04

「本当に助かった。なんとお礼を申し上げて良いか」

なぜ帰れない。

「この御恩は一生忘れはせん。だから、戻れるまでここにいたらいい」

何故だ、
目の前にいるのはここの学園長である大川平次渦正殿で、向き合って話をしている。夜が明けてから、少ししかたっていない。あの三人の話では、願ったことを叶えればすぐに帰れるということだったのに、私は今もここにいる。どういうことだ。

「なに、そんなに急くな。まじないを実行した者たちをここによんだ。その子達からきちんと何を願ったのか聞けばいい」
「・・・はい」
「どれ、入っておいで」
「「「「失礼しまーす!」」」」

大人数の声が聞こえ、そこから数え切れない程の子供たちが入ってきた。
あの時の三人の姿も見受けられる。

「「「あんこさんどうもありがとうございました!!」」」

みんな一斉に頭を下げる。その声と表情は随分と変わっていた。清々しいほどの笑顔で、これが本来の彼らの姿だということがよくわかる。
私も彼らに体を向け一礼し、早速本題へと入る。

「私は川西くん猪名寺くん鶴町くんから“天女を殺して欲しいと”頼まれました。そうして深夜、その願いを叶えた。
けれど、元の場所に戻れないのは願いが違うということ。本当は何を願ったのか教えて欲しいの」

尋ねると、少し黙ったあとひとりの少年が前へ出される。一年生だがなかなか凛々しい子だ。

「実は、僕たちもわからないんです」
「わからない?」
「はい、本当に願ったのは“天女を殺して欲しいと”いうことで、それ以外は何も頼んでいません。確かに一字一句同じってわけではなかったんですが、意味としてはこんな感じで・・
その時の本も持ってきたんでよければどうぞ」

そう言って受け取った本の後ろの方に栞が挟まっていることに気がつく。そこには言っていたまじないの詳しい方法が書かれていた。満月の雲一つない夜、このような陣を地面に描き呪文を唱えたあと、願いを三回言う。陣の上に紙切れが落ちたら成功。願いが叶えばそれは消える。
儀式の途中、陣を破ってはいけない。条件を間違えればそれは失敗に終わる。

確かに彼らの言っていることに嘘偽りはない。じゃあ何故?

「本当に、それ以外は何も願っていないのね?」
「・・はい」
「あの!!」

目の前の子がはいと答えた直後、声が上がる。その子は歩いて前に来て、私の顔を見つめたあと急に土下座をした。

「ごめんなさい!!」

四郎兵衛と誰かが言った。二年生の彼は、大きな目からポロポロと大きな雫を落とす。

「ぼ、僕、本当はそれ以外にも一つお願いしたんだな!」
「それは?」
「先輩が、先輩たちが元に戻ってまたいつものように生活できますようにって!」
「・・・・そう」
「本当にごめんなさい!!」

私は怒っていないということを伝えたくて、頭を優しくなでると、驚いたような目でこちらを見てくる。殺されるとでも思ったのだろうか?私ってそんなに怖く見えないとばかり言われるのだが、それはそれでショックだ。

「なんで怒らないんですか・・・」
「だって、それをこなせば帰れる。君はちゃんと言い出してくれたし、それに怒ったって帰れるわけじゃないしね。言い出してくれてありがとう」
「う・・・、はい!!」


その後、一人の教師が、部屋の中へ入ってきた。
天女に周りに居た生徒たちの状況の説明をしてくれた。天女が消えてから、すっかり元に戻ったという生徒がほとんどだという。けれど、そうでもない生徒が数人いるそうでその子達を元に戻せば、私は帰れるらしい。
その生徒というのが、六年の七松小平太、善法寺伊作、五年の鉢屋三郎、四年の綾部喜八郎の四人だという。
それ以外はきちんと目が覚め、今まで起こしてきたことに衝撃を受けているものが大半だが、それでもきちんと前を向いて行動を起こそうとしているものが多いらしい。
名前が出るたびに悲しげな顔を見せた子達もいる。先程の四郎兵衛という少年もそうだった。きっと親しい先輩とやらがいたのだろう。
さて、その人物とやらであったことがあるのは、鉢屋三郎という者。あの時もがいていた男の一人だ。

「後でその生徒を紹介しよう。山田先生に一緒についていけば良い。まずはお主の部屋まで案内する」
「どうぞこちらに」

くノ一の教師と思われる方が襖を開け案内をしてくれる。


・・・・・・


私の部屋は教師陣の近くの空き部屋だった。タンスと小さな机があるだけの普通の部屋。空き部屋なだけに少し埃っぽかったが、掃除をすれば全く問題ないだろう。
そして今は、例の四人のもとへ案内されている。しかしその場所も普通の部屋とかではなく、所謂牢屋。そこへ向かっているのは容易に想像できた。
山田先生は比較的軽傷の者から紹介すると言っていた。軽傷とはと聞いたら、見たらわかる。それだけしか答えてくれなかった。

「まずは綾部喜八郎だ」

牢の前に立たされると中には、ふわふわの藤色の髪をした少女のような子が隅に座っていた。少年は顔を上げこちらを確認する。私に気づいた瞬間その表情は殺気のこもった顔に変わる。これで軽症か。

「あなたが天女様を殺した人ですか・・?」

見た目よりも低い声が響く。

「うん、私が殺した」
「・・・不愉快です。早く消えてください」

山田先生が袖を引き、私はその場を後にする。ほかの三人は一体どうなってる、それにこんな状態の子達を一体どうもとに戻せばいいのやら。
頭を抱えたくなった。




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