24

 

あれから考えるのを放棄して眠りについた。起きた時には朝日が昇っていた。七松がかけていったであろう薄めの寝具、枕元にはお握りがいくつか置かれていた。マメな男だ。昨日よりも足の痛みは引いていて、動くのも楽になっていた。楽になったからといって、相変わらず這いずるわけなのだが。
お握りを持ちまた外へ出る。小鳥のさえずりが聞こえる気持ちのいい朝だ。米をいくつかつまみ地面へ投げる。そこへ恐る恐る小鳥が舞い降り確認したあと、それを啄んだ。しばらくしても倒れる様子は見られない。毒などは入っていないか。私を生かそうとしているが、腱を容赦なく切る男だ。信用ならない。
外に座ったままお握りを頬張る。これはきっとおばちゃんが握ったおにぎりだ。形も、味も似ている。暫しの幸福な時間が流れた。

腹を満たし指笛を何度か吹くも、鷲は一向に現れない。
今は陽が高いから昼に近いんだろう。昼はきっとこないだろう。天女のことがあってから、授業は詰めて入っている。休む時間も減ったということ。ただ彼も忍の端くれ、いや、玉子か。ほかの人間の目を盗むくらいは可能だろう。

少し熱くなってきた。木陰へと移動し、再び考える。七松小平太は一体どの時点でこうなったのだろう。初めて会ったのは天女を殺すとき。一瞬ではあるが刃を交え、天女を殺した。そしてその次は拘束されていた牢の中。話しかけても反応はなかった。何度かその後も同じことの繰り返し。そして、中在家長次の言葉で開放をした。きっとこの時点では既に今の状態だった。では、おかしくなったのは牢にいたとき?何がきっかけだ?会話なんて成立していない。中在家長次が何かを吹き込んだ?いや、そんなことをして彼になんの得になる?ないな。まさか一目惚れ・・・?いや、それこそない。そんなもの信じてなんかいないのだ。

私が帰れないのは七松小平太が元に戻っていないから。どうしたら元に戻る?記憶を消す?どうやって。彼の手の届かないところまで逃げる?いや、無理だ。あの目。真っ黒なあの瞳。逃げることができなかった。情けない話だが、怖かった。まるで伊佐那海(イザナミ)のよう。それとも、私がこの世を去る?いや、それは学園長との約束を放棄することになる。
考えても行動ができないというのは何とも侘しいものだ。
指笛を吹いてから少し時間が空いたので、もう一度吹く。定期的に吹いていればいつか届くだろう。
ピーと空高く響き、しばしの静寂が訪れる。すると遠くの方から鳥の羽ばたきが聞こえてきた。急いで空に目を向けるとぽつんと黒い点が。それは徐々にこちらに後下してくる。

「良かった!」

でも、紙の代わりになるもの・・・足に巻いている包帯をちぎり、傷を抉る。

「っふぐぁ」

その血で包帯に“捕まった 助け求 忍術学園”と書き記す。乾いていないから、包帯同士で重ならないよう慎重に結びつけ、再度飛ばす。どうか、ばれることのないよう飛んでくれ。


・・・・・



あれからどれくらいの月日が流れただろうか。私が忍術学園に来たのは初夏。今はもう秋が過ぎようとしている。こちらの世界に来たのは春。もう一年が過ぎようとしていた。これから来るのは厳しい冬。だんだんと肌寒くなってきていた。
七松小平太はというと相変わらず時間を見つけてはここへと通い、ひたすら話を聞かせてきた。学園のこと、実習のこと、学友のこと、そして私が好きだということ。
今はまだ忍たまだから養っていくための力はないけれど、卒業と同時に住む場所を変え、子をなし、ずっと一緒にいようと語っていた。つまり、今はまだ口吸いだけにとどまっている行為も、冬が過ぎればもっと激しくなるということ。生きなければと思ってはいるが、そんなことまでして、本当に生きていたいか?子をなして、皆のもとへ帰るなんてこと・・・。

やはり天女への協力をしてくれた忍も所詮他人。私を助ける義理はないということか。それとも学園に直接送れば良かった?いやそれでは完全に七松にバレてしまうことになる。そう、頼れるとしたらそこしかなかったのだ。
七松が卒業する前に、自決を

「幸村様・・・佐助くん・・・」

大好き・・・



「あれ、以前あった時より随分と痩せちゃったみたいだね」

不意に聞きなれない声がして振り返った。その姿に驚き、瞼がぐっと持ち上がる。

「久しぶり、あんこ」
「利吉・・くん」


20171224


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