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ゲートを潜るとそこは村だった。だがメルヘヴンで見るような感じの村ではない。異国という言葉がぴったり当てはまる。 回りを歩く人々の服も何という服なのだろうか。一枚の布を長くて太めの紐で巻いているような。防御性は良くなさそうだが、何とも動きやすそうではある。改めて村全体を見る。建物は木製できちんと板を揃えて緊密に作られているようだった。屋根はこちらと同じで藁のものもあれば、そのまま木で作られているものもある。
ギンタくんはここの世界からきたのだろうか?服装が少し違う気もするが、顔の作りは似ていそうだし。恐らく、同じ世界の別の場所へ来てしまったのだろう。なら話は早い。移動できるARMで飛びながら探せばいい。
話によればギンタくんのいた世界ではARMはないみたいだから、ひと目につかないとこで発動しなければ怪しまれるだろう。村から少し離れた林へ行き、発動しようとしたときだった。
 
村の方が何やら騒がしい。なんだ?と思いもと来た道を戻ると、赤々と燃えていた。ごうごうと音をたて、村を飲み込み燃えているのだ。さっきまでは平和な村のままだったのに!事故?それとも誰かがこんなことを!?取り合えず火を止めなければ死人が出てしまう。そう思うよりも前に体が動いていた。
道具や、滅多に使わないARMをしまっておくことが出来るARM“ジッパー” 中から素早く目的のARMを取り出す。チェーンのような長いアクセサリー。蛇のような竜のような生き物が装飾として施され、目の部分には青い宝石がはまっている。
それを空中へほおりなげ、高らかに名前をよぶ。
「ガーディアンARM、リヴァイアサン!」
それは光始め、一匹の体の長い青い竜が咆哮をあげる。私の意思を読み取ったかのように、口から大量の水を吐き出す。それにより炎はみるみる消えていく。直ぐにでも駆けて、逃げ遅れた人を助けにいきたいが、ガーディアンARMの条件のせいで、その場を動けないのが心苦しい。ほぼ消えたところでリヴァイアサンをチェーンにもどし、泥々になった村へかける。
が、明らかに人ではないのがヨロヨロと立ち上がり始めているのが目にはいる。一瞬でこいつらが、何か良からぬ者達だとわかった。それは黒い何かが沸々と沸き上がり、異形の顔つきをしている。まるで、鬼のような。物陰の方からは骨のようなものがふよふよと向かってきた。いろんな形の者がいるようだが、皆共通しているのは“刀”を所持しているということ。こいつらは盗賊か何かだろうか……。だが人ではない。やつらは私に気づいたようで、武器を構え今にも襲ってきそうだった。
指にはめているリングを発動し、一本の長棒を構える。いつも愛用している“シルバースタッフ”
マジックストーンを両端に二ついれているから、あと二つの形状にもなる。
 
一斉に襲ってくる黒い者たち。数は六体。流石にスタッフだけでは、太刀打ちできないが私にはそれ以外にもARMがある。攻撃をスタッフで耐えながら、
別のARMを発動する。
「ボールダーファング!」
叫んだ瞬間地面から無数の土の刺が生えてきて、黒い者たちを串刺しにしていく。運良く逃げたのは三体。これで半分は減った。なら楽勝だ。
シルバースタッフの形体をタイプAに変える。それは両端に人の腹部ほどある分銅をつけた形。武器とのシンクロは高いから重さなんて全く感じない。それを慣れた手つきで振り回しながら、奴等の体へ叩きつけていく。のびたのは二体。
「あとは、お前だけだ……!」
一方的な戦いではあるが、こいつらは悪人。罪悪感なんて微塵もわかない。
「これで、終わりだよ!」
素早く相手の後ろへ回り膝裏をつつく。すると不意うちだったためか、前へガクンと倒れる。低くなった肩を借りて上へ跳び、分銅を頭の真上へ振り下ろす。ぐしゃりと潰れる感覚は、肉体がつぶれたと確信できるものだった。だが、それらは黒い粒子となってさらさらと消えていく。本当に何なんだろうか。武器をリングに戻し、辺りを見回す。村人らしき人影は何もなかった。家にもいないかどうか確認しようと動き出した瞬間、おぞましい程の殺気が背後から感じられた。
 
先程発動を解いたスタッフをまた出現させ、振り向いた。迫りくるのは刃。咄嗟に受け流し、後ろへ下がる。今度も黒い者達なんだろうか。顔をあげ確認すると、そこには六人の人間がいた。皆刀を持っている。それに、なんだろう。人間ではあると思うのに、雰囲気はまるで別のような、違和感が拭いきれない。
中央にいる金色の甲冑を身に纏った男が話しかけてくる。
「貴様、何者だ!何故、歴史修正主義者を倒せる!?」
歴史修正主義者?
「私は名前、歴史修正主義者というのはさっきの黒い者達のこと?」
「ああ。あれは一般人が倒せるレベルのものではない。君は……」
どうやら彼らからしてみれば私は得たいの知れない者らしい。私だってこっちには来たばかりだから何と説明していいのやら。それに、ギンタくんのいた世界はここではないという疑念を薄々と感じている。ここがどこなのかそれも知りたいのだが。こう警戒されては話すことも中々難しい。 
「ねぇ、私も今の状況が良くわかってないの。話をしたい。だから、武器とその殺気をおさめてくれるとありがたいのだけれど……」
「……わかった」
金の甲冑を身にまとう男は他の者達に目配せをする。すると、すっと刀を鞘に納める。殺気はまだ漏れているが、先程よりもぐんとそれは減っていた。
恐る恐る近づき、手を差し出す。
「さっきも名乗ったけれど、私は名前。よろしく」
「蜂須賀虎徹だ」
差し出された手は一回り大きい手につつまれ握り返される。そこでもまた違和感。一瞬だったので確証はないけど、魔力というか、なんというか、不思議な力を身に宿しているようだ。だが、問題はそこではない。その力が彼の存在そのもののような感じがしたのだ。簡潔に言うと、彼はその力により形成されている。そんな感じだ。
彼もまた人ではないなにかなのだろうか。これは警戒を続けた方がいいだろう。

 
 
……………
 
話し合いをして見ると、色々わかったが何ともまぁ不思議な世界だった。ギンタくんもいないと言うことも良くわかった。ここは歴史改編を阻止するため、刀に力を与え戦わせるんだとか。いわば彼等はARMというわけだ。私の持ってるものと違うのは、ガーディアンなのに普通の人間と変わらないことと、魔力を注ぎ続けなくてもいいこと。
特殊なARMなのか、もしくはARMではないのか……。断定はできないが、まぁ、もうここの世界には用はない。また大金と時間をはたくのは面倒ではあるが背に腹は代えられない。
「別の世界から来たなんて、こいつは驚きだぜ……」
「別の世界から来たということは、貴方は審神者もしくは、審神者の資格があるのかもしれません」
審神者というのは、彼等に力を与え、先程倒した歴史修正者を殲滅し、歴史を守る仕事を請け負っている。彼等もまた、先程の者達を倒すためにこの時代に来たといってた。
「資格があるにしろないにしろ、私は探している人がいるから帰るよ。ここにはいないようただしね」
「そうか、なら早く帰るといい」
「長谷部」
「いや、長谷部の言うとおりだ」
「蜂須賀まで」
「いくら君が強くて歴史修正者を倒せたとして、それが、その行動が歴史改変に繋がらないとは言い切れない」
確かに。本来いないはずの私が現れたことで、歴史が変わってるかもしれない。
「そういう理論なら彼女を帰してしまうほうが危ないんじゃないか?」
全身白い男が言う。
嫌な予感がしてきた。
「いや、一時的なことではあるし、村人達の行動、一番重要な部分も変化は見られない。大丈夫だろう」
「だから早急に帰ることだ」
「わかった」
蜂須賀と長谷部と呼ばれる男にそう促され、ジッパーにしまっているもうひとつの門番ピエロを取り出す。
「すごーい!」
「たまげた、本当に奇妙な術だな」
「名前さん」
今まで黙っていた赤目の小さなこが、前に出てきた。じっと見つめてくるその瞳は、反射して私の姿を写している。何故だかわからないが反らすことができない。
「ぼくはいまのつるぎといいます。よろしくおねがいします」
「え、ああ、よろしくお願い、します…」
「あなたにすこしはなしたいことがあるので、かえるのはすこしだけまっててください」
「はあ」
「あと、たいちょう。それとみなさん、はなしたいことがあるのですこし、いいですか?」
いきなりの彼の行動に皆困惑気味のようだ。私もなにがしたいのかわからないが、とりあえず頷いた。門番ピエロをジッパーにもどし、その場に座り待機をする。 “いまのつるぎ”は彼らをせんどうして少し遠くへ進む。明らかに一番小さいのに、逆らえないほどの何かがある。なんなんだ。言い知れぬ恐怖が体を伝う。冷や汗で身を震わせていると、話し合いが終わったようでこちらに戻ってきた。先頭はいまのつるぎ。にこにこと機嫌良さそうに此方へ向かってくる。隊長と呼ばれていた蜂須賀虎鉄は変わらない様子だった。身の丈に合わない大きな刀を背負っている子は、白い彼と顔を見合わせ不思議そうな顔を浮かべている。長谷部と呼ばれる男はおかっぱの小さな男の子に宥められながらこちらに来る。一体どうしたのだろうか。
「名前さん。かえるのはもうすこしさきにさしてもらいますね」
「え?」
「ぼくたちをたすけてください」
「たすける……?」
ニコニコと笑っているのに助けてくれとはどう言うことなのだろう。矛盾している小さな彼に、奇妙な何かを感じた。

 

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