2、嵐の粟田口と憂う左文字

「これ俺の兄弟、骨喰藤四郎」
「骨喰藤四郎だ。今世ではきちんと記憶がある、安心してくれ」
「てことで主さんもとい名前よろしく」
「よろしくたのむ」
「え、あ、え?あ、ん、よろしく……?」

私を抱き締めた謎の美形転校生は休み時間隣のクラスにも来ていたらしい転校生を私に紹介してきた。兄弟、というか双子?血の繋がった家族らしいが外面は全く似ていないし、性格も全く似ていない。
なんなら鯰尾くんより電波臭がする。てゆうかなんだって?もろもろ聞かなかったことにしていいだろうか。記憶?今世?主?なんだって????

大変意味不明で適当に返事をし、家に帰るとやはり我が物顔で幼馴染みがリビングを陣取っていたので、ことのあらましを話すと「貴女も大概アホであると思っていましたがまさかここまでとは、二十年生きてきて初めて気づきました。仮にその転校生とやらが貴女並にアホだとして、そこに貴女が加われば学校が爆発しかねないですよ。アホとアホが混ざれば危険ですから」
要約すると混ぜるな危険、そいつらは怪しいから近づくなということらしい。十四年生きてきてあいつの毒舌はいまだに慣れないしグサグサ人のメンタルをえぐってくるが、少しずつ翻訳も出来るようになってきたのも事実(本人の前で翻訳なんていった日には、僕の言葉に裏なんてあるわけないでしょうがと脳天をかち割られる)

確かにやつのいうことにも一理ある。めんどくさいものには関わるな、これとても大事なことだ。あの転校生二人ももちろんだが、先日壁ドンされた不良三人組と、謎の赤ん坊にだってもう会いたくない。だって絶対めんどくさい。どれくらいめんどくさいかというと、うちのクラスの圧倒的人気な陽キャ山本くんと圧倒的不良でなぜか爆発物を所持している獄寺さんを両端にこさえて地雷地帯を歩くようなもの。命を捨てたも同然である。
大袈裟すぎる気もするが、幼馴染みがこれくらいのレベルでいっているのできっとそうなのだろう。
あいつ先見の力というか世の中を長い目で見とおす力がある、気がする。テレビを見てたとき「あれはあれでこうなる」なんてトンチキなこと言ってたときがあったのだが、見事予想的中なんてことが昔からあった。あいつの弟の小夜ちゃんとすごいすごいいってたっけ。
ともかく幼馴染みの毒舌だけれども親切な忠告は聞いておこう。


なんて思って早一月…。やはり幼馴染みのいっていたことは正しかった。私とあの転校生二人は関わりあうべきではなかった。

あの二人休み時間はボディーガードのようにがっちり両サイドを固めてくるのだ。それはもうパーソナルスペースどこ?と聞きたくなるくらい。
そして積極的にめんどくさいことに巻き込んでくる。やめてくれと常に叫んで最初の頃は声がガサガサになるくらいだった。(もう慣れてそんなことはなくなってしまったが…)

めんどくさいこととはあれだ。うちの学校のヤバイ奴らを蜂の巣のごとくつつきにいくのだ。
保健室にいるセクハラ保健医やら、不法侵入してくる美人で気だるげな毒物所持のお姉さん、人殺しの噂がある風紀部委員長やら、最近急激にめんどくさレベルを上げまくる三人組。沢田くん山本くん獄寺さん。

あと、うちの学校とは別だが、あの二人の兄弟皆に対面させられた。それはもう何兄弟いるんだよ?!?!というくらいの数だった。女の子もいる!と感激したがそれは皆男の子だった。辛い。
なかでも群を抜いてめんどくさかったのが長男の一期という男。この男成人しているにも関わらず、最初の挨拶もそこそこに毒づいてくるのだ。爽やかな笑顔と共に。
なんかわからないけどこいつ知ってる……なんて呟いたのもつかの間、脳裏にでてきたのはうちのリビングを占拠している幼馴染みの顔。
その時の絶望感といったら酷かった。
こいつと会ってしまったが最後、死ぬまでいびられる!私の直感がそう告げていた。

「こいつ知ってるってどういうこと?!記憶戻ったの主!」
なんてぞろぞろ鯰尾くんと骨喰くんの弟達が群がってきて、窒息しかけているところを一期という男は酷く驚いた顔でその場から引きずり出し「本当に、私を覚えているのですか?!」と怖い顔で聞いてきたときは正直死ぬかと思った。イケメンのあんな真剣な顔真正面で見るの本当に怖い。
「い、いや、あの、えと…お、おさななななじみににてるなと思いまして……あの、全然一期さんとは初めてですし」
「本当ですか……?」

より強い眼光でにらまれるもので、首がちぎれるくらい縦にふると、悲しそうにため息を吐いて「そうですか」とその場から立ち去ってしまった。え?さよならは?帰るの?情報処理が追い付かないまま藤四郎一家(皆何故か名前が藤四郎だったから)は一期を筆頭にわちゃわちゃ帰っていった。
残ったのは鯰尾くんと骨喰くんと兄弟の一人のイケメン立ちしている眼鏡かけたイケイケ小学生。
その小学生は「いち兄がすまねぇな大将」などと面白いあだ名をつけてきて肩にぽんと手を置いてくる。何だこいつ本当に小学生か?なんて疑問を抱く暇もなく、顔をずいと近づけてきて「また会いに来る」なんてキ○タクもびっくりの、女を落とすテクニックを使い颯爽と帰っていった。

「あー、名前顔真っ赤!」
「熱でもあるのか?」
「熱なんかあるわけないって、薬研に顔近づけられて照れてるんだよ」
「惚れたのか?」
「違う違う、名前ってば男と触れ合う機会なんかなかったから耐性がないんだよ」
「?俺たちも男だが」
「あれ、確かに」
「だあああああああうるさい!!そんなことをこと細かく解説なんかしないでよ!余計恥ずかしいわ!!」

そのあとねーなんでなんでと人の話を全く聞かずに間違ってキスしちまうわ!!というくらいぎゅーぎゅーに詰め寄られながら家路についた。
何だこいつら。骨喰くんにかんしては鯰尾くんの影響もろに受けすぎだろう。絶対他の人と関わってたらまともな人間になれるくらい純粋な感じが最近伝わってくるぞ?!

二人に生気を搾り取られて玄関で動けなくなっていると、リビングから小夜ちゃんがやってきた。今日は小夜ちゃんもうちにいるのか。
控えめによってきて「…大丈夫?」と声をかけてくれる彼によってメンタルもそこそこに回復し這いつくばりながらリビングへ向かった。
いつもどおり「なんですかだらしない。とうとう歩き方まで忘れたんですか貴女は」などと開幕罵倒される。
うるせーと心の中で悪態を付きながらソファに沈むと程なくして小夜ちゃんは麦茶を持ってきてくれる。天使がここにいる、この毒しか吐けない兄と血が繋がってるなんて信じられないとおもいつつ「ありがとう」と返事をすると「うん」と照れる姿は格別である。

「で、貴女が人としての記憶をなくした理由はなんです」

聞き方よ。

「記憶はちゃんとありますぅ!いや、前に話した転校生二人の兄弟と会わされて…わちゃわちゃされて疲れたんだよ、こんなになるまで」

一瞬ピクッと目の端が動いた気がするが気のせいだろうか。はーと深いため息をつく宗三に小夜ちゃんはチラチラと顔色をうかがっている。

「……家まできたってことですか」
「そう、まぁ一緒にきたのは転校生の二人とだけど、もうさぁ!ぎゃーぎゃーというかぎゅーぎゅーくっついてきて横でずっと喋られるから疲れないわけがなくてさぁ」
「ほんとに貴女はアホですね」
「なんで?!私一ミリも今回は悪くないけど?!」
「その二人と関わるなと忠告したのに関わった時点でアホなんですよ」

なにその無理ゲー。関わらないようにして関わらないレベルじゃないんだよ、わかってくれよ。

「とにかくさっさと制服着替えてきなさい。人間ならそんなとこでダラダラしてないでちゃんとしなさい」
「……へーい」
「なんですか、不満ですか?」
「はい、着替えてきます」

後ろに鬼がみえたので颯爽とリビングを後にし、部屋へと駆け込んだ。




残った宗三はいつかはくるとわかっていた事態に頭を抱えてまた深いため息を吐いた。
その姿を見た小夜は彼の近くに寄り添い「主とはもうこういう風に暮らせない?」と不安げにたずねた。

そんな小夜を不安にさせまいと頭を撫で大丈夫ですよと声をかける。
実際は大丈夫ではないのだが。

話を聞く限り以前虎徹の三人とあったと聞く。それにリボーンというボンゴレ所属のアルコバレーノにも見つかった。朧にもボンゴレにも審神者の存在が知れわたったかもしれない。いや、ボンゴレは審神者という存在ははっきり知っているわけではないはず。しかし確実に目をつけられているだろう。

朧はすぐに動いた。元脇差しで主とも仲のよかった二人をすぐに通っている学校へ遣わせた。
それに直ぐ様粟田口に顔を認識させいつでも元短刀達を側で守らせるよう手をうった。
そして今日家もわれた。いや、家に関してはもっと早くわれていたとは思うが、二人がここまできたということは最終確認の意味もあるだろう。
これからは確実に他の者たちも積極的に会いに来るはず。

なんだかんだ言いつつも、あの子を、私たち三人の中で囲って守ってあげたかった…がそれも今日で完全に終わってしまう。

「兄様にも報告しておきましょうか。大丈夫だとはいったのですが、やはり朧は審神者として名前を目覚めさせようと動くでしょうね」
「もう、今までみたいに沢山会えなくなるのかな」
「どうでしょう。こればっかりはどう転ぶか…。それに記憶なんて全然戻る気配もないですしね」
「……」
「私達だけは変わらずに接しましょう。これから騒がしくなると思いますが、いつも通りに」
「はい」

小夜は本当にいい子だ。もうすぐあの子が降りてくる。そして宿題が〜テストが〜と言い出すだろう。これから周りはどんどんあの子を待つことも理解させることもなく慌ただしくさせるというのに……。
残りの平穏を今はただ静かに見守ろう。

そういえば私たちと同じようにあの子を朧に伝えなかった者たちはどう動くのでしょう。
鴬丸あたりは特にどうとも思っていなさそうですが、源氏の二振りはすんなりいくだろうか。

まぁ、何が起きたところで最悪あの子が傷つかなければなんでもいい。


20210922




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