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中在家長次から聞いたことを報告すると、すぐに七松小平太の拘束を時学園へ戻す計画が始まった。私、学園長、先生方で地下の牢へいく。作業は滞りなく行われた。二人で慎重に彼を下ろし、一つ一つ拘束具を解いていく。鍵が付いている物もあれば、ただの縄だけのもある。その間はずっと戦闘態勢をとり、攻撃してこないかどうか警戒を続けた。最後の手の拘束を外した瞬間彼から大きくて長い溜息が吐かれた。

「やああああとここから出られるんだな!すっかり体がなまってしまった・・・」
「まずはここから出よう。立てるか、七松」
「大丈夫だァ!とおっとっと!はは、少しだけ難しい、手伝ってもらってもいいだろうか先生」

大きな声で、豪快な喋り方。だが人懐きのよい笑顔で、彼が後輩たちに慕われる理由がわかる気がする。こんなところで話すのもと、学園長を先頭に、暗くジメジメしている牢から外へとでた。


・・・・・・


中在家長次の言っていたように、彼は元々天女に心酔はしていなかったらしい。気持ちとしては女友達ができた感じだったとか。そういえば前に立花仙蔵もそんな事を言っていた。彼もまた観察能力に長けているのだろう。彼はすぐに後輩や同級生の元へ向かっていった。
私といえば、又しても彼の言ったとおり“帰れない”という現実に落胆した。中在家長次は七松小平太が元々普通の状態だったことを知っていたから、私が帰れないことを予測していたのだろう。だとしたら、何がダメなんだ?元に戻っていない人物が居る?それとも天女は死んでいない?いや、あの子は確実に殺した。あの後火葬だってしたのだ。

「あんこさん、落ち込む気持ちもわかるが切り替えねばなるまい。今すぐにとは言わんが、気持ちの整理が付いたらまた来なさい。忍術学園はこの恩を忘れはせん。戻れるまでここにいたら良い」
「痛み入ります」



一人与えられた部屋から外を眺める。考えることは、なぜ帰れないか。どうしたら帰れるか。もう一度思い出してみよう。
呪いは、雲一つない満月の夜、陣を描き呪文を唱え願いを三回唱える。紙切れがその中央に落ちれば成功の証。
紙には“妃あんこ呼び出し完了”と書いてあった。
願われたことは、“天女を殺すこと”。それと“先輩たちを元に戻して、いつものように生活をしたい”ということ。
目的は果たした。そうだろう。天女に心酔するものはもういない。天女自体も殺した。いつもの生活も、七松小平太の拘束をといた今、完璧なものになった。
間違えていないのだ。なにも、間違えては・・・。

頬を涙が伝うのがわかった。目頭も、鼻も熱くなっていない。生理的に出てきてしまったのか、感情が乏しいのか。今はそんなことすらどうでもよかった。これが夢なら良かった。全部悪い夢だったら。
目を覚ましたら、朝日が差して、身支度を整えてから辺りを見回りし、佐助くんやアナさん、六郎さん、筧さん、清海に弁丸くんに挨拶をして、ご飯を食べる。才蔵と伊佐那海、鎌之助が騒々しく起きてきて、筧さんが怒鳴って佐助くんが才蔵を挑発して戦いが始まる。別の場所では六郎さんが幸村様を怒鳴りながら起こして、それを花街から朝帰りの甚八さんが元気だねぇと嗜める。
そんな毎日がまた来ると信じて、目を閉じた。


・・・・・・・


ゆさゆさと誰かに揺すられている。誰だ?誰かが入ってくる気配で起きられないとは、疲れていたのと精神的に来ていたのだろう。目を開けその人物を見ると、先程まで拘束されていた七松小平太がいた。

「おお、やっと起きたな!」
「・・・何故ここに」
「お礼を言いに来たんだ」

体を起こし、向かい合うように座る。

「学園を元に戻してくれてありがとう!」
「いや、そんな・・・それに君に関しては間違って監禁していたことになる」
「ああ、確かに動けないのはキツかったがそれも過ぎたことだ。細かいことは気にするな!!」

細かいこと、なのか?

「お礼に我が体育委員会に招待しようと思ってな!皆もお礼を言いたがっている!さあ、いくぞ!!」
「え、ちょ」
「いけいけどんどーん!!」

話も聞かぬまま腕を掴み走り出した。さっきまで立つのも難しいと言っていた。戦った時から思っていたが本当に力が強いな。あの時よりも力も体力も瞬発力もぐんと落ちているはずなのに。一体彼のどこにそんなものが残っているんだ。


・・・・・・・


体育委員会に着くなり、他の生徒たちに抱きつかれ「ありがとう」と泣かれた。その中には、あの時もうひとつのお願いをした時友くんもいた。何をどうしたらいいのかわからず、とりあえず背中や頭を撫でてあやすと余計に泣かれた。なんで。七松小平太に関しては近くで大声で笑っていて助ける様子はないようだった。とにかく泣きやむのを待つしかないようだ。

「よし、それじゃあ手始めに裏裏山までランニングだ!」
「「ええええ」」
「な、七松先輩、もうすぐ夕餉の時間ですから!!それに先輩もいきなりの運動だと体がついていかないと思うので、もう少し優しいのから鳴らしたほうが!!」
「何を言っている滝夜叉丸。優しいだろ」
「え、あの」
「優しくないすよ・・」
「優しくありません」
「ないんだなぁ」
「細かいことは気にするな!!」

なるほど、これが噂の暴君というやつか。先程も有無を言わさず連れてこられたし。これは苦労するだろうな。何をするか討論会が始まり、それを眺めているのだが、見ていた微笑ましい。嫌だ嫌だとは言ってはいるがとても表情が柔らかい。羨ましい。彼は、自分の居場所に帰ってきた。彼らもまた望んでいた人が帰ってきた。私は・・・。あちらの皆は心配をいてくれているだろうか。

「あんこさん!」

大きな声で名前を呼ばれ咄嗟に顔を上げる。ニコニコとした顔で七松が見ている。

「あんこさんは、バレーとランニングどっちがいい?」
「バレーですよね!?」「バレーの方が楽しいですもんね!」「あんこさん!」

後ろの後輩たちは必死にバレーというものがいいと懇願しているようだった。そんなにランニングとやらは嫌なのか。というか七松のことも考えるときっとバレーというもののほうがいいのだろう。

「じゃあ、バレーで・・」
「うーんそうか、なら仕方ない」

そういって激しい激しい戦いが始まった。結論から言おう。会計委員の六年生潮江文次郎に怒られている。
バレーを知らないというと一から教えてくれた。簡単に言えばボールを落とさないことを競う遊びだ。やったことはないが反応さえできれば、そこそこ動けた。が、そのことにより彼に火が付いた。ありえないほどの強さのボールが飛んでくる。いくつも。こんなことをいつもしているのだろうか。恐ろしすぎないだろうか。というか怪我をしないのだろうか。そんな時彼の打ったボールは一つの部屋へ飛んでいき、今の状態だ。

会計委員も慣れているのか、潮江以外はいそいそと片付けをしている。

「七松先輩が戻ってきて、やっと元の忍術学園に戻ったって感じだなぁ」
「んなこといいから早く片付けろよ団蔵」
「でも、左吉もうれしいだろ!」
「う・・・嫌ではないけど」

未だに言い争いをしている彼らに目を戻す。七松はいつもの調子で「気にするな」なんて言ってるが「戻ってきた途端これとは、アホか!!!」とかなり起こっている様子。でも皆それを微笑ましく見ている。

私はなんで、帰れないんだろう。
見ていて、微笑ましくて、それが顔には出るのだが、頭の中はそれしか浮かばなかった。



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