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中在家長次の話を聞くために図書室まで来た。彼は授業以外は大体ここか、自室か、自主鍛練をしているかときいた。今は授業が終わって少し。委員会活動はこういう時間にすることが多いので、彼もきっといるだろう。「失礼する」と声をかけ入ると、一年生と二年生の三人が目にはいる。

「あ、あんこさんこんちはー」
「こ、こんにちは…」「こんにちは!」
 
中在家長次がいるかどうか聞いたところ、奥の禁書が置いてある場所で整理をしているとか。今回のことで低学年が禁書に手を出した。そのためより強固に手を出しにくくなるよう、先生方と用具委員が本棚を改造し、図書委員長がそれを並べ直している、とか。それを今一、二年生から聞いたのもどうかと思うが、まぁ、そこは深く突っ込まないでおこう。
 
突如、天井からのびている紐を引っ張る能勢くん。すると奥の方から音もなく中在家長次が現れる。奥の方で作業をする彼に来客を知らせるための仕掛けか何かだろうか。
実際に会うのは多分初めてだ。思っていたよりも体つきがガッチリしていて筋肉質だ。ただ、好戦的な感じではなさそう。どちらかと言えば大人しそうな感じ。図書委員というのにも合っていると思う。こんな彼が、七松小平太とそんなに仲が良いということに多少驚くが、見た目だけで判断できることではないということは百も承知だ。

「もそ」
 
今なにか喋ったのだろうか、と首をかしげるときり丸くんの顔がここぞとばかりに輝き、隣によってくる。何でも彼と話すのは慣れた人ではないとかなり難しいといわれるほど、小さい声だとか。学園一寡黙らしい。通訳してくれるらしいが、どうやら金をとられるみたいだ。背に腹は代えられないし、しぶしぶ懐から取り出そうとすると、縄が飛んできた。それはきり丸くんの体に巻き付き拘束する。訳がわからず飛んできた方を見ると、中在家長次が不気味に笑っていた。一瞬ではあるがゾッとした。なんでこの男、後輩を拘束して笑っている!?
 
「ほらー、きり丸通訳代なんか求めるから」
「ひ、ひい!中在家先輩怒っちゃった」
「せ、せんぱーい!わかりました、わかりましたから!普通に通訳しますし、あと大きな声だすのもやめますから!」

慣れた様子で彼らがそういうと、拘束は直ぐにとかれた。笑っていた訳じゃなくて、怒っていた、のか?不思議すぎる。


彼の提案で私室へと移ることになった。規則には厳しいようだ。先程きり丸くんを拘束したのも、規則を乱しかけたから。移るのも、大きな音を立てないことと、そもそも私語は禁止という規則があるから。本当に何故こんな真面目な男が、七松小平太と仲がよいのだろう。そればかり疑問に思う。
それと通訳はきり丸くんではなく、移動直後に図書室にきた不破くんにお願いした。内容が内容だけに、低学年の子達には聞かせられないことなので、交代してもらった。
 
「もそ」
「改めて、六年ろ組中在家長次です」
「妃あんこです。いきなりだけれど、あなた……七松小平太の面会に、頻繁にいっていると情報が来ているのだけれど、本当なの?」

不破くんが「えっ」と声を漏らし隣の彼を見る。目が合うだけで、返事が返ってこない。口も動いていないから、声が小さすぎるという訳では無さそうだが。表情も変わらない。心情を全く読み取れないことから、彼は優秀な忍びになるだろうなとは思うが、今はそんなことが知りたいんじゃない。しかし、この沈黙は後ろめたいことがあるから来てるものなのか、それとも特に理由はないのか……。
 
「もそ」
「あ、えっと、それは本当です」
「酷いことを聞くけれど、今の七松小平太は喋れない、動けない、拘束が厳重な状態。そんな彼に頻繁に会いに行って、何をしているの?面会するのには、手続きもかなり面倒なはず」

まただんまりが続く。自分で聞いといてなんだが、純粋に心配しているんですと言われれば、それまでなのだ。それに、そう思っていたとして、こんなこと聞かれたら困るのもわかっている。
 
「もそもそ」
「あなたは、学園の皆が元に戻れば帰ることが出来るんですよね?」
「?ええ」

質問で質問に返してきた。それにその質問の意図もよく分からない。
 
「もそ……」
「そうですか」
「もそもそ、もそ」
「一、二年が読んで行った呪い(まじない)本を見たのですが、貴方がこちらの世界にきたのは……べ、別の理由があるかもしれないです。って、え!?」
「それ、どういうこと?!」
 
信じるものに値するのかは分からないが、自分がかなり動揺したことは、はっきりと分かった。何故そんなこと彼が知っている?七松小平太のことを誤魔化すためのハッタリかもしれない。けれど……、駄目だ。冷静になれないのは、それだけ元の世界に帰りたいという欲が強くなってるということ。
 
「もそ、もそもそ」
「小平太は多分ではありますが、既に元に戻っています。というか、小平太は天女に溺れてはいませんでした」
「もそもそ」
「確信はありませんが。
拘束されている小平太に色々話をしました」
「もそ、もそ……もそ」
「そうすると、瞬きで返事をしていることに気づき、質問を色々しました。何故こんなに拘束されているのか、他にも拘束されているやつらは大丈夫なのか」
「もそもそ」
「多少驚くこともありましたが、拘束を解いても問題ないと思われます。が」
「そこで、問題になるのが貴方です……」

初めて聞き取れた声は、地のそこから響くような低さだった。七松小平太から殺気を感じられない理由は、これなのだろうか。
  
「貴方を呼び出したとされる願いは、天女を殺すこと。そして、元の学園生活に戻ること。小平太が拘束状態だから戻れないというなら、なにも言うことはありませんが……。私の予想があっていれば、恐らく小平太を学園に戻しても、貴方は帰れない」

帰れない。嘘でも聞きたくない言葉だ。いくら仮定の話だとしても、ここまで精神的に来るとは思わなかった。頭が重い。不破くんが心配そうな顔でなにかをいっているようだが、うまく聞き取れない。落ち着け、こんなの、忍び失格だ。
 
「わかった。先生方にその事を話してみて、七松小平太を牢から出してみる」
「ありがとう、ございます」

彼は綺麗に頭を下げ感謝をのべてくる。そんな大層なことはしていない。それに、私ではなく先生方や学園長に話せば同じようなことが出来たであろうに。学園に天女に関することを任されてるとはいえ、何の許可なくやってるわけではない。信じていないわけではないが、どうも腑に落ちない。冷静に判断できない、今の自分が憎い。
 
 


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