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目を覚ますと視界に入る情報よりもまず、体に激痛が走る。痛みの元はどうやら左足。ゆっくりと目を向けると、足の血が拭き取られ手当されていた。なんだこれは。寝転されているところはどうやらどこかの家屋のようで、枕がわりに布の塊が置かれていた。誰かが介抱してくれた?いや、それよりも捕まった瞬間。あれは間違いなく七松小平太。そこから意識がなくなって・・・。それから今までの間に一体何があった?なんで私は怪我なんか。それに、誰がここへ。立ち上がり状況の確認をしようとしたが立ち上がることができない。なんだ?怪我をしているから立てないという感覚ではない。まるで足の神経が切れたよ・・・まさか!?体を起こし、結ばれた包帯を必死に剥ぐ。そして傷がどこについているのか、確認した。

「嘘・・・」

最悪の事態だ。足の腱が切られている。すっぱりと、的確にその部分は切られていて、やったのは完全に戦闘慣れしている者。一般人が分かっていてやったとしても切り口が綺麗すぎる。切ることに長けているものじゃないと出来ない芸当だ。つまりこれは・・七松小平太がしたこと?いや、なら何故傷の手当てまでして、こんな家屋に寝かせておくのか。一連の行動の意図が全くわからない。包帯を巻き直し、這いずりながら外を見る。見たこともない景色だ。周りを見て位置を把握したいけれど、この状態ではそんなこと到底できない。渋々中に戻り、探索をしてみるも、武器になりそうなものも移動の補助になるものもない。何もない。

「何だもう起きていたのか!」

脱力していたところに七松の声が聞こえた。後ろを振り返ると、魚を二三匹持った七松小平太がいた。

「腹が減ったろう、魚を取ってきたから焼いて食べよう!」

懐から木の枝を取り出し、慣れた手つきで魚を刺し囲炉裏の周りに置いていく。
何もなかったかのように平然と行動する彼に、動揺を隠せない。それに気づいたのかガハハと笑い始める。

「変な顔をしてどうしたんだ」
「あ・・・なんで」
「何がだ?」
「なんでこういう事になっている。私は学園を出て、君に・・・襲われた・・?」
「?そんなの私が連れ戻してきただけだ」
「は?」

さも当たり前のように言う彼に、理解が追いつかない。

「だから、なんで・・・学園側から私追いかけてくることを禁じられていたはず」
「ルールは破るためにあるものだぞ?」
「いや、だから!」
「ん〜?何を難しいことを考えているんだ?簡単に説明してやろう」

向かいにいたはずの七松は、私の隣まで来て距離を詰める。近い。それに、逃げられないよう腕も掴まれる。

「私はお前が好きだ!」
「は」
「だから連れ帰った!元の世界なんか知ったこっちゃない。私のそばにずっといろ」
「何を言って」

腕に込められる力がどんどん増していく。それに、目が・・

「私から離れることは許さない。ずっと、一緒だ」
「いっ」

ミシリと腕が嫌な音を立てる。

「そこで左足の腱は切った!ふふふ、我ながら名案だと思ったぞ。両足だと流石に可愛そうだと思ってな、片足だけにしておいた。傷が残っても気にはしない。それは私がつけたものだし、離れていくことがないという証みたいなものだしな!」

ニコニコと笑う彼に恐怖した。何を言っている?正常な思考を全くしていない。もともとこういう人間なのか?いや、彼らから聞いた情報だとこんな人物ではなかったはず。まて、そうしたら中在家長次は?もしかしてこの事を分かっていたのか?だから私が帰れないと言っていたのか?これでは七松が元の状態ではないから。
くそ、嵌められた・・・。

「おっと、魚が焼けたな。うーん済まないな。そろそろ学園の方に戻らなければ。また来るからな!待っていてくれ!」
「ん!?」
「はは、じゃあな!」

不意に口吸いをかまし、元気に走っていった。パチパチと囲炉裏の音だけが聞こえる。

七松小平太の言っていることは本当のことなのか?今起きた少しの時間がまるで夢の中のことのように感じる。不意に手が足をかする。痛い。その傷が、今起きたことは夢なんかじゃない。紛れもなく現実であることを知らしめる。


「生きていればどうにでもなる。死んではそれまで。これから先ここに留まることになろうとも、いつかは帰れるかもしれん。だから、生きなさい。どんなに辛くて寂しくても、生きなさい」


そうだこんなところで、止まってなんかいられない。私は生きなきゃいけない。

完全に七松の気配が消えたことを確認し、外へと出る。七松は先ほど学園へと戻ると言っていた。すなわちここから学園まではさほど遠くないとみえる。いや、あれはかなりの体力馬鹿というやつだ。そこそこの距離があるかもしれない。でも、可能性がないわけではないのだ。
力の限り指笛を吹く。反応がなくても、何度も何度も指笛を吹く。しかし空には雲がゆらりと浮かぶだけでこちらで飼い慣らした鷲の姿は見当たらない。

「駄目か」

聞こえていないのか、近くにいないのか、存在を消されたのか。何にせよあまり宛にはできないだろう。ではほかに頼れる連絡手段は?人も周りにはいないだろう。周りは鬱蒼とした森だ。通っても山賊の類か、同業者か。では野生動物を手懐ける?自由に動けない今では難しいだろう。
くそ。


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