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今日も今日とて、ひたすら移動する。そういえばどこまで移動するのだろうか。学園長からの依頼なら、目的地の甲斐まで送ってくれるのだろうか・・?いや、ずっと背負ってだなんてかなり時間もかかるし。七松が確実に一日使っても来れないようなところなら、どこでもいいのだが。

「あんこ、君は元の世界に帰りたいんだよね?」
「ん?うん・・?」
「はは、そんな深い意味はないよ。ちょっとした確認」
「そう」

唐突な発言に少し動揺してしまうが、冷静に考えれば普通の質問に過ぎない。

「こっちの世界はどうだった?といっても半分は監禁されていたから、いい思い出なんてないのかもしれないけど」
「どうだったと言われても、そうだな。おばちゃんの料理は凄く美味しかったかな。あっちに戻ってもまた食べたいと思ってしまうだろうね」
「それは分かる気がするな。任務で長期間遠いところへ行くと、あの味が恋しくなるね。私の第二の母上だ。後はどうだい?」
「んー。そうだな忍術学園は良くも悪くも五月蝿くて、それなりに楽しかったかな。元の世界のことを思い出して辛くなることも多々あったけど、彼らは優しく受け入れようとしてくれた。素直に嬉しかったよ」
「そうか」
「うん」
「私が言いたいのは、この世界でどんなに酷い目にあったとしても、楽しい思い出もそれなりにあって、それは、嘘偽りのないことだということを、忘れないで欲しいんだ」
「・・・そうだね」

それがたとへどんなに奇妙なめぐり合わせだとしても、確かな縁なんだ。

その時、頭上からあの鷲が飛んできた。どうやら誰かからの伝令のようだった。一度立ち止まり、足元にくくりつけられた紙を解く。

“七松小平太が彼女を追って消えた”

「これは・・・」
「急がないといけないみたいだね」
「ごめん」
「気にしないで。仕事とはいえ今はもう君の味方だ。さ、行くよ!」

背負い直し、先程よりも早くかけた。


・・・・・・・


七松小平太が追ってきているとはいえ、既についている差はかなりのものだった。やつの気配は今までしてこなかった。
もうすぐ甲斐の領内へ入れるだろう。

「今一度確認しておくけど、君は元の世界に帰りたいんだよね」
「勿論」
「・・・分かった。止まるよ」
「?」

領内に入ってからすぐに立ち止まり、私を地面に下ろす。
どうしたのだろうか?雰囲気が明らかにおかしい。

「どうした、え」
「・・・・」

何が起きたのか理解ができなかった。彼は立ち止まり背を向けていたが、いきなり振り向き私の首元を掻き切った。止めどなく溢れる血、ふさがらない口。何がどうしてこうなったのだ?

「ごめん。本当に。君を元の世界に返すには、願いを叶えなければいけない。願いは“先輩たちを元に戻して、いつものように生活をしたい”
曖昧な願いだよね。“いつものように”というのは“君がいなかった”この世界のことを指す。中在家くんが教えてくれたよ。罪滅ぼしのためにね。七松くんはこのことを知っていたから君を殺さなかった。別の理由もあったんだろうけど、片足だけを切ったのはそのためだと思う」
「っ、ぁ・・・」
「苦しいね。でももうすぐ君は帰れる。元の世界に。許してくれとは言わない。一生憎んでもらって構わない。
だから、元の世界の仲間に無事に会えるよう、・・・じ・・ぃの」

私の意識は最後までもたなかった。利吉くんは最期になんて言ったのだろうか。というか、ここで死んで向こうでは生きていれるのか?
ああ、ダメだ。何も考えられない。


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