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移り変わる景色に目眩がする。いつも見ていたはずなのに、時間が空けばこんなにも慣れないものなのか。足が使えない今、利吉くんに背負われているから、自分で駆けるのとはだいぶ違うのだが。
利吉くんとは天女の噂を収集している時に出会った。日雇いの仕事をしているとき彼もまた同じ仕事をしていて、そこから色々と情報をもらったのだ。鷲で情報交換をしていたのも利吉くん。忍術学園を案じている彼は非常に友好的で、天女を殺せたのは彼の後援もあったからこそだ。
七松小平太に軟禁されていた小屋から出してもらい、遠くまで逃げている最中だ。食事はしていたものの、動きもせず、ただ黙って月日が過ぎるのを見ていた私の体はかなり痩せていたようだ。以前、外をウロウロしているところを七松に見つかり、足に枷をはめられた。鎖はそこそこの長さだが、行動範囲は小屋の中だけになってしまった。
そんな私をなんの躊躇もなく背負い鮮やかに逃げ出したのだ。肺いっぱいに広がる新鮮な空気に涙が出そうになった。生きていると思ってしまった。あそこにいた私は確かに生きてはいたが、死んでいたも同然。動けず、ろくに喋らず、見るものも変わらない。誰の損にも得にもならない。(七松には特になっていたのかもしれないが)“外の世界は”こんなにも綺麗で素晴らしくて・・。

「今日は一日中移動の予定だけど大丈夫?」
「うん、問題ない」
「了解」

さて、逃げてはいるものの、奴はいつ逃げ出したことに気づくのだろうか。いつここまで迫って来るだろうか。七松の体力と脚力に関しては羨ましいと感じてしまうほどのものだ。今気づいたとして、本気を出せばすぐに追いついてくるだろう。利吉くんが万に一つ負けるようなことはないとは思うが、私がいる。非常な手を使えば形成なんてすぐに転がる。だが、嫌だ。もう、あそこへは帰りたくはない。


・・・・・

しばしの急速ということで、安らげるとは言えないが見つかりにくい森の中で腰を落ち着けた。彼は腰の竹筒を一口含み、残りを渡してくる。手でそれを制し、いらないということを伝える。それよりも聞きたいことが山のようにあるのだ。

「今少し質問してもいい?」
「ああ、わからないことばかりなんだろ?」
「うん」
「急いでいるから今はひとつだけ。後は野宿の時にでも」
「分かった。そうだな・・・なんであの場所がわかったの?」
「んー。学園長に伝えて話し合いをして、怪しいと思われる生徒を監視してたんだ。それに情報収集は忍の専売特許だろ?かなりの時間がかかっちゃったけどね」
「そう・・・」
「さあ、行こう。体力はまだもつかい?」
「うん」

心配をしているようだが、私は何もしていない。寧ろ利吉くんの方が何倍も体力を使っている。私、このまま元の世界に戻ったとして忍としては生きていけない。いや、普通に働くことすらままならないかも知れない。訓練次第でどうにかなるのかもしれないが。幸村様はこんな私でもお側で仕えさせてくれるだろうか。


・・・・


動物たちも深い眠りにつく頃、私たちはしばしの休息を取っていた。少しの携帯食と水を飲み、腰を下ろして疲れを取る。見張りは私が勤めるが、眠る前にここまでの経緯を話してくれるらしい。

「君からあの救援の包帯が届いた時、正直助けに行く気はなかった。天女も死んだし、学園も元に戻ったと聞いていたからね。でも、父上に用事もあったからついでに聞いてみようと思って学園まで行ったんだ。それが救援をもらってから一月くらい。
学園へ行ってみても特におかしな様子もなかったし、学園長に聞いてみたんだよ、あの包帯も見せてね。そしたら神妙な顔つきをしてね、僕に、正式な仕事として君を助けるように依頼したんだよ」
「学園長・・」
「それから情報集めだね。学園の生徒以外の人達におかしな事がないか聞いて、生徒たちには君の事についいて聞いた。怪しいと思ったのが鉢屋くんと七松くん。蜂屋くんは君について聞いたとたん動揺して、口数が少なかった。対して七松くんは特に気になることはなかったんだけど、他者の意見で外での鍛錬が明らかに増えているって聞いたんだよ。普通に考えれば、能力が落ちたからそれを取り戻すためにしていることだと思うだろ?でも、一緒に鍛錬をしている仲間が言うには、一人で学園から離れたところに行くといっていてね。どこでどういう鍛錬をしているかということを、全くと言っていいほど把握してないみたいだった。それで彼を中心に君を探していたら、あそこを見つけたわけだ。まさかあの七松くんが君を監禁していただなんて、夢にも思わなかったけどね」

彼はそのあと明日も早いと言って、眠りについた。
学園長と、彼に感謝した。


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