加州とトマトリゾット

夏も終わり秋の風吹くところ、屋根に激しく雨が打ち付けていた。そのせいか少し肌寒く、厚手のカーディガンを羽織にして仕事をしてした。上半身は温かいが今度は足元が冷えてきて足を縮こめ擦り合わせた。
バラバラと屋根に跳ねる雨の音をbgmにしながらひたすらキーボードを叩いた。

今日の本丸のお留守番は加州。その加州はお風呂場や玄関トイレなどを掃除していた。いつもだったら私も一緒にやることなのだが、以前まで行われていた大阪城任務での報告書の量がすさまじく、締め切りも目前まで迫っていた。言い訳になってしまうのだが、加州にその事を伝えると「俺一人でも大丈夫だよ!今日は雨で外仕事もできないし、掃除は任せて」と言われ、罪悪感に押し潰されながら今もこうしてパソコンと向き合っている。
すぐさまこの仕事を終わらせたい。けれども加州ばかりに掃除を任せてはいけないと、焦れば焦るほど指は違うキーを触ってしまい、バックスペースを何度も何度も触ってしまう始末。これではゆっくりやっても急いでやっても対して差異はないだろう。

深く息を吐きまた画面と向き合った瞬間お腹からグ〜と間抜けな音が聞こえた。
外でバラバラなる雨の音にも負けないくらいの大きな音だ。恥ずかしさから一人で顔を赤くしてパソコンの時計へ目を向けると、もうお昼が近い時間だった。
このままでは仕事も思いどおりに進まない。気持ちを切り替えるのとお腹を満たすために、現状のデータを上書き保存し、パソコンをスリープモードにして台所へ向かった。


…………


さて、今日は何にしようか。十二時までもう時間も少ない。肌寒いから温かいものがいい。冷蔵庫や床下の野菜を一通り見渡したあとちらりと赤い物に目がいった。
加州かな?とおもったらそこには大量のトマトが積まれており、そういえばこの間のすごく暑かった日、トマトが大量になって皆で収穫したっけ…とつい数日前のことを思い出す。いくら寒くなってきて保存期間が長くなったとはいえ、出来ることなら新鮮なうちに食べた方がおいしいだろう。

トマトを使って温かいもの。頭のなかでレシピを整理しているとこれだ!という料理が思い浮かんだ。ゲームの世界ならピンと頭の上にビックリマークがたっただろう。
あれを作ろうと閃けば直ぐ様手は三つほどトマトをとり、手際よく準備を始めた。といっても準備も調理も簡単ですぐ出来てしまう。
下準備を終えてそれを電子レンジ入れて温める。まっている間に加州を呼んでこよう。

台所を後にし掃除をしているであろう玄関やトイレを見回ったが既にいなかった。しかしそこにいたであろう痕跡として、どの場所もほこりがなく隅々まで綺麗になっているのがわかった。一人でこんなに頑張ってくれるなんて、本当に頭が上がらないしご褒美をあげたいぐらいだ。今はお風呂場だろうか。スキップしたくなるような気持ちで廊下を歩いた。

目的地につき、脱衣所まではいると風呂場から鼻唄が聞こえてくる。どうやら予想は当たっていたようだ。気分よく歌っているのを止めてしまうのもなんだか忍びなく、気持ち弱めにドアを開け加州に声をかけた。

「うわ!ビックリした…、主か。お仕事終わった?」
「いえ、あと少し残ってます…。もうお昼なので一旦切り上げてご飯にしませんか?」

ブラシをその場に置き手を軽く洗ったあと、加州は脱衣所の方までやってきて時計を確認した。「ほんとだもうこんな時間だったんだ」と少し驚いていた。そんな彼の手を見ると水で冷えたのか手が真っ赤になっていて、みているだけで寒そうだ。
思わずその手をとり自分の手で挟むと想像よりずっと冷たくて、またもや罪悪感が沸いてきた。
そんな私とは裏腹に加州は先程よりも驚いた様子で「あ、主…?」と顔を覗き込んできた。

「本当にすみません、私も一緒に掃除できていればこんなに手も冷たくならずにすんだのに」
「いや!そんなこと全然!でも、こうやって主から触ってもらえるなら頑張ったかいがあったかな、へへ」

そういってニコニコする加州に不覚にもときめいてしまったが、それはこんなに頑張ってくれた加州にたいしてなんだか申し訳ない。こんな時乱や次郎太刀なら「真面目すぎ!」だなんて怒り始めるだろう。
とにかくこんなに冷えきっているのであれば直ぐにでも温かいご飯を食べてほしい。そうと決まれば善は急げだ。

「さあ、ご飯すぐできますから、一緒に食べましょう!」
「うん!」

手を離し脱衣所を出ようとするも再び手が握られる。
振り返ると加州はなにやら目を泳がせながら「あーうー」となにかを言いたそうにモジモジしていた。

「どうかしましたか?」
「あのさ、」
「はい」

暫く目を泳がせていたが意を決したのか両手で握っていた私の手を包みこみ

「主の手温かいからさ、台所まで繋いでたら駄目、かな……?」

と困ったようにたずねてくるのだ。
先程申し訳なさからときめく気持ちを無理矢理押し込めたがこれには勝てなかった。
どうしてこうも可愛いのだろうか!常日頃かわいいを意識して努力している加州だが、どこでこんな事をおぼえてくるのだろうか。たとえ月9を毎週見ていたとしても、こんなことを実践できるようになるのは一種の天才だけだろう。

「いえ、駄目なんて事ないです!手を繋ぐくらい何時でもしますよ。一緒に行きましょうか」
「うん!」

花が咲くような笑顔でぎゅっと手を握られ、二人で仲良く台所へと向かった。


…………


既に電子レンジにいれておいた下準備したトマトはあたたまって皮が所々めくれあがっており、もう半分以上出来上がっているも当然だった。

「お昼なに?」

背後からひょこりと加州が顔を覗かせる。

「トマトリゾットにします。好きなだけここの器にご飯とチーズをいれてください」
「うん」

二人でいそいそと食べる分を盛り、それをまたレンジでチンする。

「すみません、飲み物は粉末スープとかでもいいですか…?」
「うん。俺卵スープがいい」
「わかりました!」

手抜き料理なんていっても料理は料理。おいしく食べられればそれでOKなのだ。
スープも用意でき、その間にチンも終わったみたいだ。

机には湯気がもくもくとたつ料理がならび、見るからに温かそうだ。

「はー、湯気に当たるだけでも体あったまるね」
「そうですね。食べたら汗も出てきちゃうかもしれませんね。ふふ、温かいうちに食べちゃいましょうか」
「そーだね。これ食べて午後も頑張ろ、いただきまーす」
「いただきます」

ふーふーとお互い必死に息を吹き掛けて熱を冷まそうとするがそれでも口の中が火傷するくらい熱い。はふはふと熱を冷ましながら食べ、飲み込むと食道から胃へ食べたものが伝っていくのがわかる。

「主これ凄いおいしい!」
「ほんとうですか?お口にあってよかったです」

加州のほっぺが温かいものを食べているせいかほっぺたが赤くトマトみたいになっている。きっと私も同じようになっているだろう。それがなんだか嬉しくてついついニヤけてしまう。


「「ごちそうさまでした」」


20201020


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