五虎退とクレープ

今日の晩御飯は春巻き。皆が帰ってきたらすぐに揚げられるように具を巻いて準備しておこうと五虎退に手伝ってもらっている。
中身の具をつくってしまえばあとは包むだけ。五目にマッシュポテト、キャベツとひき肉。そのまま食べても美味しいのに、これを皮で包んで揚げるのだ。美味しくないわけがない。

「巻くのうまくなりましたね」
「えへへ、今日の分だけでも沢山ありますから慣れてきました」
「これならまた作るとき皆に教える先生になれますね。頼もしいです」

へへと照れる五虎退の顔は次第に赤く染まる。元々肌が白いから赤が映えてまるでショートケーキのようだった。彼自身フワフワしていて真っ白でこじんまりしているからだろう。それに五匹の虎たちと合わせればまるで生クリームそのもの。フワフワしていて見ているだけで心が温かくなる。
その虎たちは五匹で丸まって日向の気持ちいい縁側ですよすよと寝ている。雪も完全に溶けて緑が実ってきた最近では太陽もキラキラと輝いている日が多い。今日の午前中も内番をこなしたあと、二人と五匹で本丸内の庭園を散歩した。蝶や雀たちが辺りを飛び回っていて、それを虎たちがじゃれて遊ぶものだから気付けば直ぐに昼になっていた。
あんなに体をバタバタ動かしたのは久々かもしれない。明日は普段使っていないであろう筋肉がじんじんと痛まないことを願おう。

黙々と巻き続けて一時間もたたない内に作業が終了した。それぞれの大皿には具が違う春巻きがどっさり山積みになっている。
これを揚げるのも中々骨がおれそうだ。しかし二人でこれを巻き上げたのも凄い。

「五虎退、本当にありがとうございます。予定よりはやく終わりました」
「そんな、お礼なんて。主さまのお手伝いするの楽しいですから、何かあればまた言ってください」

そういって笑いかけてくれる五虎退を今すぐ抱き締めたいが、春巻きの粉だらけなので断念するしかない。何度も何度も思うことだがどうしてこんなにも彼らは優しいのだろうか。涙が枯れてしまうほどに感謝する毎日である。
そらよりもこれだけ手伝ってくれたのだ。なにかご褒美をあげたいところだが……。
あちこち見渡していると目に入ったのは余った春巻の皮。

「五虎退」
「は、はい!」
「お手伝い頑張ってくれたので、ご褒美に美味しいお菓子作りますね」
「え、ほ、ほんとうですか!」
「ええ、甘くて美味しいです。疲れた後の体には最高です」
「わぁ、やったあ!主さまありがとうございます!」

こんなに可愛いんだもの、気合いをいれて美味しく作って見せましょう。


…………


後片付けを終えた後五虎退には茶の間で休んでてもらい、私は余った春巻の皮でクレープを作る。
勿論自分もちゃっかり食べるので余った皮は全部使ってしまおう(五、六枚)

冷凍庫に以前小夜と作ったパンケーキのクリームが残っていた。それをちょっとだけ溶かすのに取り出しておく。
水で濡らした春巻の皮をレンチンして、その間にバナナや苺を切っておく。
チョコレートはパンに塗るのがまだ残っていたからそれを使って。
材料さえあれば数分でできてしまうのもこのクレープの魅力だ。

苺チョコとバナナチョコ、どちらもクリームをいれて完成だ。


…………

「お待たせしました、はいクレープですよ」
「クレープってあのテレビとか本とかでよくのっているやつですよね!簡単に作れちゃうんですね、すごいです!」
「春巻の皮を代用できるので作ってみました。さぁバナナと苺の二種類あるんでどうぞ食べてください」

はいと、緊張した面持ちでガラス細工に触れるようにクレープを持ち上げた。そんなに気負わず食べてほしいのだが、そういえば現世のこういう俗っぽい食べ物を食べるのは余りなかったな。と改めて思う。
もっとこういうものも食べさせてあげたい。みんなにも色々聞いてみようと考えていたら「おいしいですぅ〜…」というか細い震えた声が聞こえてきた。
溢れたクリームがほっぺについていてほっぺも赤く染まって、目もとろとろと溶けてしまいそうに緩んでいた。
そこまで感動してくれるなんて。春巻の皮という手抜きといわれれば手抜きの材料を使っているのに、なんだか申し訳なさと嬉しさと色んな感情が混じってなんとも言えない気持ちになってしまう。

「美味しく食べてくれて嬉しいです」
「主さまの手はなんでも美味しく作れる魔法の手ですよね」
「そ、そんな!そこまで凄くないです!!私よりもっと上手な人なんてざらにいるんですよ?」

流石にそれは嬉しいけど、身近なものに盲目になりすぎるのもいけないと必死に訂正しようとした。しかし

「違うんです。主さまはいつも楽しそうにお料理をしていて、それに僕たちのことをおもってご飯作ってくれますから、それがとっても嬉しくて余計に美味しいんです!」
「五虎退……」
「山姥切さんも以前いってました」

山姥切という名前を聞いておもわず肩が揺れる。

「主の作るご飯を食べると力をもらえる、元気がでるって。僕もおんなじです。いつも美味しいご飯、有難うございます」
「…っ」

駄目だ。今にも目から涙が溢れそうだ。まさか山姥切までそんなことを思ってくれていたなんて、嬉しくて嬉しくて、胸がキュッとしまって、それでも心地いい。
普段余り自分の思いを口にしない初期刀の山姥切とはあまり踏み込んだ話をしたことがない。一番の古株という事もあり、あまりお休みを与えてあげられないのが現状だった。今度はゆっくりさしで話をしよう、絶対に。

「こちらこそ、ありがとうございます。これからも頑張ってみんなに美味しいご飯作りますね!」
「はい!」



「「ごちそうさまでした」」


20201113




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