05

そして次に案内されたのは善法寺伊作。彼もまた隅の方で丸くなっていた。
よく聞き取れないが、なにかブツブツ言っている。それに、彼の部屋は先ほどの綾部くんの部屋とは違い、何もない。だが、彼自身には拘束具が、沢山付いていた。まるで行動することを許さぬように。

「善法寺伊作は、天女が死んでから自殺を図ろうとしてな。それでこの状況だ」
「そうなんですか」
「かなり依存していたようだった。それが今だに抜けていない」

彼と目が合うことは一度もなかった、それに私たちがここにいることにすら気づいていないようだった。
次に案内されたのは鉢屋三郎。彼は私が視界に入るなり、牢の柵に体当りしてくる。

「お前ええ!!殺してやる!殺してやる!!」

そう叫び何度も何度も。見ていて痛々しくなるくらいに。言わずもがな、彼も天女様にご執心だったのと、自分がいながら目の前でくノ一に殺されたというのが悔しくてたまらないのだと、山田先生はおっしゃっていた。元々かなりプライドの高い男だったんだろうなと思う。

「彼、こんなに興奮していて大丈夫なんですか」
「いや、できればおとなしくしていて欲しいんだが」
「分かりました」

針を取り出し、興奮した彼の首元に針を刺す。
彼は動きが次第に鈍くなり、柵にもたれかかるようにズルズルと倒れていった。

「しばらくしたら目が覚めます」
「すまないな・・・次で最後だ」

最後、彼を見た瞬間あの時の襖を壊して動いていた人物だということがわかった。
彼の拘束は善法寺くんよりも酷かった。

「七松小平太は忍術学園一といっていい程の力と体力がある。獣のようだよ。こんな牢なんかすぐに抜けられるだろうな」
「だからこんなにも拘束を」
「ああ、このままの状態で解き放てば君を真っ先に殺しに行くだろう」
「・・・・」

彼は先程からぎらぎらとこちらを見ている。あの時のようにぎらぎらと。

「ねぇ、君は私が憎い?」
「・・・・」

彼は先ほどの鉢屋三郎と何かが違う気がした。そう、明確な殺意が彼には感じられない。
隠しているだけなのかもしれないが、何かが違う。そんな気がしてならないのだ。



・・・・・・



四人を一通り見終わったあと、太陽はてっぺんまで昇り昼になったことが分かる。
山田先生に食堂に案内されそこでおばちゃんにご飯を頼む。食堂なんて初めての経験だ。周りで生徒たちが談笑しながら楽しそうに食べている。
この中にあの四人も混じっていたんだなぁ。
私はそもそも、四人がどういう人物かということを知らない。付き合いなんてなかった。そんなの当たり前だ。違う時代から来たのだから。そんな状態で、一体彼らをどうやって戻せばいいんだろう。
時が彼らを癒してくれることはないのだろうか。

「「「あんこさーん!」」」

振り向くとそこには一年生達が座っており、手招きをしている。
一緒に食べましょうと声をかけてくれた。お言葉に甘えて彼らのいる机へ腰を下ろす。座るり彼ら一年は組の自己紹介が始まる。こんなに大勢、流石に覚えるのは大変だが無理矢理にでも頭に叩き込んだ。聞けば彼らは十になったばかりの子が多いようだった。私は甲賀の里に生まれ、そのままずっと忍者としてあらゆることを叩き込まれた。ここの学園はそれに比べれば優しい。こんな感じで忍者になれるのか不思議なくらいにだ。

「あんこさん、伊作先輩は元に戻りますか・・?」
「うちの鉢屋先輩は」「七松先輩は?」「綾部先輩も!」

さっきまで元気にご飯を食べながら話していたのに、急にしおらしくなってしまった。ずっと気にしていたのだろう。山田先生は低学年には牢に監禁していることは言っていないとおっしゃっていた。真実は伝えないほうがいい。
ただ、利用できるものはどんどん利用していこうとは、思っている。

「皆は先輩方とどういった関係なの?」
「忍術学園は委員会という組織が存在しています。全部で九つ。全学年が自分たちの好きなところへ立候補して入るんです。僕は学級委員長委員会で鉢屋先輩と一緒です」
「伊作先輩と私は保健委員会です」
「僕は七松先輩と体育委員会です」
「綾部先輩は作法委員会で僕と一緒の委員会です」

なるほど。それぞれ医学やら体術やらに特化している組織、か。関わりがあるのも頷ける。それにこの優しさで溢れる学園だ。きっと家族のように仲が良かったのだろう。

「四人を元に戻すよう全力は尽くすけど、皆にも困ったときに協力して欲しいの」
「はい!」「もちろんです!!」
「私、元々その四人がどんな人だったのかっていうのを知らないの。どんな性格で、どんなことが得意で、好きなものとか、嫌いなものとか。元に戻すための第一歩としては彼らのことをよく知らなきゃいけないと思ってる。だから皆にはその四人のお話沢山聞かせて欲しいんだ」

一瞬ぽかんとした顔をしていたが、またすぐに笑顔に戻り元気よく頷いてくれた。
早く帰るっていうのは難しそうだけど、帰れなくはなさそうだと感じた。




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