次郎太刀とたまごあんかけうどん

朝の日差しが微かに差し込み、雀も遠くで鳴いている。そろそろ起きる時間ではあるが、まだ目覚まし時計はけたたましくなっていない。
もう少しだけこの柔らかい温かさに包まれていよう。日差しが少し眩しくて、背を向けるように寝返りを打った時だった。

「う゛ぅ……あ、ぁ…じ、けぇ……あ、うぅ」

地の底から響くような低い声が聞こえてきた。
あまりに非日常的な出来事に先程までのまったりした気持ちも急激に引き締まり、勢いよく布団をめくり、部屋の隅へ退避した。
なにがくる?こんな朝早くから鍛練をして怪我でもしたのだろうか。それとも、時間遡行軍が侵入してきた?
ばくばくなる心臓をなんとか沈めるために深呼吸をし、障子に写る影を見つめた。犬のような、でも犬にしては大きくてシルエットもおかしい。
例えていうなら足の短い四つ足ロボットみたいな感じだ。
ずるずるずるずると床を這いながら障子の真ん中でピタリと止まり手を掛けた。
しかし、その隙間から見えたのは何やら見覚えのある人物だった。

「えと……次郎太刀…ですか?」
「る、あ゛るじぃ〜〜だずげでぇ゛〜〜」

げっそりやつれ、青い顔をした次郎太刀が泣きついてきた。


………………


「えーと、要約すると二日酔いで眠れなくて、迎え酒をして余計にしんどくなったってことですね?」
「うんうん。もぅ頭ガンガン、胸がぐるぐる、スッゴいぎもぢわるい゛」
「いつもあれだけ飲んでるのに、昨日なんて羽目をはずして倍以上飲んでいたんだから当たり前ですよ」
「だって、主の作ったつまみが美味しくてお酒凄く進むんだもん」

嬉しいけど、それを理由にするのはずるい。うっと言葉につまって「そ、そこは自制心をちゃんと…」と歯切れの悪い注意にもなってない言葉をはいてしまい、自分の性格の甘さに思わずため息をはいてしまう。
こんなとこで喋ったからといって二日酔いはなおるわけでもない。何か体のあったまるものを用意しよう。

「簡単に何か作ってくるので、次郎太刀はその間ここでお水を飲んでいてください。水分をたくさんとって体を暖かくして休む!これが一番です」
「本当にありがとう〜。うう、主大好き」
「はいはい、くれぐれも水以外飲まないでくださいね!」

後ろから小さくうんと聞こえたのを確認して、割烹着に袖を通した。

…………

お鍋に水とめんつゆをいれて、その間にうどんと、ネギと卵と、ああ、一番大事な片栗粉も。

バタバタ世話しなくしているとすぐに煮たったようで、うどんと刻んだネギを投入し、といた卵もボコボコ煮たつ中に回しいれれば綺麗な黄色い花がふわふわ開いた。
私はこの瞬間をみるのがとても好きである。これを見たいがためによく汁物に卵をいれてしまうほどだ(おいしいからいいんだけど)

あとは片栗粉でとろみをつけて、ちょっとだけ生姜もいれてしまおう。
次郎太刀の体調不良のために作ったものではあるが、自分でたべてしまいたいほど美味しそう。
艶々した汁に麺に卵に、この食欲を誘う生姜の香り。

自分の料理の腕に感動しながら次郎太刀のもとへ運ぶと「すっごいいい匂い!!」と少し回復したみたいで、体をがばりと起こしながら此方を見ていた。

「これなら一発で直ってしまいますよ。とても美味しいと思いますから」
「主の料理で美味しくないのなんて今までなかったよ!それより、早速いただきます」
「ええ、召し上がれ」

ふーふーと一生懸命熱を冷ましながら一度にたくさんの麺をすすっていた。しかしとろみがついていて尚且つ生姜もいれているようで、あちっと口をパクパクさせている。
そんなに慌ててたべなくてもうどんは逃げないのに。「大丈夫ですか?」とお水を渡すと勢いよくそれをあおった。

「も〜〜〜!主天才、最高!美味しすぎるよ!」
「ふふ、全然元気ですね。効き目が思ってるより速くて私もビックリです」

本当に二日酔いだったのか?というくらい元気になってるので、あれ?ともおもったがこんなに美味しいと感動してくれてるのだから嬉しいが勝ってしまう。

「まぁそりぁ今も気持ち悪いけど、でも元気がでてくる味だもん。今日の夕方にはもう完全復活してるね、絶対!」
「本当ですか?無理だけはしないでくださいね」
「もっちろん!ふー、ふー……んーおいし!」

体が大きいぶん、お口も大きいのであっという間にうどんはなくなってしまった。

「ごちそうさまでした」

匂いにつられて普段早起きしない刀剣男士たちもぞろぞろ集まってきてなんだなんだと騒ぎになったので、今日のみんなの晩御飯はあんかけうどんに決定してしまった。
朝は流石に昨日仕込みをしたものがあるので、できないけど、皆がいいなーいいなーとなるのもそれは当たり前だった。現に私も食べたくなってしまった。夜には挽き肉もいれて少しボリューミーにしよう。


その夜また次郎太刀は浴びるようにお酒を飲んでいたのは言うまでもない。


20210831






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