和泉守と堀川とお茶漬け


晩御飯もそこそこに今日の演習の報告書をまとめていると気付けば11時を越えていた。流石に見間違いでは?!と眉間を揉んだり目をこすって何度も時間を確認したが、やはりそこには先程見た時間が刻まれており、外に目を向けると月が高い位置にあった。
確かに今回はいつもより多くの演習をこなしたので書く量は多いものの、そこまで難しい内容でもない。なのにこんなに時間がかかってしまうなんて思ってもみなかった。

現状を理解してからかお腹がぐぅ〜と間抜けな音をたてた。
どうにもこうにも小腹がすいてしまった。お腹も使い果てた脳に栄養を与えなければとぐうぐうと音をたてている。このままお休みなさいとはいかないだろう。きっと空腹で熟睡することはできずに朝早く起きてしまう。
こんな時は背徳的だけれど、それでいて病み付きになってしまう夜食の時間だ。


…………

抜き足差し足忍び足なんてやったって大抵の刀剣男士には気配はバレバレだろう。真夜中にこそこそと誰にも内緒で行動することの楽しさったらない。
ニヤニヤしつつも何事もなく台所にたどり着き冷蔵庫の中を見渡す。なにを食べようか、と言ったって簡単にパパっと食べれるのものがいいのだが。
お茶漬けなんてどうだろうか。さらさら食べられるし、お湯と調味料があればすぐに作ることもできる。

そうと決まれば冷凍ご飯をレンジで解凍して、その間にもろもろ準備してしまおう。
薄暗い台所でパタパタ動き回っているとガタッと音がし、首をぎゅっとしめられた。
何が起きたのか分からず、確認しようとすると背後にいる人物から「主?!」と驚きの声が聞こえる。ゆっくりとしめられていた首と体が離され振り返ると和泉守がいた。内番姿で首にタオルをかけており。もしかしてこんな時間まで修行していたのだろうか。

「あーもー、兼さんここにいた!って主さんも?」
「国広」
「二人ともこんな時間まで修行ですか?」
「あ、ああ」
「はい。でももう切り上げてお風呂に入るとこでした」

兼さんタオルとりにいったきり帰ってこないから驚いたよ!と少し怒り気味の堀川に和泉守はたじたじだ。
チラチラこちらをうかがっていて、きっと先程の私を拘束したことを言わないようにアイコンタクトを求めてるのではないだろうか。それを今このタイミングで言ってしまえば余計に怒られることは明白だからだ。
悪ガキ和泉守なんて他の本丸で噂になったりもするがどうやらうちの和泉守もその一面を持っているらしい。

言わないですよの意味を込めて微笑んだ瞬間“チン!”と電子レンジの明かりが消えた。
その音で堀川の一方的なお話もやみ、なんだなんだと伺いをたててくる。

「実は先程仕事が終わり小腹がすきまして…皆に内緒で夜食でもと」

薄暗いからレンジの戸を開け明かり替わりにし、二人の表情を確認する。
別段驚いた様子もなく「お疲れ様」と労いの言葉を掛けてくれたが、その二言目には「俺も夜食食いてぇ」だった。

勿論言ったのは和泉守で、堀川はそれをたしなめようとするもチラチラと解凍されたほかほかご飯に目が向いていた。
きっと二人ともお腹がすいているんだろう。どれ程の間修行に勤しんでいたかは知らないが、運動したらお腹が減るものそれ即ち自然の摂理。

「ふふ、和泉守も、堀川も一緒に食べましょう?三人の真夜中の夜食会です」
「やりぃ!」
「主さんがいうなら…食べちゃおうかな」

二人の反応の正反対差に笑いながら二人の分も追加して準備を進めた。といってもご飯さえ準備できればあとはそこに色々かけるだけ。

堀川に鮭フレークをかけてもらい私が調味料と海苔をまぶし、そこに和泉守が沸かしてあるお湯を注ぐ。無駄のない完璧なライン作業だ。
お湯をかけると上る白い湯気はほのかに鮭と出汁の匂いがきいていて、口の中によだれが溢れる。

三人で隠れるように台所の隅へ移動し、出来立てほかほかのお茶漬けに口をつけた。

「ふー、温かい」
「うんめぇ〜!」
「しっ、兼さん声下げて。でも本当においしいです」
「真夜中に食べちゃいけないのに食べちゃう背徳感もおいしさの秘密なんですよ」
「なるほど、じゃあ三人だけの秘密ってなるとよりおいしさが増しますね」

そういっている間に和泉守はもう食べてしまったらしい。サラサラ食べれてしまうからといってもあれだけの温かさのものをこんな早く食べられるなんて、何か秘訣でもあるのだろうか。

「じゃあまたやろうぜ、夜食会。三人でな」

そういう和泉守の表情は子供っぽい笑顔で、口のはしに海苔がついていた。いい台詞だったのに締まらないのが可笑しくて、ついつい汁が気管にはいってむせてしまった。
げほげほする私を心配して二人は近づいてきて背中をさすったり言葉を掛けてくれたり。
それも含めて楽しい夜食会だった。


「「「ごちそうさまでした」」」


夜食会またやろうね

20201026


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