神糞野郎と自覚した五歳。それから月日は巡り巡って現在中学二年生。私はこの世界で生きていくことに吹っ切れていた。

最初は「期待をひどく裏切られた。こんなの生きていく気力なんかわかねーよ」と高熱をだし三日くらい寝込んだ。
しかし幼いながらも前世の記憶を持つ私は必死に考えた。憧れのあの人はいなくても似たような人を探してアプローチすればいいのでは?と。野球というものを前世以上に勉強して、優秀な人材となってチームを甲子園へ導けばいいのではないかと。

そう前世の記憶というアドバンテージをもっている今、それを有効活用しない手はない。

熱から復活した五歳の私は早速プロ野球中継をよくみるようになった。
しかし問題がいくつかあった。前世のアドバンテージとはいえ、身体の状態というのはやはり五歳児なので思考が前以上には働かなかった。それに父も母も野球よりもサッカー派の人間だった。必死にチャンネルを変えても「まーたイタズラして!」なんて無駄に怒られるばかり。
小学生になってからは地元のリトルリーグに入りたいと懇願。野球なんて危ない、ましてや女の子だぞなんて説得されそうになるも、秘技、床に仰向けになり手足じたばたローリングをかましながらギャン泣きした結果、なんとか勝利をもぎ取った。
流石に小学生にもなってそんなことをされると思わなかったようで、この事をきっかけに私が大の野球好きという事実を認識させることができた。(しかし両親はサッカー派なのは変わらなかった)

それからというもの自分で野球を経験し、プロ野球、メジャーが今現在どのレベルなのか見て学び、調べて学び、最新の体の鍛え方やトレーニング法、最適な体をつくるための食トレなど、色んなものに手をだし吸収した。

その結果、私の入学した雷門中学野球部はそこそこの強豪となりつつあった。
私の同学年並びに上下はだいたいリトルリーグで一緒に戦った仲間たち。皆一緒に入学したため選手たちのデータは勿論把握している。
加えて部活という事で機材や部品は部費と顧問と相談すればやりくりができるし、練習試合だって多く組んでもらえる。
勿論部活だから軟式であるし、シニアのような有名な監督やコーチがいるわけでもないから、高校に入ったときその辺の差がどうでるかはまだ分からないが…。

しかし皆目指す場所は一緒。私の戦いは、いや…私たちの戦いはまだまだこれからだ!!

と思っていた矢先のことだった。

「サッカーしようぜ!」

この言葉と共に同級生の円堂守が色々な生徒をサッカー部に勧誘し始めたのだ。
いやいやまて。そりゃあ試合が目の前で部員の数が足りないなら、新規の部員なり助っ人なりかき集めるけど、でも!普通は既に他の部活に入っている人を勧誘するのはアウトじゃないか!!?
こっちは皆必死に全国優勝目指してるんだぞ、一瞬とはいえ他の部活の助っ人なんてやってられないんだぞ?!

円堂守とは違うクラスなので詳しくは知らないのだが、それでも彼はとてつもなくサッカーが好きなサッカー馬鹿であるという話は有名だ。
私が野球大好き女、野球馬鹿だったら彼はいわば私の男版、サッカー好き版というわけだ。
彼と同じ立場だったらそりゃあ、もしかしたら同じことをしていたかもしれない……。
それでもそこらへんのマナーとか?!やっちゃいけないであろうこととか?!それくらいの分別はつくと自覚している。

だから野球部で五人目、しかもうちの捕手兼四番の橋本先輩に声をかけた時に一喝したのだ。

「いい加減にして!!こっちは毎日全国大会優勝目指して頑張ってるのにサッカー部に誘うなんて馬鹿?!一分一秒無駄にできないくらいの意識で毎日必死に練習してるんだから、そこらへんの分別くらいつけなさいよ!部活に入っている人間をスカウトしようとするんじゃない!!!」

これにはあの能天気そうな円堂守もたじたじだった。
私だって人に怒鳴るなんてことしたくないのだがこればかりは仕方ない。野球部以外で困ってる部活だってあるだろうに。

これで大丈夫だろうと現実に目を戻して練習に身を投じること一週間。
なんとサッカー部はギリギリ人数を確保し練習試合ができるようになったらしい。
素直に円堂守の行動力は評価するし尊敬する。

うちのクラスの松野も面白そうだからとかいってサッカー部の助っ人として参加していた。(松野は器用になんでもこなすし運動神経もいいから是非とも野球部にとも考えていたが、そこは本人の考えなどを尊重し無理に入部は誘わなかった)
さらには陸上部で活躍してる風丸までもが参加したという噂も聞いた。以前ちょっとだけ絡んだことがあるが確かにいいやつだった。
だがそれはいいやつすぎるのでは?なんて考えたが、本人がいいならいんだろう。陸上部のメンツはどう思っているかはしらないが。

さて、その肝心の練習試合はどうだったのかというと20対1で雷門の勝ち。ちなみに雷門は20点じゃなくて1点だ。
その話を聞いたとき私はサッカーのルールを思い出していた。よくよく聞けば相手チーム、帝国学園が棄権したとかなんとかで雷門のいわば不戦勝みたいな感じらしいが。

試合はみていなかったのかって?
当たり前だろう野球部の練習中だぞ。それに帝国学園は野球部もそこそこ強い。そんな敵対校が他の部活とはいえうちに来ていたのだ。気合いが入らないわけがない。
いつもより厳しめに練習をしたのは自覚済みだった。

帰る頃にはいつも以上にお腹がなり、久々に買い食いでもしちゃおうと考え近くのコンビニへよった。
前世の記憶があるため棒アイスに関しては正直苦手になってしまった。めったに食べないし、食べるとしても絶対に家の中で食べるようにしてる。
もう棒が喉に刺さるなんて経験はごめんだからね。
しかし、今はアイスよりもおかず系のなにか。どれにしようかなー。普段は食べるものにも気を遣っているため久々の買い食いに心踊らないわけがなく、自然と鼻唄なんて歌っていた。

買ってしまった…、ペンギーゴオリジナルチキン、ペンチキ!しかも限定のゆず胡椒味。
ゆず胡椒のさっぱり風味が脂っこさを相殺してて何個でも食べられてしまう。それに部活終わりの買い食いという最高のシチュエーション。何倍も美味しい、最高。
最後の一口までしっかり味わった後、ゴミを捨てて帰宅し、充実した一日を終えた。

さてさて、それからというもの我が野球部は平和に、そして気を緩めることなく、毎日練習に励んだ。
その間、サッカー部は練習試合以降、練習試合を受けないと呪うぞと脅迫されたり、帰国子女の転校生が入部したり、生徒会長から何故か最先端設備?の地下の練習場をもらっていたり、それ故フットボールフロンティア(中体連)でどんどん勝ち進んでいるみたいで、なんというか、なんなの?!って感じだ。

サッカー部だけ色々起きすぎだ。勿論悪いこともあるんだろうけど、傍目からみると神の導きのようにうまいこといきすぎていて、なんだったらうち(野球部)も最新のトレーニング施設ほしい!!サッカー部ばかりズルすぎる。

野球部は来週から大会なのだが、生徒会長に勝利と引き換えに交渉できないだろうかと頭を悩ませるばかり。
はぁ、と深いためいきをはき次の授業の準備をしていると後ろから声をかけられた。
振り返ると、例のサッカー部に入部した帰国子女がにこやかに立っていた。

「どうしたの?なにか悩みごと?」
「……えーと、サッカー部の」
「俺?土門飛鳥、よろしくな苗字」
「よろしく」
「で、浮かない顔してるけど部活で何かあったの?」

この男…懐にずかずか入りすぎではないか?
こういうタイプの人間にペラペラ己の胸の内を喋りたくないのだが、だからといってはいそうですかとあっさり引いてくれる感じでもなさそう。
裏のないような純粋そうな顔で顔をかしげてるが、逆に怪しい。

「…単純な話だよ。サッカー部、新しい設備とか器材とか沢山投資してもらっていいなぁって思ってただけ」
「はは、話に聞いてた通り相当な野球ばかなんだな」
「そっちの部長よりはまだマトモだけどね」
「俺からみたらどっちも似たようなもんだけどな」

円堂守と同レベルなのはちょっと納得いかない。

「苗字は…」
「?」
「なんで野球部に入ったんだ?女子が野球って珍しいからさ」
「そう?好きだったら普通じゃない?入部しちゃうの」
「辛いとか思わないの?」
「そりゃあ思うけど、好きだから全然苦じゃないよ。それにその苦しいのも好きだからね」

キョトンとした顔をしてまた彼は笑いだす。

「本当に野球好きなんだな」
「え?笑うこと?」
「いやいや、似てるなと思ってさ」

また円堂守か。

「なぁ、話は変わるんだけど、サッカーは好き?」
「嫌いではないけど」
「好きでもない?」
「んー、見るだけなら好きかな。やるなら野球が、あ、見るのも野球が一番だから他のこと好き?って聞かれても中途半端にしか好きって言えない」
「そっか」
「急になに」
「苗字がサッカー部にいたらもっといいチームになれるのになって思っただけだよ」
「……もしかしてそれ、引き抜き?」
「あたり!」

今日一番の満面の笑みである。
こ、この男。お前こそ円堂守と似ているじゃないかと叫びたくなったが、そこは抑えて、断りをいれる。

「私は野球一筋だし、人生計画にも野球が組み込まれているからサッカーとは一生関わらないよ。絶対に」

自分で思ってる以上に低い声がでてしまった。

「ふは、それフラグっていうんだぜ?」
「絶対ないよ断言できる」
「じゃあ俺はこの先サッカーに絶対関わるって賭けとくよ」
「か、かけ」
「そっ!まぁ別に何かほしいとかそういうことではないけどさ」

楽しみにしてるぜ〜とヒラヒラ手を振りながら自分の席に戻っていってしまった。
なんだったんだろう、この一連の会話は。

私がサッカー関わることはない。だって、野球で目指している夢が沢山あるんだから。

20220408





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