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明朝


門の前には学園長と先生方何名か、あと食堂のおばちゃんもいる。手にはなにか大事そうに包を抱えている。生徒たちには朝、集会を開いて私のことを知らせるそう。それなりに懐かれていたから追う者も出てきそうということで、早い時間にここをたたせてもらう。

「見送りありがとうございます」
「行くあてはあるのかの?」
「とりあえず、また甲斐に戻ってみようともいます。何もなければ、小さな村で腰を落ち着けます」
「忍びとしては生きてゆかぬのじゃな」
「私の主は、幸村様ただひとりですから・・」
「うむ、己の道を信じて進みなさい」
「はい」

固く握手を交わし、お互いに微笑む。隣からおばちゃんが駆け寄ってきて、手に持っていた包を差し出してくる。

「これは」
「おばちゃん特性おにぎりよ、道中食べていってね」
「ありがとうございます!」

温かい手に包まれて「いってらっしゃい」と押し出される。また優しさが心にしみる。離れがたくなってしまう。

「では、行きます。ありがとうございました」

あえて、別れの言葉を聞かず学園を飛び出した。これ以上この優しさに浸かってはいけない。冷たいやつと思われてもいい。元の世界に体だけ戻ってしまうことになる。心をここに置いてはいけないのだ。


・・・・・・


忍術学園はざわついていた。朝、突然の集会があり、そこであんこがこの学園から去ったことが伝えられた。悲しむ者が大半で、低学年になればなるほどそのものは多かった。去った理由の“元の学園には彼女はいないから”ということは伏せられた。それは学園側と彼女の要望で、きっとある生徒を悲しませるからと。“役目を終えたため旅に出た”という偽りの理由で。
きっかけを与えた五年生の間では、やっぱり三郎があんなこと言うから!と余計に責め立てられていた。本人もまさか本当に出て行くなんて思ってもいなかったので、かなり思いつめていた。それを横目に六年生たちも何やらざわついていた。あの一番騒がしい七松小平太の影が見当たらない。

「さっきまでここにいたのに」
「大方厠かどこかだろう」
「あいつだってそれなりに仲良くしていて、しかも恩人だぞ?流石にそれはねぇだろ」
「長次は心当たりあるのか?」
「・・・・・いや」
「ったくどこいったんだよあいつ」


・・・・・・・・・・

誰かの日記

本当は全て知っていた。なぜ彼女が帰れないのか。なぜ小平太がいないのか。彼女はこのあと最悪の結末を迎えるかも知れないことも。でも、自分は何も止めなかった。むしろ、進んで手助けをした。親友の願いのために。誰もが幸せになる方法は、どれだけ考えても見つからなかった。だから、見ず知らずの彼女よりも親友のことを優先した。申し訳ないという気持ちはある。彼女がもし、帰れず、自由も奪われたらと思うと苦しい。きっとこの苦しさを一生背負って生きて、誰にも告げずに生きていくことになるだろう。だが、それでは私は潰れてしまう。だからここに吐き出すと決めた。人に話すわけではない。紙にすべてを吐き出す。誰にも見つからないよう書いたら燃やす予定だ。そうすればこのことは私と、この日記だけの秘密になる。一人でこの事を背負わずに済むのだ。
狡い人間だ。でも、仕方ない。仕方ないのだ。

・・・・・・・・・・


そこまで急ぐ必要もないので、学園を出てからはゆっくりと観光気分で歩いている。改めて見て思うが、本当に過去なんだなぁと変な感じになる。ここに来るまでは周りに目もくれずひたすら急いでいたから、そんなこといちいち気にはしなかった。家も、道具もどことなく様式が古い。面白いという感情が出るということは、それなりに気持ちに余裕が出てきたんだろう。穏やかな気持ちのまま小さな町を出て、甲斐までの道を歩いた。

小道に木々が増えてきた頃、空が陰り始めた。分厚い雲が太陽を覆ったのだろう。雨が降りそうな雰囲気ではないが、念のため木の下を選んで歩く。地図は貰い受けたが、ここらへんの土地勘は当たり前だが全くない。夜までには村にでも出れるだろうか。野宿は何度も体験しているが、慣れない土地だ。出来ることなら宿を取りたいものだ。目の前の草むらががさりと大きく動く。少し警戒すると、野うさぎが出てきてそのままどこかへ行ってしまった。ほっとしたのも束の間、後ろに誰かが降り立った。
まずい!と思ったときには鳩尾に一発入っていた。

「がっ!!」

薄れゆく意識の中で、不意打ちを仕掛けてきた者の顔を確認した。けど、それはここにはいないはずの人物で。

「勝手に離れていくなんて、許さないぞ」

どうして七松小平太が





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