まるのが早い。野球部の大会が始まるころには全国大会が始まるのだ。そんなこんなで帝国学園のサッカー部もシード枠によって全国大会の一試合目を自校で行っていたところ、ここからがよくわからないのだが、なんでも相手チームの選手がシュートを決めたとたんグランドの半分以上が抉れ、その破片は辺り一面にとび、もれなくそれにぶつかって負傷したとか。
私も後半の説明から一切なにも理解できてないのだが新聞に載っていたんだから怪我をしたにはしたのだろう。

さて、そこから私がなぜ落ち込んでいるのかというと単純な話だ。お互いの精一杯の力で試合を出来ないからだ。怪我をしたという選手の中には主戦力のメンバーも何人かいる。
まだ帝国学園と試合をするわけではないし当たったとしても順当にいって四回戦になる。それでも彼らとの真っ向勝負の試合を、あの夏の青空と熱気の立ち込めるグラウンドで出来ないなんてそんなのつまらないじゃないか。それに(私が)目標にしていた学校の一つだぞ!?本当に本当に残念で仕方ないのだ。

いやしかし、シュートを決めて地面が抉れるってどういうこと……?キャ○テンつ○さ的な?そういうあれなの?そういう世界に私は転生したの?
いや、抉れるにしても実際にみてみたわけではないし、あえて深く触れないでおこう。そんなことより野球なんだよ野球!!!

「まぁまぁ苗字、気持ち切り替えてけよ。俺達だっておんなじ気持ちだし、そもそも目の前の相手のこと考えないと失礼だろ?」
「佐々木…」

同じクラスで同じく野球部の佐々木が朝からこんな調子の私を見かねて声をかけてきた。
そしてその言葉は私の胸にすっと入ってきた。全くもってその通りではないか。まだ戦うかもわからない相手よりも次戦う相手のことを考えないで、相手にも勿論だが同じチームメイトたちにも失礼だ。
気合いを入れ直すため自分の両頬をおもいっきり叩く。
パァン!と思いっきりなる音に教室にいる生徒たちは怯えるもののそんなこと勿論気づくはずもなくただひたすらに佐々木に感謝の言葉をのべた。

「何々、苗字今度はどんな面白いことしたの?」
おはようと挨拶もそこそこに松野がニヤニヤと後ろの席に腰を下ろし、荷物を机に詰め始めた。
「おー、はよ松野。苗字が帝国の野球部が流れ弾で怪我して、万全の状態で試合できないのが悔しいって朝から落ち込んでたんだよ」
「でた、野球大好きマン」
「なー。だから俺が一喝したわけ」
「苗字あんまり熱血すぎるとまたオーバーヒートしちゃうんだからほどほどにね」
「うっ、き、気を付けます」

ニヤニヤ笑う二人にしないから!!!と強気にでれればいいのだが実際なったのだ、オーバーヒート。思い出したくない恥ずかしい過去なので割愛するが。そんなこんなでその事を良く引き合いに出されるものだから、強気にでれないことが多々ある。

「おっはよー。で、オーバーヒートって何のはなし?」
「はよー土門」
「そっか、土門転入だから苗字がオーバーヒートした話知らないんだもんね。あのねー」
「わー!!!!!だめだめだめ!!!松野!!!!!駄目!!!!絶対!!!この男にだけは、駄目!!!!!!!」
「いたたたたたたた、分かったから痛い」

ニコニコと現れた厄介な男土門飛鳥。絶対にこいつだけには弱みを握られたくない。何故かって?胡散臭いに決まってるからだ。こういうタイプの人間に弱みを握られたら負けだと思っている。ので、何がなんでもこいつだけにはこの事を知られたくない。
無闇にばらそうとした松野にヘッドロックをかけ、佐々木には言ったら今日からの練習メニュー合宿用メニューに変えてやるからなと威圧し事なきを得た。

土門は大変不服そうだったが別に私は自分が困らなければなんでもいいので、駄目と念を押し自分の席で次の対戦相手のデータ。過去の試合のスコアブックと選手一覧のメモをみてHRまでを過ごした。



大会は順当に勝ち進んだ。やはり主力メンバーの欠員のためもあってか帝国学園には点差をつけて勝利した。いや、欠員のせいなんてこと、うちはそれだけ強かったということ!もっと自信をもっていうべきとこだった。こんな考え方あの時と同じで互いに対して失礼だ。
そして試合のない日の平日。いつも通り学校で過ごしてさぁ部活だと意気込み教室を飛び出たとこですっと目の前を塞がれた。ドレッドゴーグルの謎の男に。

「すまない、少しいいか」
「…………は、い」
「…大丈夫か?」
「……うん?」

雷門中学は見た目に関しては規制は緩いという自覚はあるのだが、こんな生徒いた?というくらいにはなかなかに奇抜な人である。そして本当に誰だかわからない。こんなに派手なら忘れるわけないのだが本当に見覚えがないのだ。
なので一瞬頭の中をよぎる不審者という三文字。
これ本当にこの人についていっていいのだろうか。と思いながら横を通る知人の腕を考えるより先に掴んだ。

「うわ、びっくりした。て、苗字?鬼道も」
「風丸か」
「い、いやー、たまたま見かけたと思ったらなんか掴んじゃって!!!ごめんねー!!!!(風丸ー!!!!助けてーー!!!!!!!!!!)」

いやまて、今なんていった?

「ん?二人とも知り合い?」
「「ああ」」

話を聞いたところによるとドレッドゴーグルの鬼道はサッカー部らしい、最近転校してきたとかなんとか。しかも帝国学園の生徒。なんだかややこしい事情があるみたいだが、お互い部活があるのでその辺は省略して大人しく話を聞くことにした。
風丸にはいきなり驚かせて悪かったと謝罪してその場で別れた。

つれてこられたのは人気のない場所、校舎裏。
なんだ?と思いつつ話し半分で聞いてたのがいけなかった。

「単刀直入にいわせてもらう。苗字、お前は狙われてる」
「……はい?」

あまりの言葉に思わず足首をぐねった。体勢を立て直し、目を向けるとサッカー部の帝国学園と世宇子中の全国大会のニュースは知っているかと聞かれる。あの新聞に載っていたやつだ。あれ、鬼道はサッカー部ではないのか?しかも帝国の、あれ?

「あの試合でてなかったの?」
「怪我をしていてベンチにいたんだ。あの試合は帝国学園の総帥、影山零治が引き起こしたもので、」
「は?」

話の内容は壮絶というか突拍子がないというか、漫画みたいな話というか。要約すると影山というとにかく勝ちたい、勝たなきゃ死んじゃうというおじさんが有能な選手を引き抜き育てるため、マネージャー枠として私の引き抜きを目論んでるとかなんとかこんとか。
そんな話ある???
いや、そもそも私野球しか興味ないし。なんだったらサッカーのルールも危ういレベル。

「で、私はそれを聞いてどうしろと…」

正直そんな金でなんでも動かせる人に狙われてるなんてことが仮に事実だとしても、全く打つ手はない。こちとら前世からずっと庶民なんですけど。

「警察には俺の方から気を付けてくれとは頼んでいる」
「ケイサツ…?」
「ああ。幸いにも影山を捕まえようと動いてくれる人たちがいるから連絡をしといた」

目を点にさせ必死に非現実的な情報を飲み込もうとしている時にそれは渡された。

「すたんがん」
「そうだ。護身用に持っておいた方がいい」

スタンガン。痴漢などから身を守るために使われるやつ。ドラマや漫画の中でしかみたことないやつが、今私の手の中にあった。あと少しで飲み込めそうだった情報が、この手の中の道具のせいで全て吹き飛んだ。

「いきなり変な話をして悪かった。だが全部本当の事だ。何かあったらサッカー部のやつでもいいから報告してくれ」
「うん?」
「じゃあ」

そういって彼はマントを翻し去っていった。

ど、どういうことだってばよって叫んでもいいかな?


20220819




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