06

昨日、一年生や二年生に四人についての情報をきいた。
その情報の中で一番分かりやすいのは七松小平太。だが、分かりやすいのと扱いやすいのは全く別。この学園で暴君と名高い彼は単純だが、その言動には誰も逆らえないらしい。同室でろ組の中在家長次はその暴君を抑えることができる貴重な人物の一人だとか。

同じく扱いにくいと感じたのは、綾部喜八郎だ。マイペースで、何を考えているかわからない。穴堀が好きで、罠をはる天才と呼ばれているらしい。それだけと言えばいいのだろうか。彼の本質の部分はほとんどわからない。生徒たちも彼が普段何を思い、考え行動するか予想がつかないという。ただ委員会の先輩である立花仙蔵と、同室の平滝夜叉丸なら、もっと詳しく話が聞けると教えてくれた。

逆に扱いやすいと感じたのは残りの二人。特に鉢屋三郎だ。あのとき一目見て感じた印象とほとんど合致していた。
彼は変装名人で六年生にも劣らない程優秀らしい。その顔も、不破雷蔵という同室の子の顔を借りている。プライドも高く、ひねくれた性格。
私の考えではあるが、その高い高いプライドをポッキリ折ってしまえばきっともとに戻るのではないかと考えている。

そして最後の一人、善法寺伊作。忍者に向いていない心優しい彼。怪我をして目の前に出ればいいとも考えたが、彼は酷く天女に依存していた。
だから、まずこちらに意識を向けて徐々に慣れさせるべきだ。その天女の格好をして調子のいいことを吹き込めば、すぐにても治るんだろう。
ただ、彼のその依存性がどこまで深いものなのか、それがわからなければその行動は無意味なものになる。

さてさて、無難なところから扱いやすいこの二人を攻めるべきだろう。
幸いにもこの件に関しては許可が出る範囲では自由にしていいと聞いている。
私もできるだけこの地には長居したくない。本日2度目の顔合わせだ。


………


相変わらず地下牢はしんと、静まり返っている。
私が最初に元に戻そうと決めたのはこの男。鉢屋三郎だ。

時は既に真夜中。下級生の忍たまは既に寝ている。牢のなかは真っ暗闇で光すら届かないが、忍者は夜目がきくようにと指導されている。これくらいどうってことはなかった。

彼の元へ気配をむき出しにし、近づく。
目の前へきた。彼の押し殺せていない殺気がそこらじゅうに漂っている。

「こんばんは」
「…」
「君、私を殺したいんでしょう?」
「…」
「さぁ、おいでよ」

牢の鍵はカチャリと音をたて外れる。その瞬間。奥の方から物凄い勢いで、突進してくるのがわかる。
服装も整っていない。髷も少し威力を加えただけでほどけそう。武器もなにも持ち合わせがない。そんな状況でも向かってくるということは、私以外何もかも見えていない証拠。

その場をはなれ、ある場所へ誘導するため、煽りながら、軽快に外へ出る。


……

学園から外へ飛び出て、早くも森のなか。
出門表は事前に書いておいた。こんなところで邪魔されてはたまったものではない。

「君の話を下級生から聞いていたが、どうやら噂が一人歩きしているだけのようだね!」
「なんだと!?」
「六年生にも劣らない優秀さらしいが、ずいぶんと遅い。攻撃のキレもまるでないね。いったいその猫のような手付きで何を殺そうと言うのかな?」
「っち!!殺す……!」

予想以上にうまくいく。口布で覆われてはいるが、それでも笑っているとすぐにわかるほど、口角が上がってしまう。
まるで手の中で暴れる無力な鼠を弄んでるようだ。

さて、誘導はうまくいっているが……。
他にも何かがきている。様子見をしているようにも思えるが、なにもしてこないならそれでいい。
その時にまた考えよう。



………


「っこの!ちょこまかちょこまかと!」

乱暴に攻撃してくるが、それもすぐにひょいとよけられる。鬱蒼とした森を抜けると、そこは拓けた丘の上。奥へ進むと底は崖になっており、落ちてしまえば命はないだろう。

ここなら、誰にも邪魔されずに戦うことができる。

丘の中心に止まり、くるりと振りかえる。そこには肩で息をしている鉢屋三郎がいた。髪紐がほどけ、振り乱されたその髪はまるで山姥を彷彿とさせる。
チラチラと前髪から除くその瞳は憎しみにみちあふれていた。

「ここでなら、思う存分できるでしょ?それに、もし死んだとしても誰も気づくことのないここなら、隠蔽も簡単」
「はなっから、ここへ誘導していたわけだな」
「そうだね、今さらそんなこと気づいたんだ。頭が足らなさすぎるんじゃない?」
「ほざけ!!」

煽る度にそれをかきけそうと猪突猛進に攻撃してくる。もはやこの芸当も見飽きた。

「私、君のこと少し調べたんだよ。五年ろ組。変装名人で武道大会で優勝。六年生にもひけをとらない。同じ組の不破雷蔵と双忍をくんでるんでしょ?」
「それが、なんだというんっだ!」
「君、本当に弱いよ」

さらに、一撃が重くなるも慣れたようにそれをいなす。

そしてすかさず脇腹に一発拳をねじり混む。がはっと言う声と、血の臭いがした。
力が弱まった一瞬を狙い、押し倒し、首に毒針をあてがう。
流石に今の状況を理解したのかピタッと動くのをやめる。

「正直期待はずれだったよ」
「ぐぅ!」
「噂が勝手に一人歩きしてたみたいだし。こんな、いきなり現れて、愛する天女を目の前で殺されたくの一一人に、あっさり負かされる。
私だったら耐えられない屈辱だよ。



ねぇ、今…どんな気持ち?」



口布をとりニヤリといじの悪い顔で笑って見せる。

ギリギリと歯が折れてしまいそうなほど食い縛っている。鬼の形相とはまさにこの事だろう。

「くそおおおおおおおお!!」

彼の心からの叫びは丘の上に染み渡る。
目にはうっすら涙も浮かんでいる。
あと、一押しだろうか。

「きっと、今の君の姿を見たら誰もが失望して、見捨てるだろうね。幻滅する。下級生たちも、六年生たちも、先生方も。一番深い仲であろう、不破雷蔵も君を切り捨てるだろうね」

そういった瞬間、影でずっと動かなかった気配が四つ、飛び出してきた。


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