かせんみかん

はぁ、ぬくい。
私は人よりも寒さには自信がある。生まれは北の豪雪地帯。物心ついたときから雪と戯れていたが、年を取ると雪というものは非常に煩わしく思う。
寒いのはもちろん、歩きにくいし、雪掻きめんどくさいし、直ぐに凍ってもはや氷上になるし。
だが、冬と夏ならどちらが好きと聞かれれば、冬と即答するほど暑がりだ。夏はすごおおおおおおおく嫌いだ。暑いし、日差しが痛いし、いくら脱いでも暑いし、暑いし暑いし……。寒さに強いせいだろうけど、逆に暑さにはめっぽう弱いのだ。
だから最終的には秋が一番好きと落ち着いてしまう。

けれども、私の大好きな秋はとっくに過ぎ去り、今は一月の終わり。
雪は私の故郷よりは少ないが、それなりの量が積もっている。
開いた障子の奥から見えるのは、そんな雪の中遊ぶ短剣と脇差たち。昼を食べてすぐ遊び始めてはや一時間。チームで雪だるまをつくって競っていたようで、負けたーとか、やったーと声が聞こえる。何が基準の勝敗なのだろうか……。

「若いっていいねぇ」
「君が一番若い筈なんだけどね」

コタツの右側に座る歌仙はテーブルの真ん中にあるミカンを食べていた。白い筋とかひとつひとつ取る辺りこいつとは気が合わないなと思うが、彼は私の初期刀で一番付き合いが長い。故に一番意思疏通ができるのは歌仙である。

「だが主は中身はがもうくたびれているから、若いとは言えないだろうな」
「湯呑みの中に雪突っ込むぞ」

左側に座る鶯丸はこういうやつだ。この言葉も別に悪気があっていっているわけではない。本心なのだ。彼はマイペース過ぎて思考も歪みがない。ただナチュラルに毒づいてくるから、何度心がえぐられただろうか。
はぁ、とため息をこぼし向かいを見ると癒しの鳴狐がすやすやと寝ている。ちなみにお供はコタツの中だ。

平和だなぁ。ちなみに隣の部屋では獅子王と石切丸が再放送の相棒を見始めている。わかるわかる。亀山最高だよな。ときどき石切丸が死体を見つけては「穢れをはらわなきゃ!!」とかいって獅子王が毎回「これフィクションだぜ」とか言ってるのが最初はツボだった。しかし今となってはイラッとする。本当に毎回死体が出るたびやるんだもん。じじいと孫いい加減にしろ。

歌仙のミカン見たら私も食べたくなってきてしまった。ひとつ手に取りバリバリと剥く。ちなみに私はヘタから剥く派だ。テレビか何かでこちらから向いたほうが、白いのがたくさん取れるとかなんとかと、言っていた気がする。
剥いたミカンを二つ割り口へ突っ込む。
はぁ、この口の中いっぱいに広がるミカン……。最高だ。ここでアイスとかもあればなおよしなんだが、歌仙が怒るから食べられない。

以前、隠れて饅頭を食べて夕飯を食べたときがあった。うちの食事担当は大体歌仙か、私がメインで作る。後はお手伝いをしたりなんだり。まぁ一人だけ例外もいるのだが、それはまた後日話そう。その時は歌仙の担当で食べきれず残してしまった。その時の歌仙ったら今にも泣きそうで、罪悪感から正直に謝ったら日付が変わるまで説教された。
それからと言うもの、間食ですら管理されるようになってしまった。
はあ、いい大人がおやつを管理されるって、我ながら酷い。

「君はいつもそうやってたべる!貸して」

私のミカンの食べ方が気に入らなかったのか、残りの半分をぶんどり白い筋を取り始めた。ああ、私あれも含めてミカン好きなのに。ほんとにお母さんみたいだ。
私にたいしてかなり世話をやく歌仙。皆にお母さんと認識されつつある。

仕方なく白い筋を待とうとした瞬間、顔に痛みと衝撃が走り、体が左へ倒れた。

「ふんご!!」
「主どうした、今度は埴輪の真似事か?」
「ちげーよ!!て、冷た!痛いしなにこれ!!」

何かと確認するとそれは雪の塊だった。
急いで外の様子を見に廊下まで向かうと、鯰尾を筆頭とした何人かが爆笑していた。
「コロス」
「あ、主wwwそんな濃いチーク右だけに塗っwwwwwぶはっ!!あーはっははははwwwwwwは、腹痛いwwwwwwww」
「主、主!左にもしてあげるから反対向いてwwはいはい!」
「こんの、クソガキども……北国生まれの私を、なめんじゃねーぞおらああああ!!!」

助走をつけ、その走力を殺さぬよう足のバネを使い、鯰尾と乱の間を目掛けダイブする。


ハズだった。



ガンっ!!と足元から大きな音がし、前のめりに倒れる。膝や脛を廊下にぶつけ、体はそのまま外へ投げ出される。顔と上半身には、容赦ない冷たさと靴で踏み固められた固い雪の感触がくる。

前方から更に笑い声が飛び交う。心なしかさっきよりも人数が増えている気がする。あれ、爪先と足と顔が痛いはずなのに、胸が痛いや。顔面もなんかびしょびしょだ、雪が溶けたのかな。

「まったく、何をやっているんだい。」

のそっと首を回すと藤色がチラチラと見える。歌仙だ。
そうすると脇の間に手をいれられ、目の前にたたされる。無言で雪を払われ始めた瞬間、何をされているかわかった。

「だだ!!自分でそれくらいできハァクショ!!!」
「じゃあ早く着替えておいで、ミカンもう剥き終わったんだから。」
「ゥィス」

ぉかんまじっょぃ。
鯰尾と乱に、次はボコッからなという視線を向け自分の部屋へ向かった。

さ、早くミカンたーべよ。





歌仙:ガミガミおかん
鶯丸:お茶中毒じいちゃん
鯰尾:精神年齢7歳
乱:ここの本丸の菜々緒





[ 78/80 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -